第53話 VS転移転生者軍団 ~ 内政無双の久遠様 ~


 運、久遠、五十鈴、ダイナの4人が街の一室で寛いでいた。


「何か最近は町って言うより、より大きな『街』って感じになってきたな」


 活気付く街並みを見て運が言った。


「色んな店も増えてきたし、外部との人の交流も盛んになってきたし」


「奈治さん達、高校生グループが意外と凄いんだよ。音楽やマンガ、文化面で色々な才能を発揮してるみたい。音楽プレーヤーなんかも持ってたから既存の曲も沢山手に入ったし、お兄ちゃん念願のカラオケも出来たみたいだね」


「あいつら……ちゃんと仕事やってんのか? 自警団だろ」


「奈治殿達の真面目な働きぶりには、エルフでも好印象を抱く人が現れ始めていますよ」


「なら良いんだ」


 運は満足げに頷いた。


「しかし、こう発展が著しいと次に欲しくなるのは当然『食』だよな」


「解るっ! 向こうの食事が懐かしいな〜」


「運殿の世界の食事ですか!? それは是非とも食べてみたいですね」


「ボクもっ! 冒険者の丸焼きより美味しいんだろうなぁ」


「「えっ!?」」


「や、やだなぁ。冗談だよぉ」


 ダイナは汗をかきながら言った。3人はそれを苦笑いで流した。


「何処かに異世界料理店は無いものか」


「探せば有るかもね〜。できれば数日に一度現れるタイプより、お店の入口がエヒモセスに繋がってるタイプが良いなぁ……」


「はは。それならお店の裏口から元の世界に戻れそうだしな」


 運の何気ない一言だったが、久遠も言った本人も一瞬で真顔に返った。


「お兄ちゃん! それだっ!!」


「!! 探せっ! 異世界の扉だっ!」


「なんでしょう……運殿と久遠殿から物凄い熱量を感じます」


「ご主人様はただの食いしん坊なんじゃないの?」


 そこへ。


「ねぇねぇ聞いて聞いて〜っ! ウチの近所に出来た料理店がすっごくスッゴイの!」


「不思議な内装、見たこともない料理、信じられない程の美味しさ」


 ミューとフィリーが姿を見せた。


「「そして名前が異世界レストラン!」」


「「な、なにぃ〜っ!!」」


 運と久遠は絶叫した。


「これで元の世界に戻れるよ、お兄ちゃん!」


「やったな! 久遠!」


 異世界トラック ~ 完 ~


 とはならずに、結局お店の裏口から続く世界の目印がスカイタワーと呼ばれていたので諦めてエヒモセスに戻って来た。


 ただ、アンの街に突如現れたその異質な飲食店は以後、エヒモセスに住む多くの人の胃袋を掴むことになる。


 それは五十鈴やダイナに留まらず、世界に散らばる転移転生者を掻き集めるように街及び食文化の発展に寄与したことは言うまでもない。




 その日も異世界レストランで舌鼓を打った後、紅茶を嗜みながら運、久遠、五十鈴、ダイナの4人は街のカフェで道行く人を眺めていた。


「しっかし転移転生者も数多く、しかも色々な種類の人がいるもんだなぁ……」


「特に最近は街中でも良く見かけるようになってきたよね~」


「転移転生者一人ひとりが何かしらチート能力を持ってると考えると……久遠、収拾がつかなくなる前に何か手を打った方が良いんじゃないのか?」


「どうかな~。自警団も頑張ってるし、任せてても平気だと思うけど……」


「ですが久遠殿。成功した運殿に嫉妬して、何やら良からぬことを企む集団がいるとの噂も耳にしたことがあります」


「大変! 今こそボクの滅びの火炎疾風弾バーニングストリームで粉砕しないと!」


「それじゃ街ごと玉砕するから止めろダイナ」


「だってボクの出番が無いんだもん……」


「ダイナ殿は出番が無い方が良いのですよ?」


「ボ、ボクの中のドラゴンの血が疼くよぉ」


「まるで中二病だな」


 ティータイムは優雅かつ平和だった。


「ん~。でも皆が気になるなら、私がまとめて始末しておこっか?」


 そんな中、久遠が平然と物騒なことを言い出した。


「久遠がやるのか? ヒーラーなのに?」


「く、久遠殿? もしや一人で戦うおつもりですか?」


「久遠さん、やっぱり強かったんだ……」


「戦うって言うか、今のアンの規模なら一言だけ言えば済むと思うんだよね、あははっ」


 そう言って久遠は無邪気に笑っていた。


 数日後、アンの街にこんな趣旨のお触れが出た。


『早く仲間になった人は厚遇します』


 あっと言う間に反乱分子は久遠に懐柔された。


「なん……だと……」


 報告を受けた運は戦慄した。


「一言……たった一言で転移転生者軍団を一掃だと……」


「なんという禍々しき言霊……運殿、やはり久遠様に逆らってはいけません」


「う、うん。ボクも久遠様の言いつけは守るよ……」


「そ、そんな呼び方はやめてよ~」


 アンの内政は日に日に磐石となっていく。


「だけど本当のところ、最強のお兄ちゃんに、天性の魔法使いエルフ族を多く抱え、武具の質も高い。更にはドラゴンのダイナちゃん、集まってきたトラクター部隊や転移転生者達……これならもう他の国を軽く滅ぼせそうだよね、あははっ」


「「ひぃっ!!」」


 無邪気に笑う久遠に逆に3人は慄いた。


「や、やだなぁ。冗談だよ~」


「本当か? ……本当に冗談だよな?」


 無言で運に同意とばかりに頷く五十鈴とダイナ。


「何でダイナちゃんの時と反応が違うの~っ!」


「だって……なぁ?」


 運が同意を求めるように五十鈴とダイナを見るとやはり二人も首を縦に振る。


「もうっ! 私を何だと思ってるのっ!?」


 3人は一度互いに目を合わせた後、声を揃えて答えた。


「「久遠様?」」


「ぶー!!」

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