第46話 瞬間輸送の超特急便
「なるほどなあ。こっちじゃモルタルは水の代わりにスライムを使うのか」
「それが長い年月で培ってきたオラ達の技術ってもんだ」
「ファイアスライムで防火性、ウォータスライムで防水性に湿度調整、エアは断熱性に通気性、アースは耐久耐震耐衝撃。魔物を使ってるから耐魔性まである壁材なんだね~」
「そうだぞ嬢ちゃん。ウチの建築技術はちょいと余所じゃお目にかかれねぇはずさ。ただ混ぜりゃ良いってもんじゃねぇからな」
「快適な家が出来そうだな」
「金と素材さえあれば、の話だがな。兄ちゃん達には感謝をしている。明日にも飢えそうなオラ達だったがスマホをあんなに高く買ってもらって……これでまた暫くは食い繋げそうってなもんだ」
「なあ、それなんだが俺達と一緒に来ないか?」
「そりゃまた有り難ぇ話だ。兄ちゃん達について行けば食いっぱぐれが無いだろうしな。だがな、そんな旅をしていればセレナの身体が保たん。すまんがこの話は受けられん」
「セレナちゃん、何処か悪い病気なの?」
久遠の問いにセレナは首を横に振る。
「ううん。病気じゃなくて、体質、なんだって」
「「体質?」」
運と五十鈴が尋ねた。
「セレナは生まれつき人一倍魔力を体外に放出してしまう体質でな……おかげで魔力的な抵抗力が弱くてすぐ体調を崩してしまうんだ」
「生まれつき……?」
久遠が聞いた。
「ああ。亡くなった母親譲りでな。いや、症状としては母親よりも重いだろう」
「……大人になるまで、私、生きられないんだって」
「「そんな……」」
運、久遠、五十鈴の三人は声を詰まらせた。
「久遠、何とか出来ないのか?」
「ごめんお兄ちゃん。私が治せるのは元の状態まで。体質となると……」
「そうか」
運はそっと目を伏せた。
「今までも色々な医者に診てもらったが駄目でなぁ。唯一心当たりがあるとすれば、オクヤの里に魔法と薬の専門店があるとのことだったんだが……」
「「ん?」」
「何でも、失われた魔力を自然な形で定着させる矯正魔術が使える魔術師様に、それを体質レベルで改善してくれる薬師様がいらっしゃるのだとか……」
「「んん?」」
「そのうえ先生方は双子の美人姉妹で相互の連携も抜群らしく、その相乗効果は下手な医師をも凌ぐと隣国のここまでそのご高名は轟いているんだ」
「「んんん?」」
「もしそんな先生方に診てもらえるのならば、どんなことでもするつもりなんだが……」
「「んんんん?」」
運、久遠、五十鈴は揃って左右に首を傾げながら聞いていた。
「どうしたの? お兄ちゃんお姉ちゃん達?」
3人の様子にセレナが心配そうに尋ねた。
「い、いや。その先生方とやらに思いっきり心当たりがあると言うか……」
「ミューさんとフィリーさんだよね」
「間違いないですね」
運、久遠、五十鈴が順に言った。
「兄ちゃん達、知っているのか?」
「と言うより、私の友人達ですね」
「そうだったのか……」
そこでフィガロは肩を落とした。
「だが、絶望的なことにオクヤの里は滅んでしまったと聞くしなぁ」
「確かに店ごと燃えてはしまったが、二人は無事だぞ」
「それにこの話をすれば絶対に協力してくれるよね~、二人とも」
「はい。すぐにでも診てもらうべきです」
「ふぅむ」
それでもフィガロは浮かない顔だった。
「ただ、それが解ったところでオラにはそんな高名な先生方に娘を診てもらう金は無いし、体質改善ともなれば長期滞在は確実だ、滞在費もバカにならんだろうよ」
「なあフィガロ。そこで相談なんだが、どうだろう? 費用の問題なら俺が出そう。それに俺達は町を作ろうって言うんだ。元より長期滞在が前提なんだが、その間、あんたの腕を貸しちゃあくれないだろうか?」
「本気か兄ちゃん」
「ああ」
「……だが、こんな風でもウチにはまだ従業員がいるんだ」
「本当か? ならむしろ全員紹介して欲しいくらいだ。可能な人達だけでも良いから共に来てくれると有り難いんだが」
「……ありがてえ。兄ちゃん、ありがてえなあ」
「何だ。他にもまだ問題があるのか?」
「いや? 兄ちゃんがそこまで言ってくれるなら是非こちらからお願いしたいような話なんだ。だがな、最初に言っただろう? 隣国とは言え移動には日数が必要だ」
フィガロはセレナの頭に手を置いた。
「そうなれば当然、セレナの身体が保たないだろう」
「なら一度戻って、ミューとフィリーを連れて来るか……?」
その時、運の脳裏にナヴィの声が響いた。
「Heyマスター、ちょっと待ちなYo!」
「どうしたナヴィ? 今日はちょっと元気が良いな」
「はい。と言うのも、マスターの能力向上のおかげもありまして、この度ナヴィも本領が発揮できることとなりました」
「本領?」
「はい。トラックの最上位スキルの一つ、その名も『瞬間輸送』です」
「瞬間輸送?」
「言わば瞬間移動です。戦闘中の使用に堪える程の即時発動は出来ませんが、マスターが一度立ち寄った場所であれば瞬時に移動が可能となります」
「それは凄いな。そんなことが出来るのか」
「何を仰いますマスター。瞬間移動など所詮は空間の跳躍に過ぎません。マスターは一度、時間と空間を越えてここエヒモセスに辿り着いたのです、出来ない道理など有りません」
「そうだったな……てことはもしや、このトラックスキルを極めた先に元の世界に戻るための異世界転移能力……俺の求める答えがあるのか?」
「その可能性は高いでしょう。ただし、その習得条件は現時点で不明ですが」
「それはそうだが、その可能性が出て来ただけでも収穫だ。元の世界に戻れる可能性が見えて来たってことだからな」
「左様でございますね」
「ナヴィ、この件は今後も何か情報を掴んだらすぐに教えてくれ」
「かしこまりました」
運が視線を戻すとフィガロが怪訝そうな顔つきで運を見ていた。
「兄ちゃん。大丈夫か? 一体何と話してんだ?」
「ああ、フィガロさん気にしないで下さい。お兄ちゃん、精霊と話が出来るんです」
「本当か? 人間なんだろ?」
「本当ですよ。エルフの私が保証します」
「……兄ちゃん、あんた一体何モンだ?」
「俺はただのトラック運転手だよ。だから、物や……時には人も運ぶんだ」
運は真正面からフィガロを見返した。
「セレナが長旅に耐えられない問題なんだが、たった今、解決した」
「「え?」」
「どうやら俺、瞬間移動が使えるようになったらしい。これでミューとフィリーのいるマケフ領まで一瞬で行けることになる」
「「えええ~っ!?」」
皆が飛び上がって驚く中、フィガロだけは呆然とそれを聞き流しているようだった。
そんな呆けた様子を見て、運は更に優しく言った。
「フィガロ、セレナ。あんた達は俺が運んでやるよ」
「……兄ちゃん、あんた本当に、本当に、一体、何モンなんだ……」
とうとうフィガロは涙を堪えきれず、目頭を押さえて泣いた。
「どうだ? 俺達と一緒に来ないか?」
フィガロは流していた涙を拭き取ると力強い目で運を見返した。
「行く。いや、行かせてくれ。元よりオラは娘のためならどんなことも厭わぬ覚悟」
「わ、私は、お父さんと一緒だから、ついてく」
「よし! じゃあ今から俺達は仲間だ」
運はフィガロに握手を求め、フィガロはその手を強く握り返した。
「やったぁ~!」
「ふふ。本当に運殿は次々と仲間を増やしていきますね」
新たな仲間を笑顔で迎え入れる久遠と五十鈴。
「よっしゃ! これで俺達の町が見えてきたぜ!」
運は強く拳を握った。
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