第77話 VS黒騎士 次戦(1)


「サフちゃんっ!」


 トラックから降りるなり、即座に久遠は二つに切られたサフランに駆け寄った。


「ぽ……よ……」


「良かった生きてて、待ってて!」


 すぐさま切られたもう片方をすくって合わせた。


「ヒール」


「ぽよぉ……」


「うん。恐かった。恐かったね……」


 久遠は震えるサフランを抱きしめた。


「急いでダイナちゃん達もヒールしないと……」


 久遠はサフランを抱きしめたまま、空から撃ち落されて遠くへ落ちた2人を目指して走って行った。


 その場に残された運と黒騎士は暫く無言で向き合っていた。


「久しぶりだな」


「……」


「ウチのモンがいきなり失礼したな……が、どうやらあんたはウチの客じゃなさそうだ」


「……」


「大陸中の争いに顔を出すって言われるあんたが、戦争が無くなってどう思ってんのかって考えてたところなんだ」


「……」


「戦禍を撒き散らすには、俺が邪魔か?」


「……」


「いい加減、目的くらい話してくれたって良いんじゃないのか?」


「……」


「なら、俺達には正面衝突しかねぇぞ?」


「……」


「俺を、あの時と同じだと思うなよ」


 運が飛び出す構えを取ると、黒騎士も片足を一歩引いて構えた。


「へぇ。あの時は確か、構えてもくれなかったよな」


「……」


「なら、まずは挨拶代わりだっ!」


 飛び出すトラック。そしてそれを片手で受け止める黒騎士。しかし黒騎士の足は地面を抉りながら後退していく。


「オラァ!」


 運が更にアクセルを踏み込むと、堪らず黒騎士はトラックを左方にいなした。


「どうしたよ? もう片手じゃ止めてくんねーのか?」


「……」


「なるほど、解ったぜ。その微かに光った手、前に俺様の突撃を片手で止めてたのは、そのトラック気の力だったんだな」


「……」


「だが、それでももう簡単に防げる程、俺との実力差は無いってことだ」


「……」


「ならドンドン行くぜっ!」


 再びトラックで迫る運。しかし今度は黒騎士が斧槍を振り被るのが見えたため、即座にフォークリフトモードに切り替えて2本のブレードでそれを受け止めた。


「からの、ゼロ距離ロケットスタート!」


 斧槍の勢いが止まった一瞬をついてトラックに換装し、無防備となった黒騎士にゼロ距離からの突撃を向けた運であったが、その突撃は空を切った。


「くそ、流石に前回と同じ手は通用しないってか……だが」


 運が首を向けた先に、悠然と佇む漆黒のトラック。


「……ようやく出したな、本体のトラックを」


「……」


 ゴッ! っと風を切る音と共に何の脈絡も無く最高速度で飛んで来る漆黒のトラック。


「オラァッ!!」


 迎え討つ運。正面から衝突する2台のトラック。


「ぐ、あ……カ、カウンターウェイト!」


 正面からのぶつかり合いに押し負けそうになり、運は堪らずスキルの加算によってその場を凌ぐ。


 僅かな角度のズレによって頭を擦り合うように擦れ違う2台のトラック。


「くそ……まだ地力で負けてんのかよっ!」


 2台のトラックは互いの隙を探すように一定間隔で円を描き旋回する。


「なら魔法か……? いや、前にあいつには通用しなかった……やはりトラック同士になると力で押し切るしかねぇようだな」


 暫く旋回を続けていると漆黒のトラックは挑発するようにパッシングを打ってくる。


「フザけやがって……だが、地力で負けてる以上、反応と技術で勝つしかねぇ!」


 挑発に乗って運は突撃をし、黒騎士もまたそれを迎え討たんとす。2台のトラックは円の中心で再びぶつかり合いながら擦れ違い、また別の角度からと何合も打ち合った。


「ここだっ! ウインカーフェイント!」


「……!」


 相手の意識を僅かに奪った隙に、運のトラックは一瞬にして黒騎士の視界から消えた。


「今だっ! 食らえっ! インパクトアァースッ!!」


 そして隙を突いた一撃は、見事に漆黒のトラックの横腹に突き刺さった。


 堪らずに吹き飛んだ漆黒のトラックは地面を横転しながら激しく横滑りして停止した。


「やったか!?」


 荷台を大きく歪ませた漆黒のトラックに暫く動きは見られなかった。


「トラックがあれだけ強いんだ、もしかしてドライバーは俺様と同じように生身の人間と大して変わらないんじゃないか……? だとしたら、あの衝撃じゃあ気絶してても不思議はないはずなんだが……」


 そう言っている間に、漆黒のトラックは一度武装を解除して黒騎士の姿に戻った。


「やっぱ、そう上手くは行かねぇか……しかし」


 黒騎士は地に片膝を付いていた。


「悪くねぇ……どうやら、もう絶対に勝てねぇって相手じゃねぇな」


 三菱紋の斧槍を杖代わりに体を起こす黒騎士には少なからずダメージが見えた。


「行けるっ! ここは一気に畳み掛けるっ!」


 そう言って追撃を仕掛けようとした運であったが、その動きは土壇場で止まった。


 黒騎士が再び出現させたトラックが黄金のオーラを放っていたからだった。


「くそ。トラック気……やっぱ使えんのかよ。ダイナ達が敵わねぇ訳だ」


「……」


「だからってタダでやられてやる訳にはいかねー。こっちもデコトラモードで地力を底上げするしかねぇ」


 すぐさま対応するように威圧を放ち始める運のトラック。


 しかしそれは、かつて運自身が見せてきた力量の足跡から考えても、不穏な流れを払底できないものであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る