第41話 町を作るっ!!
捕らわれたエルフ族を救出した後、一行はマケフ領にて他のエルフ族と合流した。
領主エアロスターの計らいもあり、領内の一角を貸し与えられたエルフ族はドリアード達と力を合わせて仮の住居を建設。持ち前の技術を駆使した農耕具のエンジン提供等を介して領民との共同生活をつつがなく築き始めていた。
「……なんか、見覚えの無い精霊が増えているんだが?」
自給自足を目指し、大地を耕すエルフ達を見て運は言った。
「うふふ。運様が滅ぼされたコエ領からやって来た、地の精霊アーシーズ達です」
そこに現れて答えたのはカレンだった。
「は? 地の精霊? 俺、コエ領を滅ぼしたのに?」
「うふふ、大地はあの程度では死にませんよ」
「そうか……じゃあ何で?」
「何でも地の大精霊ノーム様からの思し召しがあったそうで、運様に協力するためについていらしたのだそうですよ?」
「地の大精霊ノームねぇ……」
「おめでとうございます。これで運様がおられる場所は豊穣が約束されたようなものです。我らドリアードも微力ながら協力させていただきます」
「それはどうも」
運はあまり関心が無さげに言った。
「それはそうと、何でカレンは実体化しているんだ?」
「あら。そんなの運様に抱きしめてもらうために決まっているではありませんか」
「あっそう」
「あーん、運様冷たいですぅ」
身を捩るカレンを無視して運は領内を散策した。
「にしても、凄い数だなエルフ族」
「数千人規模ですからね。いくらマケフ領が恵み豊かであっても、急にこの規模を受け入れるとなると新たに開墾も必要となりましょう」
「一時的な物資であれば俺が買えば良い。だが長期滞在を考えればどう考えても自給率を上げなければならない、か」
「私達、精霊はお役に立てているでしょうか……?」
カレンは抱きしめて欲しそうに運を見ている。
「……仕方ねぇな。お前達のおかげだよ」
運はカレンの頭を撫でた。
「しかし、なるほどねえ。それなら仮にエルフ族がこの地を去ることになっても農業が盛んなマケフ領には開墾された田畑が残る……エアロスターも
「とは言え、この状況下でエルフ族を受け入れてくれる貴族はそう多くないでしょうから」
「だろうな。普通は軍隊の追撃を恐れたりするもんだ。影で色々と俺達を守るように動いてくれているんだろ? あの領主夫妻が」
「人間の貴族のことは解りませんが、そう考えるのが妥当でしょうね」
「確か教会の偉い人の親戚でもあるらしいし、何かと上手くやってくれているんだろうな」
「もちろん、それだけの理由ではないのでしょうけどね」
「ん? 他には何が?」
「雷槌トラックハンマー。コエ領をたった一撃で滅ぼす程の運様のお力。それはもう何処の国においてもおいそれと敵に回すことが出来ない力と言って良いでしょう」
「ああ。今にして思えば、ちょっと頭に血が上り過ぎていたってのもあるがな」
「でもそれが結果として抑止力となり、皆を守ることに繋がっているのです」
「そうだったのか」
「でなければ、自国の領土を一つ消されたチリヌ公国が黙っているはずがありませんし」
「だよなぁ」
「つまりは、運様はこのチリヌ公国においてめでたく、手を出すとヤベー奴認定されたと言うことなのでしょうね」
「ガーン……安寧の地が……」
「まぁそう気を落とさずに。エルフや私達精霊、運様を良く知る人達の中に運様を悪く言う人はいませんよ?」
「それだけは救いか……もうあれは、二度と撃ちたくねぇな」
「そうなることを祈りましょう」
カレンは開墾の様子を見て回る運の片腕に飛びついて共に歩いた。
そして、三ヶ月程の月日が流れたある日のこと。
「決めた」
久遠や五十鈴、ミュー、フィリー、カレンを前にして運は言った。
「お隣の国、ルヲワ共和国へ行く」
「ちょ、ちょ、ちょ! どうしたのお兄ちゃん、そんな急に」
「は、運殿はこの地を出て行ってしまうのですか!?」
久遠と五十鈴は椅子から飛び上がる程驚いた。
「いや、別に今すぐに引越しをしようとかじゃない。ちょっとこの世界の建築技術等を学びに行こうかと思っただけだ」
「な~るほど~! それならドワーフの多いルヲワ共和国は最適だろうね~!」
「開拓も進んだし、そろそろ仮住居も卒業したい頃」
ミューとフィリーは賛同の姿勢だった。
「それもある。この地に残るエルフにはなるべく良い環境を残してあげたいからな」
「あら? それだとやはり運様がこの地を離れてしまうようにも聞こえますが……」
カレンが首を傾げた。
「ま、ゆくゆくは、だがな」
「「ゆくゆく?」」
「そう言うことだ。ここでの生活も慣れてきたところだし、言うのは迷ったんだが、やはりどうしても借りた土地と言うか、元々の領民からするとお客さんになっちまう」
「ですが、マケフ領の方々は我々をとても暖かく迎え入れて下さっています」
五十鈴が言った。
「だな。だけど、見えないところでどうしても領主夫妻に負担をかけているんだろ?」
「それは……族長も気にしているところです」
「なんかさ。そう言うの気にしているのも、疲れるだろ」
「そう言えば……運殿は安寧の地を探していらっしゃるのでしたね」
「おう。だから誰かに無理して守ってもらってまでぬるま湯に浸かっていたい訳じゃない」
「お兄ちゃんらしいね。でも、それじゃあどうするの?」
「うん。それな。それなんだが……」
運は一同を見渡して言った。
「いっそのこと俺達で、一から町を作ってしまおうかと思って」
「「えええ~っ!?」」
漏れなく全員スタンドアップ。
「もちろん無理にとは言わない。協力してくれたら有り難いな、くらいの気持ちだからな」
「い、一からって、運殿、それは一体何処に……?」
「そんなの、勝手に始めたら何処の国だって認めてくれないよお兄ちゃん」
久遠と五十鈴の言葉にもさして気にした様子もなく運は言う。
「だけどさ、この大陸には何処の国にも属していない土地があるだろ?」
「え~っ!? 運さん、それって、まさか~……」
「ダメだこりゃ……運、頭イカれた」
ミューとフィリーは頭を抱えた。
「運様? この大陸で誰の土地にもなっていない土地など、一つしかありませんが……」
カレンも心配な面持ちで運を見た。
しかし運はそれにも憚らず宣言した。
「おう! 俺は、大陸中央、荒野に一から町を作る!!」
「「えええ~っ!」」
漏れなく全員飛び上がった。
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