第43話 優しい旅路


「おいお前ら。俺のトラックの乗員数は3人と言ったろうが」


 運の目の前でエルフ3人の争いが始まっていた。


「だからこそです運殿! 久遠殿はやむなしとして、残り1席は渡せません!」


「む~っ! 五十鈴ちゃんはいいじゃん! 前に一緒に旅して来たんだから! 私に譲ってよ~っ!」


「ミューも五十鈴も駄目。運が風邪を引いたら私の薬学知識が必要、私が行く」


「そんなの私の献身的な魔法で癒してあげるも~ん! 私が一緒に行くんだから~っ!」


「ミューもフィリーも、それなら久遠殿がいれば問題無いのでは?」


「「う……」」


「であれば、ルヲワ共和国に立ち寄ったこともある私が適任かと思いますよ、運殿?」


「お、おう……じゃ、じゃあ五十鈴に案内を頼もうかな」


「ふふ」


 五十鈴は後ろを向いて小さくガッツポーズをした。


「「ぶー」」


 ミューとフィリーはふて腐れていた。




 そして旅立ちの日。


「また3人で旅が出来て嬉しいね! お兄ちゃん! 五十鈴さん!」


「はい! よろしくお願いしますね、久遠殿。……それに、運殿も」


「五十鈴さん、顔赤いよ?」


「へわっ!? ち、違います!」


 五十鈴は両手で頬を隠した。


「ほれ。道中は長いんだ、とっとと行くぞ」


 運転席に乗り込んだ運が二人に言った。


「「はーい」」


 久遠と五十鈴も助手席側から回り込んでトラックに乗車する。


「みんな気をつけてね! 早く帰って来てね!」


「こっちは、なるべく商品の改良・生産を進めておく」


「私はエルフの皆さんに豊穣をもたらせるよう尽力いたしますね」


 ミュー、フィリー、カレンの見送りを受けてトラックは進み出す。


「おう! ありがとう! それじゃあ行ってくる!」


 運、久遠、五十鈴の3人はルヲワ共和国へ向かって走り出した。




 相変わらず運達の旅は空を急がずに、楽しむように大地を跳ねて進む。


「運殿」


「ん? どうした五十鈴」


「町を作ろうだなんて言い始めたのは、本当は、私達エルフの新しい居場所を作ろうとしてくれているから……ですよね?」


「ん? 何のことだ? 俺は俺自身が誰に気兼ねすることなく暮らせる場所が欲しいだけだぞ」


「であれば、今や運殿には一生遊んで暮らせるような財力があるのですから、久遠殿とお二人でゆっくり過ごせる場所を探せば良いだけではありませんか」


「町を作って人の交流が増えれば、元の世界に戻るために有用な情報が集まりやすいと思っただけだ。五十鈴が気にする必要はないな」


「苦しい。苦しい言い訳だよお兄ちゃん。……そんなの五十鈴さんだけじゃなく、皆とっくに気付いてるんだからね?」


「俺はそんな出来た人間じゃねぇと何度も言ってるだろ」


「……そんなだから、皆がついて来るんだよ? お兄ちゃん」


「ふん。勝手にすれば良いだろ」


 正面を見て運転をしていた運は少し窓の外に顔を背けた。


「教えてください。運殿は、どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」


「ん? 優しいか?」


「お兄ちゃん。ちゃんと答えてあげなよ」


「……」


 運は少し無言になった後、正面を向いたまま口を開いた。


「それは、俺が人に優しくしてもらったから。だろうな」


「元いた世界のこと?」


「そうだな。久遠には初め少し話したけど、俺、向こうの世界では成人前から両親に頼れなくてさ。何度か仕事も変えたし、結構苦しい時もあったんだよな」


 久遠も五十鈴もそれを黙って聞いていた。


「そんな時に今の……とは言っても、エヒモセスに転移しちまって退職扱いにでもなってんのかな? ともかく最後まで勤めた会社の社長に拾ってもらってさ。お前はもう家族みたいなもんだからって、色々良くして貰ったんだよ」


「良い社長だったんだね」


「そりゃそうだ。社会人として基本もなっちゃいねー俺みたいな奴を雇ってくれたばかりか、俺が育てりゃ良いんだって、熱心に、丁寧に、一から色々と教えてくれたんだ」


 運は少し口を噤んで、顎を少し上げた。


「恩返し、したかったんだけどな……」


「運殿……」


「でもさ、いつも社長は言ってたんだよ。恩は俺に返すもんじゃねぇ。お前の後から来る奴に返すもんだってな」


「そう……だったのですね」


「家族は俺が守ってやる。そう言ってた社長の気持ちが、ここのところ、何となく解るような気がすんだよ」


 運は淡々と続ける。


「だから、俺も皆を守ってやりてぇ。そう思うんだ」


「お兄ちゃん……」


「元の世界で家族がバラバラになっちまっただけ、余計にな」


「うっ……」


 久遠は思わず涙を流し嗚咽した。


「久遠殿……」


 久遠の肩を支える五十鈴。


 そんな二人の方へ少し顔を向けると運はワザとらしくニカッと笑って見せた。


「そんだけだ」


 今回の旅は、人の心を優しくさせるような旅になったようだ。

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