第62話 VSベヒモス(1)


 運はトラックで、ルーテシアはダイナの背に乗ってそれぞれテア山脈に向かって飛び立ち、山間部でゾアと対峙した。


「おうおう。羽音が煩いと思えばお主等じゃったか」


 ゾエの顔の高さで立ち塞がるトラックとドラゴンを前にゾエが言った。


「ゾエ。一応聞くけど、アンに何の用がある訳?」


 ダイナの背からルーテシアがゾエを睨み付けた。


「アン? 知らぬな。荒野には昔も今もこれからも、何も存在せぬはずじゃがな」


「やめてよ! 今や荒野にはご主人様やボク達の街があるんだ」


「ダイナよ。その言葉、偉大なるドラゴンラグナが聞けば悲しむぞ」


「そんなことないよ! アンの花は街でとても大事にされているんだ」


「お主の母ラグナはワシですらまるで敵わぬ強大な存在であったが……哀れなことよ」


「ボクは力だけが全てじゃないことを知ったんだ。ご主人様と出会って」


「ならば今一度思い出させてくれようぞ。力こそフォース。力こそストレングス。力こそ……パワーなのだと」


「駄目だこいつ……早くなんとかしないと……」


 ルーテシアは目頭を押さえて言った。


「ご主人様、解ったでしょ? こいつ脳筋だって」


「十分だ。力で止めるっきゃねーようだな」


「ふはは……たった3匹のアリが恐竜に勝てると思ったのか?」


「勝つ! 俺達の街を壊させはしねー!」


「おうおう、好きに言え。ワシはただ散歩をするだけじゃ」


「なんだと?」


「ワシが小バエを相手にする訳が無かろう。ワシはただ歩き、景色を眺め、霜を踏み鳴らすようにその感触を楽しみ、再びテア山脈に帰るのみよ」


 ゾエはそう言って再びその重々しい足を持ち上げ、アンに向け歩みを始めた。


「その過程で街が一つ消えようがワシの知ったことではないのだ……お主らも帰る場所が無くなればテア山脈に戻って来るのじゃろう?」


「そうはさせねー。それ以上進むなら容赦しねーぞ」


「ワシは構わんよ? 小バエが集る程度のこと」


「なら遠慮はしねぇ! 全力で叩き込む!」


 運はトラックで突撃した。


「食らえっ! インパクトアァースッ!!」


 激突。しかしゾエの前進が止まることはなかった。


「ふむ……小バエは失礼、虫刺され程度には効いたものじゃな。が、散歩のお供にそれくらいの刺激もまた一興じゃ」


「うそ……だろ……? 今の俺様の全力だぞ?」


「ご主人様の突撃でも止まらないなんて……」


「だからアタシ言ったでしょ? こいつはムリ」


「だからって、やるしかねーだろ! ダイナ、お前も頼む!」


「解った! ゾエごめん! ボクもご主人様と一緒に戦うから!」


「なら、アタシは足手まといね。撤退するわ」


「ルー! 住民の避難を手伝ってやってくれ」


「了解ご主人様。……あまり無理しないで。そいつ、命まで取ろうって奴じゃないから」


「街を踏み潰そうとしてる時点で十分ヤベーだろ!」


 運とダイナは戦闘態勢となり、ルーテシアはダイナの背から飛び降りてアンへ向かった。


「行くぞダイナ! 上体が無理なら足を狙え!」


「解った!」


 トラックとダイナは何度も全力の突撃を仕掛けるがまるで歯が立たない。


「チィッ! 足を狙っても駄目かよ!」


「ご主人様! 今こそボクの必殺技を使う時!」


「よし、頼むぞ! 全力でブチかませっ!」


「「滅びの火炎疾風弾バーニングストリーム!!」」


 ダイナから放たれる業火が直撃するも、ゾエはまるで無傷であった。


「ふはは……ダイナよ、お主の炎はラグナに比べるとまるで火遊びのようじゃの。そんなではワシの体に火は通らんよ」


「くぅ……悔しいけど、今のボクでは敵わないよぅ」


「ダイナは一度引けっ! 遠くから援護を頼む!」


「解った! ごめんねご主人様!」


 ダイナは上空へ距離を取り、ブレスでの遠距離攻撃に徹する。


「インパクトアァースッ!! インパクトアァースッ!!」


「ふはは……虫が喚いておるわ。どれ、ようやく街が見えて来たようじゃのう」


 トラックは全力の突撃を繰り返すが何の効果も無い。


「随分無駄な努力をするものじゃな……そんな攻撃がワシに通用する訳がなかろう」


「くそ! 止まれ、止まれ、止まれ、止まれぇーーー!!」


「街が蹂躙されるところを見るのはさぞかし辛かろうな……ふははは」


「こうなったら……ナヴィ、いるか」


「当然ですマスター。アレを使うのですね?」


「アンに影響が出る前に全力でブチかますっ!」


「かしこまりました」


 突如周囲の気圧が乱れ、周辺に暗雲が生じ始めた。その間にもトラックとダイナは攻撃の手を休めることはなかった。


「マスター、準備が完了しました」


「サンキューナヴィ……まさかこいつをもう一度撃つことになるなんてな」


「ご主人様、なに、これ……凄いエネルギー……こんな技があったの?」


「ダイナ、ちょっと離れてろ。巻き込みたくはねぇ」


「う、うん。解るよ。こんなの食らったらただじゃ済まないことくらい」


 ダイナは急ぎ暗雲の範囲外へ退避した。


「ふむ。散歩で火照った体に雨でも降らせてくれるのか? 気が利くのう」


「こいつを食らって生きてたらほざけっ!」


 運はその手を振り下ろして叫ぶ。


「雷槌っ! トォールアァーック、ハンマァーーーッ!!」


 天から落ちる巨大な雷槌はゾエの巨体をも優に超える範囲に振り下ろされた。


 まばゆい閃光と轟音。周囲は一時何も見聞き出来ない状態となった。


 徐々に鮮明となりゆく荒野に残る一つの大きな影。


 ゾエはようやくその歩みを止めていた。その巨体から立ち上る無数の煙。


「やったか!?」


 運とダイナがゾエの周囲を旋回しながら様子を見ていた時だった。


「ぐぬぅ……」


 その巨体はまだ動ける様子だった。


「さ、流石のワシも今のは死ぬかと思った……このゾエ様が死に掛けたんだぞ……」


 ゆっくりと目を開き、足を震わせながらも再び巨体を起こし始めるゾエ。


「う、うそ……ご主人様、何か他に手はっ!?」


「ねぇな……流石にあれをもう一発は撃てねぇ」


 戦慄する運とダイナを余所に大空に向かって咆哮するゾエ。


 その大声はアンにいる全ての者を震撼させるには十分過ぎる程だった。


「今のは痛かった……痛かったぞーーーーーー!!!!!」

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