第38話 再起の旅
「バカッ! バカバカッ! お兄ちゃんのバカッ!」
そう言いながら久遠は運の胸に飛び込んで泣いた。
「心配掛けてすまなかったな久遠」
「知らないっ! もう知らないもんっ!」
運は久遠の頭に手を置いた。
「そしてありがとう。ヒールのおかげで全回復したよ」
「……死んじゃったら、もう治せないんだよ?」
「そうだったな」
「うえ〜んっ! お兄ちゃんが生きてて良かったぁ〜!!」
運は久遠の頭を何度も撫でた。
「運殿、もう大丈夫なのですか?」
「ああ、五十鈴もありがとう。気を失った俺を助けてくれたんだって?」
「そんなの、当たり前のことです」
「おかげで命拾いしたよ」
「我々エルフ族も。運殿、久遠殿のおかげで最低限の被害で済んだのです」
「しかしオクヤの里はもう無いんだろう? これからどうするつもりなんだ?」
「族長が言うには、暫くはマケフ領にお世話になるそうです」
「そうか……あそこはエルフ族とも交流があるんだったな。領主のエアロスターさんも良い人だったし」
「それに確か、ラムウ教キャンター枢機卿の親族だから周りの貴族も迂闊に手を出せないとか言ってたよね」
「そうですね。その辺りの事情も含めて、我々はマケフ領に保護して頂く、そう言うことになりそうです」
「……行き場所が無くなった訳じゃないのが不幸中の幸いだな」
「はい、その通りです」
「皆の安否確認は?」
「満足に出来ていません……皆それぞれ必死に散って逃げたものですから」
「捕まってしまった人も、いるんだろうな」
「無念です……」
「すぐにでも助けに行きたいところだが、何処に連れて行かれたのかも解らないとな」
「それならまだそれほど時間が経っておりません、普通に考えればコエ領でしょう」
「そうなのか?」
「まず間違いなく。コエ領は反エルフの代表格ですから。今回の戦争の主格でもあります」
「なら、早いところ殴り込みに行くか」
「だ、大丈夫なのお兄ちゃん? 身体は?」
「久遠が回復してくれただろ……あ、そう言えばトラック、大破したんだっけな」
「大丈夫。トラックも一緒に直ったみたいだから」
「そっか。久遠様々だな」
「うん……」
「どうした? 得意げに抱き付いて来ないのか?」
「流石に、今はそんな気分にはなれないよ」
「それもそうだな」
3人の間の空気は重かった。
「お兄ちゃん、正直に聞くね? 今度またあの黒騎士と戦うことになったら、勝てそう?」
「今のままじゃ、無理だな」
「レベルを上げれば?」
「正直、キツいと思う。実は俺のレベル、それなりに高いからな。伸び代的にどうか」
「でもそれじゃあ、あの黒騎士は何なの? どうしてあんなに強いの?」
「解らん……が、一つ思い当たったこともある。アイツも俺と同じトラックドライバーだ」
「「え!?」」
「アイツが最後に使ったスキル、カウンターウェイトって言うのは、トラックの重心を整えるための鉄塊、重りのことなんだ」
「それじゃあ、黒騎士も轢く側の強さを持ってるってこと……?」
「だろうな……しかし、俺との差があまりに大きかったな。何か秘密でもあるのか?」
「どうだろう……? お兄ちゃん、良かったら私にもう一度ステータス見せて?」
「おう、良いぜ」
運はナビ画面にステータスを表示させた。
「相変わらず普通の人間と極振りトラックだろ?」
「あはは、そうだね……って、あれ? お兄ちゃん、あれから数値変わってなくない?」
「数値? 変わってないよ? それがどうかしたか?」
「え? だって勇者さん達を倒してからも忍者達やドリアード、五十鈴さんやトラクターとも数多く戦って来たよね?」
「それはそうだな」
「転移転生者も多く含まれるし、物凄ーくポイント入ってるはずだと思うけど、何で変わってないの?」
「そんなの、俺に聞かれても」
「お兄ちゃん。念のために聞くけど、最後にパラメータ割り振ったの、いつ?」
「ん? そりゃあ……エヒモセスに来たばかりの頃だから……勇者達と戦う直前だな」
「は?」
「は? って何だよ、その反応は」
「だってそうなるよ……。お兄ちゃん、全然ステータスに割り振ってないじゃん」
「え?」
「だから、勇者さん達やその他色々、チートな強さを誇る人達と戦って得た莫大な経験値を、お兄ちゃんはまるで活用してないってこと」
「そ、そうなのか……?」
「あ、呆れた……疎いにも程があるよ」
「すまんな」
「でも待って。てことは……うわ、何これエグ過ぎる」
「どうした?」
「お兄ちゃん、トラックの荷台、開けても良い?」
「良いけど、何も入ってないぜ?」
「それは……どうか、な?」
久遠によって開け放たれる荷台の扉。そこにあった物は。
「なんだこれ、宝の山じゃねーか」
「そうだよね、どう見たって宝の山だよね?」
「どうしたんだよ久遠、これ」
「私は何にもしてないよ。これを集めたのは、全部お兄ちゃんだし」
「は? いつの間に?」
「ドロップ品だよ。お兄ちゃんが今まで倒して来た人達のね」
「そっか。そう言えば建物内でやられた運転手のトラックも人の手に渡ってたもんな」
「勇者さん達だけでもタンマリ溜め込んでただろうし、数多くのチート転移転生者を倒して来たから……とんでもない額だよね」
「転移転生者が苦労して集めた結晶数十人分を総取りしちまったのか……」
「これ、生活費どころじゃないよね?」
「だな。エルフ族の再興にでも使ってもらおうか」
「運殿! いくらなんでもそれは!」
「いや、使わせてくれ。里を守れなかった責任もあるし、何より共に歩くと決めた仲間が困っているのを見過ごすことはできない」
「運殿……」
「そうだよねお兄ちゃん! 欲しいのはこんな一時金よりも、皆との楽しい毎日だよねっ!」
「おう!」
「良かった。お兄ちゃんがそう言ってくれて」
「さて、そうと決まれば行動は早い方が良いな。五十鈴は後でこの件を族長に伝えておいてくれ」
「解りました……それで、運殿は?」
「俺はもう一度自分のステータスを見直す。そして活用していなかった経験値をちゃんと割り振ったその後は、コエ領に行く」
「攫われたエルフ族を助けに行くんだよね?」
「ああ……あいつら、ちょっと俺を怒らせ過ぎた」
「お兄ちゃん、本気なんだね?」
「ああ……今回負けて良く解ったよ。俺はもう、絶対に負けない。仲間達も、絶対に守り抜く。絶対にだ」
「うんっ! 出来るよ、私達ならっ!」
「ああ。そのためにはまずナヴィ、いるか?」
「お呼びですかマスター?」
「良かった。戦闘中は敵の妨害があったようだからな、まずはナヴィが無事で良かったよ」
「ご心配をお掛けしました」
「話は聞いてるいたな?」
「はい。ナヴィが現在マスターに提示すべきことは2点。ステータスの最適な割振り方とエルフ族が攫われたと推測されるコエ領についてです」
「流石だな。では早速、ステータスはどうすれば良いと思う?」
「お答えしますマスター。答えはシンプル、トラック極振りです」
「やっぱりそうか」
「はい。現在の状態においてもマスターは強力な力を保有しています。ですので、ここは敢えて中途半端に身体強化等にポイントを割振るよりも全てトラックに注ぎ込んだ方が効率的であると考えられます」
「解った、そうしよう。それで? コエ領の方は?」
「はい。マケフ領の東、現在地からは東南の方角です」
「解った、案内してくれ」
「かしこまりました」
運はナヴィとの会話を終え、久遠と五十鈴を正面から見た。
「やるべきことは決まった」
「行こうっ! お兄ちゃん!」
「運殿、久遠殿。私も連れて行って下さい! 同族として黙っている訳には参りません」
「解った、みんな準備をしろ。すぐに発つぞ」
「「おー!」」
3人は力強く立ち上がった。
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