第70話 夕べはお楽しみでしたね



「ここは何処だ……?」


 運が深く霧掛かった森の中を歩いていると、やがて開けた場所に出た。


 そこには一面に広がる色とりどりの花、そして楽しそうに跳ね回るスライム達。


「はは、何てのどかな風景なんだ……」


 そしてそこへ何処からともなく現れる久遠、五十鈴、ミュー、フィリー、カレン、セレナ、ダイナ、ついでにルーテシア。


「お、みんなも花見か?」


 無邪気に花やスライム達と戯れる女性陣であったが。


「ふははははー。ボク達はわるいスライムだぞー」


「「いや~ん!」」


 突如、女性陣にまとわり付き始めるスライム達。それらによって女性陣の衣類はみるみる溶かされていく。


「「たすけて~!」」


「任せろっ! すぐ助けてやる!」


 運は女性陣に駆け寄って、その体に纏わりつくスライムを掴み取ろうと手を伸ばした。


 スライムは すばやく みをかわした!


「やぁっ、お兄ちゃん、そこ違うぅっ」


「あんっ、運殿、私のも違いますっ」


「わ、悪い、スライムが思ったより柔らかくて……じゃなくて素早くて!」


「は、運さん、揉んでるの、スライムじゃないよぅ~、あぁ~ん」


「運、えっち……んっ」


「すまん皆、わざとじゃないんだ! くそー、わるいスライムめ」


「運様、私のも揉んでくださいまし……あっ!」


「運お兄ちゃん、私……変な気分になっちゃうよぅ」


「くっ! 一人ひとり形も大きさも違うから、簡単にはスライムが取り除けない!」


「ご、ご主人様ぁ……ボクと合体して追い払えばいいよぅ……ね、合体しよ……?」


「ああん。ご主人様、んっ、手付きが、いつものよしよしと違うぅ……」


「う……俺も、意識が薄れてきて……ルー、何故かお前まで人間の姿に……?」


 事態は収拾がつかなくなった。


「お兄ちゃん……私達、もう待てないんだからね?」


「運殿、そろそろ私達からも攻撃させてもらいますよ?」


「ど、どうしたお前達。そ、そうか。わるいスライムに体を乗っ取られて……」


 彼女らは甘い吐息と共にスライムを運に押し付けて来た。


「くそうスライムめ卑怯な。俺には仲間を傷付けることなどできはしない……」


 迫り来るスライムの群れに運の体は押し潰され、揉みくちゃにされた。




「ぬわーーっっ!!」


 運は窒息死させられそうになったところで目を覚ました。


「知らない天井だ」


(ここは温泉旅館の客室か? ……そうか、俺は温泉で気を失ったのか)


 周囲を見渡す。周りにはだいぶ緩んだ部屋着で寝ている7人の女性とルーテシア。


(何で皆が揃ってるんだ? そうか、俺、まだ気を失って夢を見ているんだな)


 運は見てはいけないものにそっと蓋をするように再び目を閉じた。


「だ、駄目です運殿、そんなこと……ああん」


 その時、隣から運の頭を胸に手繰り寄せてくる五十鈴。


(相変わらず寝相が悪いな五十鈴の奴……しかし、う。息が出来ん、これは現実か!)


 運は力強く五十鈴の胸に押し付けられて呼吸困難となった。


(さ、流石は五十鈴。出会った時から気付いてはいたが、形、大きさ、全て完璧だ……)


「あんっ。運殿、ここから先は責任問題ですぅ……むにゃむにゃ」


(やはり……俺は……間違って……なかった……が……ま……)


 運は呼吸困難で再び眠りに就いた。




「お~い、お兄ちゃ~ん。そろそろ起きてよ~」


「ん? どうした久遠、もう朝か?」


「もうとっくに日は昇っていますよ、運殿」


 頬を染めた五十鈴が横から言った。


「運さん、昨日はあんなに揉みしだくから……」


「運、ねぼすけが過ぎる」


 ミューとフィリーも顔を赤くしている。


「なにっ!? 何でミューとフィリーまでいるんだ!?」


「それはですね運様。昨日はここにいる女性陣で、一国の未来を左右する大事な計画の会議があったからなのですよ?」


「運お兄ちゃん……私、私……はううっ」


 カレンも心無しか視線を逸らすし、セレナに至っては両手で顔を覆ってしまった。


「カレンにセレナまで……一体、何が起きたんだ? 一国の未来? 計画?」


 状況を理解できていないのが自分だけと知り、運はまずゾエの姿を探した。


「家族補完計画……ご主人様よ。ワシは、ワシは……もう何も言えん」


 ゾエはただ窓際で外を眺めているだけだった。


「なにっ!? 俺が気を失ってる間に何があったんだ? 誰か教えてくれ!」


「ご主人様……ボクもちょっと、そうなったら良いなって思っちゃったんだ……」


「こ、これからもアタシのこと可愛がってくれるなら、別に良いわよ……」


「ダイナ、ルー! それじゃ解らないって! それに何で皆して赤くなってんだ」


「「ばか……」」


 女性陣は皆頬を染めていた。


「お兄ちゃん。そろそろ……責任を取ってもらう時期が近付いて来たから……覚悟はしておくんだよ?」


「なに? 責任? 何のことだ?」


 結局、女性陣から運にそれ以上が語られることはなかった。


 女性同士の秘密は無理に聞いてはいけないものだと自分に言い聞かせてみたものの、温泉旅館を出る際に受付の女性に言われた言葉は運を更に混乱に陥れるものだった。


「夕べはお楽しみでしたね」

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