第40話 俺様の裁き ~ 雷槌 トラックハンマー ~
ミューとフィリーの二人は拘束されたままデミオの館まで運ばれた。
「おお~。待っておった、待っておったぞい~」
「お願いっ! 私が何でもするから考え直してっ!」
ミューがデミオの前にひれ伏して懇願する。
「んふふふ~ん! それそれっ! それが溜まらんのだよ~。おい、そいつを吊るって置け。妹を汚されるところがちゃ~んと見えるにしてなあ」
「このっ! けだものっ! 悪魔っ!」
「ん~、いい響きだなあ」
そしてデミオは言葉も発さなくなったフィリーの手を引く。
「お前はこっちだ」
デミオはフィリーをベッドに捨てるように投げた。
抵抗も無くベッドに転がるフィリー。それでも気丈に少しも声を発しなかった。
「おーい。どうした、妹ちゃんは抵抗してくれないのかね?」
近付くデミオの顔に唾を吐きかけるフィリー。
「……なんだ? これは」
そのまま頬を殴打されるフィリー。
「家畜如きが生意気だなあ。身の程を思い知らせてやらんとなあ……」
吐き掛けられた唾を拭き取りながらデミオは邪悪な笑みを浮かべた。
「よし決めた。ただ遊ぶだけにしようと思ってはいたが、お前には特別に愛の結晶を授けてやるとしよう」
怯えるようにフィリーの身体は震えた。
「エルフの長い寿命を以て、今日と言う日の思い出を忘れんようになあ」
糸を開くように開くデミオの口。
「い、いやあ……」
気丈なフィリーも耐えられず、泣き出した。
一方、コエ領に辿り着いたトラックは一行を乗せたまま上空に留まっていた。
「準備は良いか? ナヴィ、カレン」
「はいマスター」
「はい、私も」
「よし、じゃあまずカレンから始めてくれ」
「解りました」
まずはカレンが捕らわれたエルフ族を捜索するため、地上に降りた。
「ナヴィ。トラック魔法エア・コンディショナーで周囲一帯の天候を操作しろ。できるか?」
「もちろんですマスター。現在のマスターの力を以てすれば造作もありません」
晴天のコエ領にゆっくりではあるがトラックを中心とした雲が生じていく。
「お兄ちゃん、何が始まるの?」
「俺様の裁きを下す」
運はそれだけを告げ、雲が厚みを帯びていくのを待った。
「ナヴィ、次の段階だ。同じくトラック魔法バッテリーサンダーで育てた雲に帯電させろ」
「かしこまりましたマスター」
やがてコエ領一帯を覆う雷雲が完成する。
「マスター。地上に降りていたカレンよりエルフ族の捕らえられた建物の特定が終わったようです。どうやら大多数が一箇所に。他2名程が領主の館にいるだけのようです」
「良し。ではナヴィ、次にカレンから届いた情報をナビ画面に重ねろ。そしてエルフ族が捕らわれていない建物を全てロックオンするんだ」
「かしこまりましたマスター」
「待って。お兄ちゃん、これって……」
「言っておくが、俺様は最初から出来た人間でも聖人でもねぇぞ」
「運殿……やはり、お慈悲は無いのですね」
「無いな」
運は断言した。
「非業と言うなら言え。クズと呼ぶなら呼べ。例えどんな誹りを受けようが、俺は、俺が守るもののためならば最早些かの躊躇もしない。この領のものは全て、俺様の仲間が再興するためのドロップ品に変わってもらう」
運は目を閉じ集中力を高めながら静かにその時を待った。
「マスター。全ての準備が整いました」
「解った」
運は静かに目を開いた。
「北欧神話にこんな武器があったっけな、
「確かトール神が持っていたって言う武器だよね? お兄ちゃん」
「そうだな……今から俺様が下すのは、そんな感じの裁きだ」
「……そのための雷雲?」
「そうだ、既にコエ領全てを覆ったからな。誰一人として逃がしてやるつもりはない」
「お兄ちゃん……」
「運殿……」
「それじゃ、撃つからな。辛かったら、目を閉じてな」
運はそれだけ言ってから大きく深刻級をし、眼下の町並みを睥睨した。
「報いを受けろっ!! 雷槌! トォールアァァックハンマァーッッ!!」
「「トールハンマーでは?」」
その重く暗い雷雲から落ちる無数の雷は束ねて領内に落ちる巨大な槌のようでもあった。
エルフ族が存する建物の他は全て一瞬にして灰燼に帰したことは言うまでも無い。
「さて、残ったのはたった二つの建物。お前ら、どっち行く?」
「お兄ちゃん! 私は大人数の方! 怪我人がいたら大変だよ!」
「では私もその護衛に!」
「解った。じゃあ俺様は領主様をぶん殴りに行くか」
運は二人を建物の前に降ろすとすぐに領主の館へ向かった。
「カレン、エルフ2人のいる位置は大よそ解るか? それ以外はぶっ潰す!」
「はい運様。ナヴィ様と協力してナビ画面に表示しております」
「サンキュー。それじゃ殴り込みだ!」
「いや、いやあ……」
「ほほお~、良い顔になってきたのお。どれどれ、そろそろ頂こうかのお。お姉ちゃんに見てもらおうなあ」
ブチブチッと音を立てて裂かれるフィリーの衣装。
「やめろぉっ! 豚っ! 変態っ!」
吊るされたミューも罵声を発し続けた。
「んっん~。心地良い響き、最高のシチュエーションだなあ」
「お願い、許して……」
「い・や・だ・ね~。それじゃ、いただきまぁす」
その時だった。
ドゴオオオオオオオッッ!! と周囲一帯に未曾有の雷鳴が鳴り響いた。
「なんだっ!? 一体何が起きたっ!?」
デミオは飛び上がって窓際まで向かった。
「な、なんじゃ、こりゃ……」
窓の外に広がっていたのは灰燼と帰した自領の風景であった。
そしてその灰の町の中を一直線に向かって来る一台のトラック。
「なっ! あのトラック、まさかああっ!?」
デミオが窓際から退避して伏せたその間に、トラックはデミオの部屋を残して館を粉砕する。もちろん誰一人として逃れられた者はいない。
そこに残ったのは一辺の壁を失ったデミオの部屋だけだ。
「よう領主様? ノックする扉が無いんで失礼するぜ?」
「ひ、ひいいぃ~っ!! だ、誰かいないか~! ワシを守れえ!」
「気の毒だが、今この領内で生きてる領民、お前くらいだぜ?」
「は?」
「外を見て解らないか? お前の領地は滅んだんだよ……お前が森にしたようにな」
「ひ、ひいいぃ~っ!!」
そこで運はミューとフィリーの存在に気付いた。
「ミュー、フィリー。お前達だったのか」
「運さん!」
「運っ!!」
「っ!!」
二人の姿を見て運は状況を察した。その目は怒りに満ちていた。
「テメエ、俺様の大事な友人に何してくれたんだ、ああ?」
運は片手でデミオを吊るし上げた。
「ひいいぃ~っ!! 助けてっ! 助けて下さいぃ~! 何でも! 何でもしますっ! 何でも差し上げます~っ!」
「ははっ。何でもって、こんな風に人も物も不毛な領地でお前に何が出来るんだ? それに差し上げるも何も、俺様には黙ってドロップさせる方が簡単なんだぜ?」
「ふひひぃ~……」
デミオは涙鼻水涎その他を巻き散らかして泣き喚いた。
「うわっ! 汚えっ!」
運は咄嗟にそれを投げ捨てた。が、運悪くその方向は壁の無い一面の方であった。
「あ、ここ2階だった」
「ぶべっ!」
デミオは2階から落下、辛うじて生きてはいたものの骨折等により動けなくなっていた。
「運っ!!」
運が振り返るよりも前に飛び込んで来るフィリー。
「フィリー。恐い思いさせてごめんな」
運はフィリーの両手を拘束する錠を破壊し、その頭を撫でてやった。
「ちょっと待ってろ。ミューも助けてやんなきゃ」
続けてミューの拘束も解く。
「運さん! 運さんっ!! うわああぁぁ~ん!!」
緊張の糸が切れたように泣き出してフィリーと同じように運に飛びつくミュー。
「運っ! 恐かった! とっても恐かった!」
そこへ再び追いかけるように飛びつくフィリー。
「うおっとっと!」
体当たりに近い衝撃に体勢を崩す運と、それを追う形で倒れこむミューとフィリー。
「ぐええっ!」
美女二人に潰されて運の体は悲鳴を上げた。
運は右半身をミュー、左半身をフィリーに拘束されたも同然の状況であった。
「何やってんのお兄ちゃん?」
「は、運殿……? これは……?」
そこへ現れる久遠と五十鈴。
「久遠! 五十鈴! ち、違っ! これはっ!」
「な~んかお兄ちゃん、浮気現場を見られたような反応だよね?」
「運殿が、う、浮気……? ミュー、フィリー……そんなのズルい」
「そーだよ! ズルいよね~五十鈴さん! じゃあ私は左足を貰う!」
そう言って久遠は運の左足に抱きついた。
「え? ……で、では私は右足でしょうか……?」
五十鈴もそれに習う。
「あのな。お前達、俺様を四肢封印でもするつもりか?」
「あらあら。それでは最後は私ですね?」
そこに現れたのはカレンだった。
「カレンまで。一体何をしようと言うんだ? それよりコイツ等を退けてくれ」
「うふふ、運様。ドリアードが他の精霊と比べて違う点をご存知ですか?」
カレンは語り出す。
「それは、植物を使って人の身体に近い実体を作ることが出来る点なんですよ?」
その妖艶な身体が自身に覆い被さって来るのに運は恐怖した。
「お、おいまさか……」
「一番最後の私は、真ん中ですね~」
ミューとフィリーを少し左右に退けて、実体化したカレンも運に圧し掛かった。
「おいお前ら。俺、生身は、普通の、人間……ぐふ」
運は美女5人に乗られて身動き一つ出来ずに潰された。
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