第65話 VSベヒモス(4)


 トラックとドラゴンの合体により、トラックに翼や爪の生えた飛んでいるのにとんでもない代物『竜通戦士ドラッグーン』が完成した。


(ダイナ、聞こえているか?)


(うん! ボク、とうとうご主人様と合体しちゃったよ)


(意思疎通も普通に出来るようだな)


(うん! ボク、身も心もご主人様に捧げるよ!)


 その変わり果てた姿にゾエも驚いていたが、その身から発される凄まじい力を感じ取って豪快に笑った。


「ご主人様よ、一つ頼みがある」


「何だ? 俺様、お前の主人になった覚えはねーぞ」


「そう言わんでくれ……ワシとてもうご主人様に敵わぬことくらい解っておるのでな」


「大体、お前ほどデカい奴は街中じゃ飼えんだろ」


「大丈夫じゃ。ちょっと重力魔法を応用すれば、1/10くらいの大きさにはなれるでな」


「それでも数十メートル……無理だろ」


「何とかならぬかのう?」


「まあ……アンには色んなスキルを持った奴等が大勢いるからな、方法は探してやる」


「有り難い……では、戦いに敗れた後はワシもご主人様のお世話になることとしよう」


(ご主人様って、もしかしてモンスターテイマーなの?)


(言うなダイナ。これでも普通のトラック運転手なんだぞ)


(あはは~。でもこれじゃ規格外過ぎて、次の車検通らないよ~?)


(良く知ってんな、車検)


(だってボク、今ご主人様と一心同体だも~ん)


 運にはそう言って身を捩るダイナの姿が目に浮かぶようだった。


「で? お前の頼みってのはアンで暮らしたいってことで良いのか?」


「そうではない。何せワシはまだ負けてはおらんからのう……ワシの頼みは、最後の一撃まで手を抜かず、ワシを戦闘不能にまで追い込んで欲しいと言うことじゃ」


「変態か?」


「そうではない……全力を用いても敵わず、その圧倒的な力を以てワシを制する者が一体どれほどのものなのか……ワシの興味はもうそこへ移っておるのじゃ」


「なんだ、楽しみが出来てんじゃねーかよ」


「お主のおかげでな、ご主人様よ」


「なら、一撃で終わらせるのは勿体ねーな?」


「おうおう、その意気じゃ。ワシとてそう簡単には死なんのでな……全力で頼むぞ」


 そして両者は静かに呼吸を整え向き合った。


「行くぞご主人様よ! デス・ボールッ!!」


 重力魔法を用いたゾエの身体は小さく丸く圧縮され、暗黒の球体となって飛び出した。


「来いっ!! 真・インパクトアァースッ!!」


 激突。そしてその結果、打ち負けたゾエの巨体は上空へ高く打ち上げられた。


「ぐううっ……だが、まだじゃあ!!」


 上空から打ち下ろしブレスの構えを取るゾエ。


「させねぇよ! ドラゴン昇龍覇ァッ!!」


「ぐはあっ!!」


 まるで大瀑布が天に逆流するかのような激しい突き上げの一撃がゾエの反撃を封じる。


「燃えろ!! 俺様のオーラ! トラック流星拳ッ!!」


 更にゾエの上空に回り込んだトラックから打ち下ろされる1秒間に100発は超える光速のトラック突撃がゾエの巨体をくの字に曲げて地上へ叩き付ける。


「がはあっ!!」


「まだまだ! お望み通り、トドメをくれてやるっ!」


「ま、待たれよっ! 参った! これ以上はオーバーキル……」


 身動きも取れない状態で必死に叫ぶゾエの声も最早運には届かなかった。


 慈悲もなく追い討ちを掛けるように空中から撃ち落される5発の弾丸。


「エヴォリューション・タイヤ・バーストォ!! グォレンダァ!!」


「ぐわあああああああっっ!!!!!」


 大爆発の後、ゾエは完全に意識を失い、全く動かない状態と成り果てた。




「お、お兄ちゃん……この子、本当に治しても大丈夫なの?」


「は、運殿の器の大きさ……が現れているのでしょうか?」


 呆然とする久遠や五十鈴を何とか説得してゾエは回復された。


「ふはは……すまんのぅ、ご主人様のお仲間達よ」


「で? 最小サイズがそれか?」


「そのようじゃのう」


 それでもゾエは数十メートルもの大きさを有していた。


「しかもこの状態は重力魔法の応用で無理矢理押し込んでいるようなもので、言わば腹筋に力を入れている状態に近いんじゃ」


「街中で気が抜けたら?」


「ボンじゃ」


「なら街中を連れ回すのは無理だな。やっぱり何か縮小スキル的なものを持っている奴を探さないと……久遠や五十鈴はどうだ?」


 久遠も五十鈴も首を横に振る。


「じゃあデカ過ぎて駄目だ、お前は山に帰れ」


「そんな殺生な。このゾエ、街の外ででも待機しておりますぞ」


「お、お兄ちゃん……街の外で待機なんかされたら皆ビックリしちゃうよ~……」


「だそうだ。久遠が言うなら駄目だ。ゾエ、ハウス!」


 運はテア山脈の方を指差して命令した。


「ぬ、ぬうう……」


 怯むゾエに対し、運の頭の上からルーテシアが得意げに言った。


「フフン。ここではアタシ達の方がご主人様の役に立つようね」


「ルーテシアちゃんは眷属と治安維持。ボクは防衛魔法としての結界を覚えたよ」


「アタシなんかペットとしてもご主人様を癒してあげられるんだから」


「ボクだってご主人様と合体できるよ! ……そろそろ違う意味でだって」


 ダイナとルーテシアは何故か変な方向に張り合っている。


「ぐぬぬぬ……ご主人様よ、ワシにももっと良い仕事は無いかのう?」


「そうは言っても、デカ過ぎてなぁ……」


 と言い掛けたところで、運は思い付いたように手を打った。


「運殿? 何か妙案ですか?」


「おう。俺、飛空挺が欲しくなった」


「「ひ、飛空挺~!?」」


 一同驚きを隠せない。


「ファンタジー世界の定番だろ。ゾエ、お前は重力魔法で船を引け」


「確かにワシなら人の船を引くくらい造作も無いが……そんなことで良いのか?」


「ご主人様だってトラックで飛べるじゃない」


「それに、ボクの背中に乗っても良いんだよ?」


 テア山脈の3人が首を傾げる。


「バカヤロー。飛空挺だぞ? 船で空を飛ぶんだぞ? これ以上のロマンが何処にあるって言うんだ」


 しかし運の目は本気だった。


「ま~たお兄ちゃんの変な病気が始まった」


「運殿の発想は……ふっ飛んでますね」


 久遠と五十鈴は呆れた目だった。


「何言ってんだ。空路の開発だぞ? ビッグチャンスじゃねぇか!」


「運殿。ロマンと言った後に続けても、こじ付けにしか聞こえないです……」


 肩を落とす五十鈴に久遠が諭す。


「まぁまぁ五十鈴さん。お兄ちゃんの後について行くなら、これくらい許してあげられないと駄目なのかも知れないよ?」


「久遠殿も相変わらず度量が大きいですね……」


「平気平気。どうせ泣かされるのはあの人達なんだから」


 久遠は人事のように言ってのけた。


「よしっ! そうと決まれば大型船と発着場を作るぞ! フィガロと本田に連絡だ! おっと、メカニックの奈治にも声掛けといた方が良いな」


 この場ではない離れた所で、フィガロ、本田、奈治の3人は身震いしていた。

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