第68話 わるいスライムでも人間でもないよ


 五十鈴の電話によって呼ばれたダイナは運、ルーテシア、ゾエを連れて山岳地帯まで飛んできた。


「あ~っ!! サフランちゃ~ん!」


「ぽよっ! ぽよよっ!」


 ヒシッ! とダイナとサフランは抱き合った。


「うんうん。寂しかったんだね~。それで? ふんふん、みんなが帰って来ないから街に行こうとしたら迷子になっちゃったの? そしたら久遠さん達を見かけて、ボク達の話をしてたからついて行ったら? そ~なんだ~。手作りのお菓子を貰ったんだ~。良かったね~」


 ダイナがサフランの台詞を代弁する様を運達は呆然と見ていた。


「……ダイナの奴、何で話が通じてるんだ?」


「私もさっき一瞬だけ、サフちゃんの声が聞こえたんだけどな~」


「私には聞こえませんでしたから、きっと久遠殿にだけ聞こえたんだと思います」


「例え一瞬でもそれは凄いことよ? アタシやゾエだって長いこと一緒にいるけど、サフランの声は聞こえないもの」


「感情豊かな表現や姿を変えるジェスチャーで何となく言いたいことは伝わるがのう……心を通わせた相手にだけ通じるものがあるのじゃろうなぁ」


「そうなんだ……じゃあ、私ももっと仲良くなれるように頑張ろうっと」


 久遠はそう言ってダイナと楽しげに話すサフランを見た。


「え~!? それじゃあサフランちゃん、お菓子があんまり美味しかったものだから、久遠さんのペットになっちゃったの!?」


「ぽよ~!」


 サフランはそう言ってダイナから飛び跳ねると久遠に吸い込まれるように抱っこされた。


「わっとっと。駄目よサフちゃん。落ちたら痛いでしょ?」


「ぽよよ~……」


「わっはっは。四天王最強のスライムが見事に飼い慣らされておるわ」


「「四天王最強っ!?」」


 驚く運、久遠、五十鈴。


「ん? なんじゃ知らなかったのか。体の色を見れば解るじゃろう? こやつはかのレインボースライムじゃよ」


「「レインボースライム?」」


「そうじゃ。物理耐性や全属性耐性だけでなく、体の状態すら七色に変化する稀有なスライムじゃ。気体、液体、固体、プラズマ、光波、精霊体……と、なんじゃったかの?」


「情報体でしょ。アタシこの間、山に入って来た機動兵器トラクターにウイルスみたいに入り込んで、乗っ取って遊んでるのを見たわ」


「きっと強さだけなら不死の魔王より強いよね、サフランちゃんは」


「なんだそのチートモンスターは……」


 運は一歩引いた。


「ぽよよんっ!」


 サフランは胸を張った。


「見事ワシらを負かせたご主人様も、例えば気体化された上で毒を撒かれたら流石に死ぬしかあるまい?」


「それはアタシ達もでしょ、ゾエ」


「ぽよよ~っ!!」


「2人とも、ボクはそんなことしないよ~! ってサフランちゃん怒ってるよ?」


「わははは……冗談じゃよサフランや」


「とにかく、ご主人様もサフランは敵に回さない方が良いわ」


「……そうするよ」


 大人しく頷く運にダイナが補足する。


「心配しなくても大丈夫。サフランちゃんはわるいスライムじゃないよ」


「それが解っただけでも安心できるよ」


 運は胸を撫で下ろして言うが、五十鈴が続ける。


「しかしそうなると……サフラン殿が久遠殿に懐いている以上、なんと言いますか、逆らってはいけないものに逆らってはいけないものが掛け合わさってしまったかのような絶望感が……いえ、凄みが出て来ましたね」


 一同、言葉も無かった。


 その代わりに久遠に集中する妙な視線。


「な、なに? 私、わるい人間じゃないよ?」


「ま、まぁ何にせよ良かったじゃないか。強力な仲間が出来たうえ、お前らもまた仲良く一緒に暮らせるんだからさ」


 取り繕うように運はまとめた。


「ぽよ~っ!!」


 それで一番嬉しそうにしているのはサフランであった。


「ところでじゃ、ご主人様や。どうじゃろう、ワシ等とも一緒に遊んで仲良くなったのじゃ、親睦を深めるためにもサフランと手合わせなどしてみては如何かな?」


「お、俺が? 聞いてた話じゃ無理だろ~」


「そうかのう? 属性魔法は効かんが物理無効と言う訳でもないし、ご主人様のとんでもない突撃であれば渡り合える気がするのじゃが……」


「いや、気体とか精霊体とか、非実体化されたら終わるんだが」


「それはどうかの?」


 ゾエは言った。


「ワシとの戦いの時、ご主人様が放っていた黄金のオーラ……ワシはあのオーラに不思議な力を感じたのじゃ。もしかするとあのオーラを纏ったご主人様のトラックならば、非実体にも問答無用! とばかりに突撃が通用するような気がするのじゃが……」


「そうなのか?」


「詳しいことは解らん。が、詰まるところワシは、ご主人様の力が見たいだけやも知れぬ」


「ふむ……」


 運は少し考えた後にサフランに向け言った。


「それじゃあ一発、突き合ってみますか」


「ぽよっ! ぽよっ!」


「遊ぼう遊ぼうって言ってるよ、ご主人様」


 こうして運とサフランは向き合って構えることになった。

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