第61話 ルーなら俺の隣で寝てるよ


 その日は朝から街の動物達の行動に異常が見られた。犬は落ち着かず遠吠えをし、猫は高い所へ登ろうとする。そしてルーテシアは運の布団に潜り込んで寝ていた。


「お兄ちゃん! 起きてっ!」


 そこへ久遠がノックもせずに部屋に入って来る。


「んあ~……久遠か、何だこんな朝早くに」


「大変なの! それよりお兄ちゃん。ルーちゃんは何処?」


「ルーなら……俺の隣で寝てるよ」


「は?」


 久遠はズカズカとベッドに近寄り、その布団を剥いだ。


「寒いにゃ~」


 そう言って運にしがみ付くルーテシア。ペットぶりも板についてきた。


「羨ま……じゃなかった。ルーちゃん、ちょっと聞きたいんだけど!」


「わ、久遠さん。おはよ~……あはは、今日は寒いね~」


「そうでもないけど今日のところは不問としましょう……それよりも急ぎで聞きたいことがあるんだけど」


「な、何?」


「今朝から街で動物や精霊が騒いでいるの。で、気になって調べてみたら、どうやらテア山脈に超大型魔獣が現れてアンに向かっていることが解ったんだけど……」


「ちょっと待って、アタシも眷属に確認してみる。邪眼・視覚共有」


 ルーテシアの邪眼が怪しい光を放った。


「ああ……遂に来ちゃったか、ゾエ」


「やっぱり。知っているんだね?」


「そうね、アタシやダイナと同じ、テア山脈では四天王と呼ばれる存在ね」


「どんなモンスターなの?」


「ベヒモスよ。体長は……そうね、300メートルは軽く超えているかしら。一応、ご主人様と久遠さんにも眷属の視覚を共有するわ」


「「デカっ!」」


 運と久遠はその大きさにまず驚いた。木々の遥か上を胴体が動いている。


「で、このゾエさんとやらは、どうしてアンに向かって来てるんだ?」


「十中八九、踏み潰すつもりでしょうね。脳筋だから」


「そんなの困るよ~。何とか話をつけられない?」


「脳みそが筋肉なのよ?」


「ルーちゃんはどうすれば良いと思う?」


「倒せれば一番良いんだけど……アタシはパス、相性最悪なの」


「ルーの時空眼でも無理か?」


「そうね。ゾエが巨体を制御するために常時発動している重力魔法と相性が悪いのか、時空眼が上手く機能しないのよね……で、この体格差。ムリムリ」


「ダイナちゃんはどう?」


「しかしダイナは四天王の中でも最弱……ってとこかしら」


「て、ことはやっぱりお兄ちゃん頼みってことになるの?」


「そうだけど……流石のご主人様も、相手がゾエとなると……」


「キツそうか?」


「正直に言うと、ね」


「流石にあれ程の巨体となるとトラックがぶつかった程度じゃビクともしないって訳か」


「どうするの? お兄ちゃん」


「どうするも何も、相手の目的が破壊なら是非も無く戦う以外にないだろ?」


「勝てる?」


「解らねーけど、負けるつもりはないな。ただ、念のためルーやダイナも連れて行く」


「ええ~? ご主人様、アタシも~?」


「無理に戦わせたりはしないが、ルーもダイナも元四天王だったんだろ? 何が役に立つか解らない訳だし、いてくれると助かるんだがな」


「う~ん……」


「頼むよ。終わったら沢山よしよししてやるからさ」


「え~……うん、じゃあ解った」


 ルーテシアは赤くなって身悶えた。


「ルーちゃん、よしよし好きなんだ……」


 どうもルーテシアは周囲から邪眼を向けられるきらいがあるようだ。


「そうと決まったらルーはダイナを呼んでおいてくれ。それから久遠や五十鈴達は連絡を取り合って、万が一の時は住民の避難を頼んだぞ」


「任せてご主人様!」


「了~解。お兄ちゃんも早く準備をしてね」


 久遠はそう残して部屋を出て行った。


 アンの街の技術も発展し、今やナヴィを通さずとも仲間同士のスマホ間で連絡が取り合える程になっていた。

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