第51話 新しい仲間たち
「お兄ちゃん、ちょっと来て。お兄ちゃんに会いたいって人達が来てるんだけど」
久遠に連れられて向かった先、町の入り口には多くの機動兵器トラクターが並んでいた。
そこには敵意を剥き出しに構えるエルフも多くいた。
「これは敵襲か?」
「違う違う。なんかね、お兄ちゃんに仕官したいんだって」
「は?」
そこへ五十鈴が飛んで駆けつけた。
「運殿、久遠殿! これは一体どういう状況ですか!」
「や~……流石に飛んで来ちゃうよねぇ、この状況なら」
「当たり前だろ久遠。町には多くのエルフがいるんだ。そこへ故郷の森を焼いた奴等が来てみろ、ぶっ殺されても文句言えねーからな?」
「そうなんだけどさ……話を聞いてみた限り、悪い人達でもなさそうなんだよね」
「久遠殿! あんな奴等の話を聞いたのですか!?」
「五十鈴さんやエルフの気持ちも解るよ? 解るけど、今の私達には必要なものだとも思ったから、お兄ちゃんに決めてもらおうと思ったの」
「森を焼いておきながら、今更私達に何を差し出せると言うのです!?」
「今、この町を守る力」
「何を……! 今……今ですって? ならどうして、どうしてあの時……!!」
「まぁ待て五十鈴。ともかく話を聞いてみよう」
運は五十鈴を手で制して久遠を見た。
それを受けて久遠は立ち並ぶトラクター部隊に合図を送った。
やがてトラクター部隊から一人の少年が代表して出てきた。
「初めまして。僕は元公国軍トラクター部隊所属の
「トラック運転手の日野運だ」
五十鈴は名乗らなかった。
「元、公国軍なんだな」
「はい。僕達は全員で相談して公国軍を抜けて来ました……脱走とも言いますが」
「確かオクヤの里で戦った奴等だよな? 生き残りか?」
「はい。ですがまず先に申し上げたいのは、僕達に敵意は無いと言う事です」
「説明してくれ」
「実は僕達は、修学旅行中に事故に巻き込まれ、クラス全員でエヒモセスに転移してきた者達なんです」
「戦闘中に聞いた気もするな」
「転移直後から僕達を戦争に利用しようとする貴族達に反対した先生方は見せしめに殺され、残された僕達には従うことしか出来なかったのです」
奈治は語った。
「あの戦場へも、作戦の全容も知らないまま是非も無く派遣されたのです」
「そんな言い分が通用すると思うのか」
五十鈴は強く非難する目で見たが、奈治もそれに怯むことはなかった。
「僕達もそんなに都合良く考えてはいません。しかし、僕達は元々、戦争がしたくてここに来た訳じゃない……むしろ、戦争なんて望んでいなかったんだ……」
「その気持ちは解る。だが、既に俺はお前達の仲間を撃ったし、こちら側にもお前達にやられたエルフも多くいる。お互い思うところも多いはずだ」
「解っています!」
奈治は強く運を見返した。
「だから、これ以上この世界で悲劇を繰り返さないために、僕達は公国軍を抜け、日野さんの下に馳せ参じました。僕達はもう、あの頃のように修学旅行気分じゃない。本気でこの世界から戦争を無くしたいと思ってここまで来たんです」
「それをエルフ族が受け入れると思うのか」
五十鈴の口調は質問ではなかった。
「簡単ではないでしょう。ですが元より覚悟の上」
奈治はしっかりと五十鈴を見返した。
「身を粉にしてその償いをします」
「お前達に何ができる!」
更に五十鈴は踏み込む。
「今、急速に発展するこのアンには各国から情報を探ろうとする多くの諜報員が紛れ込んでいます。そこで僕達は、この町を守るための自警団を結成したく思います」
「お兄ちゃん。私もそう言う組織があった方が良いと思う」
「久遠が言うなら、そうした方が良いんだろうな」
「……それでエルフの民が安心できるとでも? むしろ逆効果だ」
「確かに、五十鈴の言い分にも一理あるな」
迷う運の様子を見て、奈治は更に詰め寄るように続けた。
「それだけではありません。僭越ながら僕はメカニックをしています。きっとトラックの製造・整備等、役に立てることは多いと思います」
「トラックの製造・整備?」
「お兄ちゃん。奈治さんはこの世界の技術でトラックも作れるんだって。もちろんエルフの作るブースターエンジンがあれば、だけど」
「そりゃあ、あの化け物染みた機動兵器も作っちまったんだろうからな……」
そこで一同の目は顔色を伺うように五十鈴に向かった。
「それで? それをどう役立てるのです?」
五十鈴の態度は依然として硬いものではあったが、その発言が質問の形であったことに運、久遠、奈治の3人は多少安堵した。
奈治は緊張感を解かず、五十鈴の問いに答える。
「既にこの町の文明水準はエヒモセス既存の水準を凌駕しています。ただ、その格差をそのままにしておくことも新たな火種を生むことに繋がりかねません。大陸に流通網を整備し、少しずつでも他国に利益を分け与えることが出来れば……僕はそう考えています」
「なるほどな……武力以外で戦争回避の方法を探ると言う訳か」
「武力……以外で」
五十鈴は自身に刻み付けるようにそれを反芻した。
「五十鈴さん、私も悪くないと思う。交易を通じて各国にアンの町が欠かせない存在となれば……」
「解りました」
久遠の言葉を遮って五十鈴は言った。
「この件については私も久遠殿同様、その判断を運殿に任せたく思います。そしてその判断には異を唱えないことを約束しましょう」
「もしかして俺……結構、責任重大じゃね?」
「今更何言ってんのお兄ちゃん、町長なんだから当たり前だよね?」
「は? 俺そんなもんになった覚えはねーぞ?」
「覚えは無くても良いから決めて」
「はい……」
久遠に気圧されて運は従わざるを得なかった。しかし、判断を下そうという時に怯えるようでもなかった。
運は覚悟を決めたようにしっかりと奈治を見据えて答えた。
「奈治、俺はお前達に自警団を任せることにするよ。ついでに、既にこの町には何人か転移転生者も流れて来ているようだから、そんな奴等も孤立させないよう面倒を見てやって欲しい」
「日野さん! 本当ですか!」
「ああ。お前達を仲間として迎え入れる。その代わり良く励んでくれよ。特にエルフ族からの汚名返上が出来るようにな」
「ありがとうございます! 僕達一同、誠心誠意頑張りますっ!!」
「久遠、わりーけど、手続き的なものをやっておいてくれ」
「了~解。でもさ、このレベルの話になるとお兄ちゃんから正式に町の皆に発表しておいた方が良いかもね、町長として」
「げ。マジ? てか、町長になった覚えは無いって言ったろ? 大体選挙もしてねーのに」
「へー、選挙すれば納得するんだお兄ちゃん? まさか当選しないとでも思ってんの?」
「ぐぬぬ……解った、発表はするから町長は勘弁してくれ」
「そうそう。お兄ちゃんは素直に私の言うことを聞いてれば良いの。……だって、私が一番お兄ちゃんのことを良く考えているんだから」
久遠は頬を染め身悶えしながら言った。
「でも良いじゃない、それによって少しはエルフ族の理解も得られ易くなるかも知れないんだし」
「……仕方ないか。久遠、発表も含めて段取り頼む」
「了~解。でも、ちゃ~んと私への労いも期待してるからねっ、お兄ちゃん!」
「解ったよ」
運は深く肩を落とした。
「……それから五十鈴?」
「解っています」
ただ、五十鈴はその表情は見せなかった。
「エルフの民へは、私から話しておきましょう」
それを聞いて奈治の表情は明るくなった。
「ありがとうございます! ええと……」
「私の名前を聞いていなかったのか? 五十鈴だ」
「ありがとうございます五十鈴さん! 僕達、頑張りますから!」
「……忘れないで欲しい。傷を負ったエルフが多くいるということを。私はここであったことを皆に伝えるだけに過ぎない。それをどう捉えるかは人により違うだろう。エルフの信頼を勝ち得るか否かは、これからの努力次第……奈治殿はそれを良く仲間達にも伝えておいて欲しい」
「はい……肝に銘じます」
奈治は深く頭を垂れた。
「運殿、久遠殿……私達エルフはきっと、今を、そしてこれからを見て歩き出すことができるでしょう」
振り返って見せた五十鈴の表情はとても柔らかい笑顔だった。
こうしてアンの町に新たな仲間達が加わった。
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