第39話 捕らわれのエルフ
運、久遠、五十鈴の3人がコエ領に出発しようとした時、声を掛ける者があった。
「あの、もし……」
「あっ、貴女はドリアードのカレンさんっ!」
「はい。先日はどうも」
カレンは丁重に一礼をした。
「運様。もしよろしければ、私もお供させては頂けないでしょうか?」
「それは構わないが……どうしてだ?」
「実は、先程からフィリーの姿が見当たらないのです」
「「えっ!?」」
驚く3人。
「恐らくは公国軍に攫われてしまったものかと……」
「大変っ! お兄ちゃん!」
「解ってる。絶対に助け出す!」
「ありがとうございます。彼女は私達ドリアードの良き友人でもありますので……」
「そうだったな」
「また、私達であれば微力ながらお手伝い出来ることもあるかと存じます」
「カレンさん、どういうこと?」
「はい。恐らく捕らえられたエルフ族の方々は何処か建物内に監禁されることになろうかと思います。その場合、領内の建物の中から特定の建物を探し出すことは大変困難かと思われます」
「なるほど、そこでカレン殿のお力が有効であると」
「はい。我々は樹を司る精霊。多くの建物には木材が使用されておりますし、そうでない建物の付近にも何かと植物はありましょう。必ずや皆様の捕らえられた場所を探し出します」
「カレンさん凄いっ!」
「そのような訳ですので、何卒よろしくお願いします、運様」
「とんでもない。そりゃあこちらこそ助かるってもんだ」
「そうだよっ! 良く考えて見れば考え無しに向かったって現地で苦労してたってことだもんねっ! お兄ちゃん?」
「お、おう」
「……となると、運殿は始め、どのようになさるおつもりだったのです?」
「ん? ……建物を全部ぶっ壊してやるつもりだった」
「「ぶっ!!」」
久遠と五十鈴は吹き出した。
「それじゃあエルフの皆も巻き込んじゃうでしょ!」
「そ、それに関係の無い領民の家まで壊してしまうことになるのでは……?」
「関係ねーよ」
運は言った。
「確かに冷静に考えてみればエルフ族を巻き込んでしまうのは良くないわな。だがな、領民に関して言えば俺は形振り構ってやるつもりは微塵もねえ」
運は更に語気を強めた。
「あいつらは、森を焼いた」
久遠も五十鈴も表情を曇らせた。
「慈悲はねーよ」
それに応えたのはカレンだった。
「はい。私も憤っております」
「だろうな。だからカレン、俺から一つ頼みがあるんだが」
「はい運様。何でも協力致しましょう」
運は不敵に笑った。
「ではまず手始めに、精霊同士、ナヴィと自己紹介してもらう」
その頃、コエ領では捕らえた100名程のエルフが一堂に集められていた。その両手には押しなべて魔力を封じる手枷が填められている。
「ふひっ! ふひひっ! 良いっ! エルフの女は美女揃いだぁ~!」
それを領主デミオが品定めして回っていた。
「しかし、予定とは違って数が少ないのぉ」
デミオは側近の男に言った。
「はっ! 何でも先日、帝国との戦場に現れたトラックがエルフ側の用心棒としてついていたとの情報が入っており、思い通りの戦果が上げられなかったとのことです」
「チッ! それで黒騎士は?」
「森を滅ぼした後、姿を消されたとか」
「そうではないっ! 邪魔者は消したのかと聞いている」
「はっ! 見ていた兵の話によれば敵のトラックを粉砕し、運転手の男に重症を負わせたそうですが、仲間に連れ去られたのを追わずに逃がしたとのことです」
「逃がした? 何をフザけたことをっ!」
「ごもっともです。しかしながら申し上げます。敵の脅威はあくまで尋常ならざるトラックによるものですので、それが大破した今とあっては運転手など取るに足りません」
「フン。まぁそうだな。帝国の聖女でもなければ直すことなど出来まい」
「左様でございます。そして今やその帝国の聖女も、勇者パーティと共に行方知れずとなったとの噂が広まっております」
「ふっふっふ。どうせ先の戦争で討ち死にしたのを恥ずかしくて言えんのだ、帝国も」
「はい。これで帝国も大きく力を削がれました。そして機動兵器トラクターを作ることの出来る技術も、最早デミオ様が独占したも同然」
「それは一体どう言うことかな?」
「はっ! デミオ様が全てを統べる時代が訪れようと言うものでございます」
「ふっふっふっふ……はぁ~はっはっは!」
デミオは満足げに胸を張って高笑いした。
「よしっ! では早速捕らえたエルフ共を仕分けせよっ! 男は労働力、女は奴隷として売り飛ばすっ! ただし家族のいる女は把握しておけ、男共を働かせる餌とする!」
「はっ!」
「それから……」
「解っております」
側近の男はデミオを別の部屋へ案内した。
「デミオ様のお好みに合いそうな女を数人、用意して置きました」
「むほお~。これはまた美女の中の美女たち! 奴隷にするのが惜しいくらいだ」
「どうぞお楽しみになってからお考えください」
「むほほ~。たまらんの~」
デミオの下卑た視線に並べられたエルフ達は皆視線を逸らした。
「決めたっ! 今日は一番恥じらいを見せたこの女にするぞっ!」
指名されたのはフィリーであった。
「ひっ! いやっ……」
フィリーは後ろに下がろうとして転倒した。
「んん~、そそるのぉ。その反応。ますます楽しみになってきたわい」
「いや、やめて……」
後ずさるフィリー。
「待って」
そこに割って入ったのはミューだった。
「この子は好きな人がいるの、勘弁して。その代わり私が何でもする。ほら、同じ顔でしょ? 私達双子だから。私はこの子よりも、その、働くから……」
「ミュー……だめ。そんなの嫌」
「いいのいいの。私、お姉さんだからね!」
「むほお~! 美しき姉妹愛! 素晴らしいの~。……でもそう言うのを見るとワシ、余計に妹の方を辱めたくなるのぉ~」
「!! 最低っ! このっ!」
ミューは手枷を填められたまま領主に向かって噛み付かんばかりに飛び掛ったが、それは側近の男に防がれ、床の上で完全に制圧された。
「どれ。ではこの姉の目の前で妹をたっぷりと可愛がってやるとするかな。それが終わった後は……同じ顔だからな、姉はお前達が好きにして良いぞ」
おお、と歓喜の声を上げる護衛兵達。
「さて、では後程この二人をワシの部屋へ連れてくるように」
「はっ!」
「待って! やめてっ! お願いっ!」
押さえ付けられた床の上で必死に懇願するミューの声は届かず、デミオの去った部屋の扉は閉じられた。その後ろでフィリーは静かに涙を流していた。
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