第78話 VS黒騎士 次戦(2)
「不味いわね……ご主人様が押され始めてる」
激突の様子を映す眷属の視界にも目をやりながら、ルーテシアは国民の避難を視野に街中にも目を光らせ始めていた。
「サフランまで斬ったのは間違いなくあのトラック気とか言うオーラね……困ったことに主力のサフランが完全に怯えているわ」
ルーテシアはそう言って五十鈴を一目見た。
「五十鈴さん、ごめんなさい。いざとなったら国民の避難を任せても良いかしら?」
「ルーテシア殿、それはどういう……?」
「ご主人様はアタシに任せてくれたけど……こうなったらアタシも一緒に戦うわ!」
「けれどルーテシア殿も見たでしょう? あの黒騎士の強さを」
「そうね……アタシが行ったところで到底敵わないでしょうね……でも、夫がやられそうなのを黙って見ているなんてできない!」
「敵わないと解っていながら、どうしてそんな無茶を……」
「それは……アタシが史上初のペット妻だからよっ!」
ルーテシアの邪眼に一点の清み無し。
「とっくに死ぬ時は一緒くらいの覚悟で嫁いだの、アタシは!」
そう言い残してルーテシアは城の窓から糸を巧みに使って飛び出して行った。
「どうして……どうして皆、そんなに強いのです……?」
五十鈴は苦悩していた。
「私には久遠殿のような内政の才も無い。かと言って、運殿を支えられる程の武勇も無い……」
そして自分の手を見つめる。
「諦めたくない……諦めたくないのに……」
見つめる手に落ちる涙の雫。
「私は、本当に運殿の妻でいて良いの……?」
気付けば涙を流していた。
その時だった。
「諦めたら、そこで全て終了ですよ」
誰もいない筈の空間に響く声。
「誰!?」
五十鈴が顔を上げると、そこにいたのは一人の精霊だった。
小太りで顎の下の贅肉は弛み、白髪で初老の風貌である。
「私の名はノーム。皆からは地の大精霊などと呼ばれておるよ」
「地の……大精霊……?」
「ウチのアーシーズ達が世話になっておるからの……君達のことはずっと見ておった」
「そうだったのですね……いつも自然の恵みを有難うございます」
「いやなに、シルフの奴に面白い者達がいると聞いていたものでな」
「風の大精霊シルフ殿? しかしシルフ殿は公国軍との戦いの中で黒騎士に……」
「やだなぁ。僕だってそう簡単にはやられないよ」
また別の声が響き、同時に一陣の風と共に現れる若き風貌の精霊。
「シルフ殿!」
「やっほ~! 五十鈴ちゃん、久しぶり~!」
「無事だったのですか?」
「いや~、正直だいぶキツかったケドね。少し前にようやく力を取り戻して、ノームと一緒に君達の様子を見ていたんだ。オクヤの里も無くなっちゃったしね」
「そうだったのですね……しかし、お二人はどうしてここに?」
ノームとシルフは顔を互いに合わせてから答えた。
「単刀直入に言おう。私達は、君達と共に歩むことにした」
「そ。まずは手始めに、あの黒騎士をやっつけちゃおうか」
「……え?」
驚く五十鈴。
「何を驚いているんだい五十鈴ちゃん。あの時は僕も負けちゃったけど、今はノームも、君もいるじゃないか」
「でも……以前の私は、黒騎士を相手に一太刀も……」
「五十鈴さん。そろそろ自分を信じていい頃だ……今の君はもう十分あの頃を越えているよ……なぁに、私達も力を貸そう」
「そんな……四大精霊であるシルフ殿やノーム殿が?」
ノームとシルフはにこやかに笑った。
「本当は僕達もね、あの国王さんに興味があったんだ。だけどね、彼は僕達の力が無くても十分に強いじゃないか」
「それに、彼の魔法の才能はからっきしの様子だしの」
「それに比べて五十鈴ちゃんは魔法に長けたエルフの中でも魔法の才がズバ抜けている」
「おまけに、図ったように君が扱える属性は土と風だ」
「!!」
「もう、僕達が言いたいことは解るね?」
「私とシルフの組み合わせは四大精霊の中でも最も凶悪ぞ? 何せ地と天を同時に統べることになるのだからの」
五十鈴は驚くばかりで言葉がまるで出てこなかった。
「どうだい五十鈴ちゃん。僕達を、使役してみないかい?」
「とりあえず、君はエヒモセス一の精霊使いになりなさい……そう、君は強い!」
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