第66話 VSモンスターテイマー ~ キミにきめた! ~


 飛空挺発着場の建設予定地に近付き、ダイナは運とルーテシアを背に乗せて空から舞い降りた。2人を背から降ろすと同時に人型の姿に変身する。


 会議室で全裸になっていた一件以来、久遠の強い意向により変身しても破れない魔法の力が込められたダイナ専用の服が開発されていたのだった。


 そして運が2人を伴って歩き出した時のこと。


(ピコーン!)


 脳裏に電子警告音が鳴ったような気がして運は立ち止まった。


「何だ? ナヴィ、呼んだか?」


「いいえマスター。どうやらナビの誤作動のようです」


「そうか。なら良い……って、何だこれ、歩けねぇ」


 そこへ草むらの中から声が上がる。


「対戦相手、ゲットだぜー!」


 そして飛び出して来た赤い帽子の少年が真っ直ぐに歩み寄る。


「目と目が合ったらモンスターバトル!」


「いや、目どころか君の姿も見えてなかったんだけどな」


「お兄さん、オレとバトルしようぜ!!」


「聞けよ……君は一体誰なんだ」


「オレ、サトラタウンのマサシ! 夢はモンスターマスターになること」


 マサシは肩に黄色い小動物を乗せていた。


「こいつは相棒の電気猫ピカニャン


「ピ、カ、ニャ~ン」


「お兄さん、この辺りで有名なテイマーなんでしょ? オレと勝負してください!」


「人違いだろ? 俺は日野運、ただの運転手だ」


「またまた~。そんなに強そうなモンスターを連れてテイマーじゃないとか有り得ないでしょ~。トリッキーそうな虫タイプに、パワー系のドラゴンタイプか~。めっちゃ強そ~!」


 マサシはキラキラと目を輝かせている。


「おうおう、こんな所でなに油を売っておるんじゃ?」


 そこへ発着場建設予定地の方からゾエもやって来る。


「で、でっけー! 既にデカマックス状態かよ~、スッゲー!!」


 マサシは恐れ知らずにもゾエの足に飛び付いたりしていた。


「で、ご主人様よ。こやつは一体何なのじゃ?」


「いや、人違いで絡まれているんだが、どうにもさっきから身体が動かなくてな」


 そこでマサシは得意げに人差し指で鼻の舌を擦って言った。


「オレの固有スキル『バトルしようぜ』は相手を強制的にバトルに引き込むんだ」


「なんて迷惑なスキルなんだ……しかし、君は見たところそんなに強そうじゃないな?」


「オレもテイマーだからね! 言ったでしょ? モンスターバトルさ。手持ちのモンスター同士を戦わせるんだ」


 運はチラリとダイナ達を見た。


「ご主人様、ボクは良いよ? 少しこの子と遊んであげようよ」


「仕方ないわね……付き合ってあげるわよ」


「ワシもサイズ感さえ合えば構わんのじゃがのう」


 3人は新しい試みに対し台詞以上に興味を示している様子だった。


「はあ……変な強制バトル効果もあるし、これは完全にバトルする流れだな」


「よっしゃ~! そうこなくっちゃ~!」


 マサシはガッツポーズをするが。


「だが断る」


「「えええ~!?」」


 マサシも含めて一同は肩透かしにあう。


「大体このバトル、俺に何の利益もねぇ」


「オレに勝ったら、賞金としておこづかいが貰えるんだぜ?」


「俺には子供から巻き上げるような趣味はねーよ。それに君のモンスターはその電気猫だけなんだろう? こっちは数も多いぜ?」


「オレにはこのチートスキル『四次元ポシェット』があるから平気さ。この中に沢山のモンスターが入ってるんだぜ? チートのちからってすげー!」


「どう考えてもポシェット入口の大きさ的に入らない気がするんだが」


「オレにはゲットしたモンスターを小さくするスキルもあるんだ! だからポシェットに入るモンスター、縮めて……」


「縮めんで良い!」


 運はマサシの言葉を遮った。


「おい、聞いたかゾエ。俺達が探し求めていた縮小スキルが目の前にあったぞ」


 運の興味は完全に縮小スキルへ向かっていた。


「なんだ、結構良いスキルもん持ってんじゃねーか。 悪いがそのスキル、勇者として頂いておこうか」


「ボ、ボクにはとても勇者の台詞には聞こえないよぅ」


「フッ、ご主人様も遂に邪眼に目覚めたようね」


「秒で前言撤回、巻き上げる気満々じゃのう……」


 仲間達からの白い視線を浴びながら運はマサシに拳を突き出して言った。


「とにかく良いぜ。そのバトル乗った!」


「よっしゃ~! そうこなくっちゃ~!」


 マサシは帽子のツバを後ろに回した。


 サトラタウンの マサシが しょうぶを しかけてきた!


「ピカニャン! 君に決めた! 百烈ボルト!」


「ニャニャニャニャニャニャニャァーーー!!」


「ルー、いとをはけ」


「はいはい」


 ルーテシアから放たれた鋼糸はドスッと鈍い音を立てて電気猫に突き刺さった。


 こうかはばつぐんだ!


「ピカニャーーーーン!!」


 勝負中にも関わらずマサシは電気猫に駆け寄るが、既に電気猫は『ひんし』であった。


「くっそー! なら次はオレの切り札! 火蜥蜴ひとかげドン、君に決めた!」


「えっ!? 電気猫、気にしてやんないの?」


「火蜥蜴ドン! チョデカマックス!!」


 運の電気猫への心配はさておきバトルは進行、マサシの腕から不思議な光が放たれ、ポシェットから飛び出した火炎竜のようなモンスターは巨大化した。


「行くぜ超大獄炎! カイザーフェニックス!!」


「こいつはデカいな。ゾエ頼む。しっぽをふれ」


「ふむ……わしにやれ と いうんだな!」


 バチコーンと尻尾の一薙ぎで攻撃ごと吹き飛ぶ火蜥蜴ドン。


 こうかはばつぐんだ!


「ぐ ぐーッ! そんな ばかなーッ! いとをはけ、しっぽをふれ、って最弱の変化技じゃないのかよー!?」


 しかし現実問題として火蜥蜴ドンが『ひんし』であることに変わりはなかった。


「くっ! 弱い火蜥蜴ドンなんていらない!」


「えっ!? 君、さっきから結構酷くない?」


 マサシは 混乱している!


「こうなったら、みんな出てこい!」


 マサシは 訳も解らず 手持ちのモンスターを 全て同時に 呼び出した。


「こうなったら全員攻撃だ! プレイヤーにダイレクトアタック! 海竜、破壊光線!」


「あーもう面倒くせー。ダイナ、テキトーに頼む」


「解ったよご主人様! 滅びの火炎疾風弾バーニングストリーム!!」


 こうかはばつぐんだ!


 海竜の破壊光線など無かったかのようにマサシ陣営は全滅した。


「わははは~! 粉砕! 玉砕! 大喝采ぃー!!」


 ダイナは得意げに腰に手を当て胸を張り、高らかに勝利宣言をした。


 マサシは めのまえが まっくらに なった!


「よし! キメに決めたぜ。後は俺がこいつを異世界送りにすれば縮小スキルをゲットだ」


「ちょ、ちょ、ちょ! ご主人様、やめたげてよお」


 今にもトラックで突撃しそうな運との間にダイナが割って入った。


「どうしたダイナ。こいつだって今、俺を攻撃しようとしただろ」


「そうだけど可哀想だよ……もう止めて。この子のライフはもう0だよ」


 マサシはしばらく意気消沈していたが、やがて立ち上がる。


 疲れて 動けなくなった モンスターたちを かばいながら マサシは 急いで モンスターセンターに 戻るのであった。


 その情けない後ろ姿を見送りながら残念そうに運は呟いた。


「あ~あ、折角の縮小スキル取得の機会をだな……」


 しかしその表情はナビ画面を操作している途中で変わってくる。


「お? 何故か縮小スキルを取得したことになってるようだぞ? もしかするとテイマーは手持ちモンスターを全滅させれば勝利した扱いになるのかも知れないな」


「やったぁ~」


 ダイナは両手を広げて喜んでいた。


「さて。思わぬところで時間を食ったが良いスキルも手に入った。これでゾエも街中を歩けるサイズまで縮小できるな」


「おお! 流石はご主人様! それは有り難い。これからはこのゾエ、いつでもご主人様に付き添ってその身をお守りしますぞ」


「では早速。スキル発動、ポチッとな」


 ゾエの巨体はたちまちに縮んで両手に乗るくらいのサイズに納まった。


「うっわ~! ゾエ可愛い~!」


 目を輝かせてダイナはゾエを覗き込んだ。


「俺も驚いた。小さくなると迫力が可愛さに変換されるな」


「ワシ、かわいい……」


「とっても可愛いぞ~。よ~しよし、ゴロゴロしてやるからな~」


「うわふ、くすぐったいではないかご主人様よ……だのに、これは意外と悪くない」


 それに怒ったのはルーテシアだった。


「ちょっと待ちなさいよゾエ! ご主人様の一番のペットはアタシ! アタシなんだからね! ご主人様! アタシもよしよしして~!」


「ルーテシアちゃん、いつの間に心まで完全なペットに……? って、違うよ! 一番最初にご主人様の仲間になったのはボクだよ!」


「なんじゃお主等、たまにはワシがゴロゴロされても良いではないか」


 やんややんやと騒ぎ出す運のモンスター達。


「ぬうぅ……こうなったら誰が一番なのかご主人様に選んでもらおうではないか」


 モンスター達の視線が運に集中する。


「え?」


 突然話を振られて戸惑う運。


「ここに3匹のモンスターがおるじゃろ?」


「……え?」


「好きなのを1つ選ぶんじゃ」


「…………え?」

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