第64話 VSベヒモス(3)


 ゾエは寝返りを打って上体を起こし始めた。


「ぐふ……どうやらその力、認めざるを得ないようじゃの。しかしそれが何じゃ? それに何の意味がある? 守るべきものを失ったお主には過ぎたる力じゃ」


 その言葉は運の精神に更なる追い討ちを掛ける。


 しかしその時、ダイナの視界の端に街の方角から僅かな光が射した。


「待って! 違う! ご主人様! あれを見てっ!」


 ダイナの視線が向かう先、アンの方角では今まさに爆炎が晴れようとしていた。


「えっ?」


 驚く運の眼前にも次第に姿を現し始める街の姿。


「計画通り」


 街の建物の上、口の端を吊り上げ邪悪に笑うルーテシアがそこに。


「ルーテシアちゃん! そうか! 邪眼の幻で街の位置をズラしていたんだね!」


「とは言え、急に位置をズラせば不自然となる……とても爆炎の範囲外までズラす時間は無かったわよ?」


「そんな……じゃあ被害は……?」


「それがね、不思議なのよ。見て、この花びら」


「これは……アンの花?」


 街を覆う花びらはまるで結界を張るかのように風に舞っていた。そしてその花びらから思念体の如く浮かび上がる1匹のドラゴンの姿。


「うそ……母さん? 母さんなの?」


 その浮かび上がったドラゴンは優しく微笑み頷くと、やがて光の玉となってダイナの胸に溶け込むように吸い込まれて行った。


「母さんの……魔力を感じる……そうだ、この地は、この花は、ずっとずっと長い悠久のときを、母さんの守る意思を栄養に咲き続けて来たんだ……」


 仄かな光に全身を包まれたダイナは、その身体から溢れんばかりの力を感じ取っていた。


「小癪な真似を……そんな幻では何も守れはせんぞ、バニシングブラスター!」


 今度こそ実体のアンに向かって放たれるゾエの砲撃。


 しかしそれに対しダイナは少しも慌てることなく、むしろゾエに対する憐憫な瞳で飛び立った。その速度は後追いから一瞬にして砲撃の正面に回り込み、それをただ翼の一薙ぎだけで掻き消した。


「なあっ!? あれを掻き消したじゃとぉ!?」


「ボク、解ったよ。母さんの『守る』って強い気持ちが」


「小癪なぁ……」


 そしてゾエから放たれる複数の砲撃。


「ゾエ。君の攻撃はもう、アンには届かないよ」


 ダイナは翼を広げて障壁を展開すると、ゾエからの砲撃を漏れなく防ぎきった。


「滅びの火炎疾風弾バーニングストリーム


 反撃とばかりに打ち返すブレスはゾエの巨体をも吹き飛ばす威力を持っていた。


「ぐおおおおっ! 何だ、ラグナの力でも宿ったとでも言うのか!?」


 ゾエはその巨体を更に後ろに引かせた。


 そしてその眼前に立ち塞がる黄金のオーラを放つトラックに優しい光を放つドラゴン。


「おのれ、おのれ、おのれ……初めてじゃぞ、ここまでワシをコケにした馬鹿共は」


 禍々しく渦巻くオーラを放ちながらゾエはその巨体を宙に浮かせた。


「ならば見せてやろう、ワシの本気をな。ふはは……楽しみだ。この技を繰り出すのは遥か昔、最強のドラゴンラグナとの死闘以来じゃからの……重力魔法を用いたワシの高速の突撃は大災害……下手を打てば大陸そのものをブチ壊してしまうのだ」


 運とダイナは互いに目で合図を送り合って頷いた。


「ゾエ、もうそのくらいで止めておけよ」


「なに? なんだと……?」


「とっくにご存知なんだろ? ……もうお前じゃ俺様、ダイナのどちらにも勝てねぇ」


「ふははは……何を言うか。だからこそなのだ! ワシが最大限の力を発揮できる相手など、何処を探しても存在しないのだからな!」


「それがお前の本心かっ!」


「お主には解るまい……ただ怠惰に悠久の時を貪るだけの生涯が……長い年月の果てに全てのことから興味も失せ、死ぬにも死ねない身体を持ち、それを語らう友もいない……この呪いが、お主に解るはずなどあるまい!」


「止めてゾエ! それなら、ボクが友達でいるから!」


「ふはは……若いなダイナ。そうではない、そうではないのじゃ」


「ただ、力を発散させたいみたいなようだな」


「そう、そうじゃ……全ての興味が消え失せたワシにとって、元より荒野がどうなろうとどうでも良い話であったのじゃ……じゃが、そこへダイナやルーテシアのような強者が次々と敗れるような存在が現れたと言うではないか……」


「それで、ボク達を試すようなことをしたんだね?」


「気がついておったのか、ダイナよ」


「さっきの砲撃も、微妙にアンから照準がズレてた……もしかして最初の砲撃だって、邪眼の幻だったことに気がついていたんじゃないの?」


「ふははは……止めよダイナ。それを言えば本気で戦おうとはしなくなるじゃろう?」


「何だよそれ……本気でブチ切れた俺様がアホみたいじゃねーか」


「おうおう、ご主人様よ。まさか今更戦えぬとでも言うのではあるまいな?」


「安心しろ。お前にはまだ、完全にやきを入れ終わってねー」


「ふははは……ならば良し。久々に血沸き肉踊るのう」


 そう言ってゾエは突進の構えをした。


「構えよ……最後の一勝負じゃ」


 運とダイナは再び目を合わせた。


「ダイナ、ここは更に圧倒的な力で捻じ伏せる」


「うん! ボクはどうしたらいいの?」


「俺様とダイナで、スキル合体を使用する」


「うん! ……って、ええっ!?」


「嫌か?」


「そ、そんな訳ないよ……で、で、でも……ボクが思ってたのとちょっと違う……」


「いいからホレ、やるぞ」


「う、うん。解ったよ」


 それからトラックとダイナはその身を寄せた。


「行くぞ! ダイナっ!」


「来てっ! ご主人様!」


「「トラック合体!!」」


 トラックとダイナは光の玉となって融合し、その姿を露わにする。


「「竜通戦士! ドラッグーン!!」」


 バアァーーーーンッ!!

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