第52話 VS(?)スローライフ系転移者
町の入り口でトラクター部隊を仲間としたその帰り道。
「帰ってくれ!」
運が一人で街中を歩いているとその一角から大きな声が上がった。
「どうしたフィガロ、何かトラブルか?」
見れば複数のドワーフに頭を下げる一人の青年がいた。
「おう兄ちゃん、良いところに。この男を知っているか?」
「いいや? 誰だ?」
「こいつはな、ホンダ工務店の社長なんだよ!」
「確かルヲワ共和国で建設分野の現代知識無双をしていたスローライフ系の転移者だったか?」
「そうだ。こいつのおかげでオラ達は仕事を失ったんだ……それを、新たにオラ達がここで上手くやれてるのを見て、追い掛けてきやがったんだ!」
「確かにそれはドワーフとは折り合いが悪そうだな」
結局、フィガロやその仲間達も最終的にアンに居住することを選んでいたのだった。
「そんな大組織の社長がたった一人でやって来て、弟子にしてくれだとぉ!? オラ達を馬鹿にするにも程があるだろうっ!!」
「フィガロもそう言うなよ。逆にそんな凄ぇ社長が一人で来てんだ、よっぽどの覚悟だろ」
間に入った運に青年は笑顔を向けた。
「お気遣い有難うございます。ご紹介にありましたように、私はホンダ工務店代表の本田と申します。以後お見知りおきを」
「これはどうも。俺はトラック運転手の日野運、よろしく」
本多と運は握手を交わした。
「おうおう兄ちゃん。バシッと言ってやれ、俺がここの町長だってな!」
「おいフィガロ勝手に決めんな、俺ぁそんなもんになった覚えはねーぞ」
「やはり、貴方が町長の日野さんでしたか!」
「だから違うって……ま、良いやめんどくせー。で? 何でこうなったんだ? 弟子がどうとか言ってたな、説明してくれ」
運は本田に説明を求めた。
「私はただ、急速に発展するこのアンで何かお役に立てることがないかと思い……」
「またオラ達の仕事を奪うつもりかっ!」
「とんでもない! そんなつもりは一切ないのです。むしろここへ来て、改めてここの建築物の質の良さに敬服してしまった程なのですから!」
「なんだとぉ? 馬鹿にしてんのかっ!」
「落ち着けフィガロ、わざわざ社長自ら来てまで馬鹿する訳ねーだろ。お前達が作る家の快適さは異世界から来た俺達には良く解るんだよ」
「その通りです。私もようやくこの世界に馴染み、魔力の存在を感じられる今となって初めて思い知ったのです。気候、風土に根差した素材の重要性を……どうやら、ここでは私達の世界に無かった魔力の概念が快適さに大きく影響しているようなのです」
「で、その技術を盗みに来たってのか?」
「フィガロも噛み付くのはその辺にしておけよ。どうもそう言う訳じゃなさそうだぞ?」
「私達は、今になってその浅はかな考え方に深く反省せざるを得ない状況となっています」
「何があったんだ?」
「……」
問う運に口を閉ざす本田。
「私達には、何の力も無いのです……家の性能が劣ると解れば当然それはクレームになる。もちろん正当な対価で契約されたものですから、誠意を持って対応すればきっと話し合いで折り合いが付けられるはずだったんです……それが、向こうの世界であったなら」
本田は唇を噛む。
「この世界では、私達の言葉ほど力の無いものはありませんでした」
「それ見たことか」
フィガロは鼻で笑うように言った。
「色々あったんだな。だがなフィガロ。俺が見たところじゃホンダ工務店の技術にも目を見張るものがあったと思うぞ?」
「そりゃあ……オラ達だって解ってるよ。あの未知の素材が凄ぇってことくらい」
「なら、この際手を取り合って協力したら良いじゃねーか。人手だって欲しいんだし、双方の技術を持ち寄れば、それこそ凄ぇモンができるんじゃねーのか」
「日野さん……ええ! 私達に出来ることなら何でも致しましょう! どうか、どうかお願いします、フィガロさん!」
「……まぁ、兄ちゃんが言うなら、オラに文句は言えるはずねぇや」
「フィガロさん! ありがとうございます」
本田は深くフィガロに頭を下げた。
「日野さんも、ありがとうございます。必ずや町の発展に貢献してお返しします!」
「それはありがたいな」
「快適な暮らしで人々に癒しをもたらし、平和に貢献すること。私達の理念はきっとこの町の理念とも寄り添って行けることでしょう!」
「お、おう。期待してる……フィガロも問題が解決して良かったな、それじゃあな」
運はヒラヒラと手を振ってその場を去ろうとしたが、ふと思い止まって振り返った。
「言い忘れたがフィガロ、こないだ山岳地帯で温泉掘ってる最中に少量だがミスリルが出たって話だぞ。これはひょっとするんじゃないのか?」
「兄ちゃん! そりゃ本当かっ!?」
「もっと山の方に行けばあるいは……とは言え、ミストラル工房が鍛冶屋だったのは昔の話だったな」
「馬鹿を言え! 先祖代々の技術をそう簡単に手放せる訳ゃねーだろう!」
「そりゃ良かった」
「おいお前ら、早速発掘の準備も整えにゃならんぞ」
「「へいっ!」」
ドワーフ一同が答える。
「いやしかし参ったぞ兄ちゃん。ここんとこドラゴンスケイルなんて伝説級の素材まで手に入っちまって、町の建設もしなきゃならんし、これじゃあまるで手が回らねぇぞ」
「なら、早速そこの弟子の出番じゃねーか」
「ったく、仕方ねぇな……頼むぞ、本田」
「よろしくお願いします、フィガロさん」
「あと、お前達の仲間に手先が器用な奴等がいたらオラの娘の方も手伝ってやってくれ。電子レンジに冷蔵庫、炊飯器にエアコン……何だか良く解らねーが転移転生者には欠かせねぇ生活用品なんだろ?」
「確かに……それではどれだけ人がいても足りないですね」
本田が冷や汗を垂らしながら答える。
「しかもだ。先日この兄ちゃんの妹さんがま~た新たに注文をよこしてくれてよ」
「久遠が? 一体何を注文してんだ?」
「印刷機? 音楽再生機? その他諸々、文化発展には不可欠だとか何だとか言って、見ろよこの仕様書の束を……セレナが泣くぞ」
「これは……流石に気の毒になるな」
「頼む、兄ちゃんからも人をくれと言っておいてくれねぇか」
「いやぁ、人ならさっき得たばかりだろ?」
それを受けて本田が戦慄の表情を浮かべる。
「ま、まさか日野さん、これだけの仕事を我々だけでせよと!?」
「ミストラル工房とホンダ工務店が力を合わせれば楽勝だろ」
「日野さん、もしかしてスローライフ系転移者の私を忙殺する気ですか……?」
「そう言う訳で後は任せたからな2人とも。久遠には言っておくから。じゃ」
話が面倒になる前に運は立ち去った。
「あコラ、兄ちゃん逃げる気か」
「……見事に、やられちゃいましたね」
「本田……死ぬなよ」
こうして町を支える仲間達は増えていく。
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