第35話 VSインフィニットフリーダム(機動兵器)(2)


「恐ろしいですよ! トラックが圧倒的な力で宙を駆けビームを撃って来るなんて!」


「つっても、さっきからまるで俺様の攻撃が当たらねぇ!」


「突進とビームに気をつければ!」


「性能なら俺様のトラックの方が上なんだが……」


「どうやらパイロットとしての技量は僕の方が上のようですね!」


「くそっ! あの一斉掃射がどうやっても避け切れねぇ!」


「だからって無理に間合いを詰めようとするなら……」


 大和機の独立したパーツが運のトラックを包囲して全方位からのビームを放つ。


「ちぃぃっ!!」


 運はそれを一度フォークリフトモードに切替え、的を小さくする要領でかわして再びトラックで距離を詰める。


「そんな芸当も出来るんですね! でも良いんですか? そんな状態でビームに掠りでもしたらタダじゃ済みませんよ?」


「当たらなければどうと言うことは無い!」


「なるほど、良いセリフを使いますね!」


 一層激しさを増す空中戦。


「くそ、このまま戦ってても技量で押される……なら俺様の次の手は魔法っきゃねぇ」


「そんな暇は与えませんよ!」


 徐々に押されつつあるトラックの脇に大和機の蹴りが直撃した。


「蹴り!? くそっ! バランスが!」


好機チャンス! ここは一気に決める!」


 大和機は武器をビームサーベルに持ち換えて一気にトドメを刺しに向かった。


「くっ! トラック魔法ウォッシャーバブル!」


 トラックは追撃を魔法で遮ろうとする。


「そう簡単には当たりませんよ!」


 大和機はそれを急旋回で回避しながら未だ体勢の整わないトラックの下へ高速で回り込んだ。


「もらったぁーっ!」


 大和機はビームサーベルの尖端をトラックに向けて突き出し、それはトラックを貫いたかに見えた。


 その瞬間、パァン! と音を立ててトラックは弾けて消えた。


「なっ!? 消えた!?」


「はぁ……はぁ……今のはちと危なかったぜ」


 大和機の後方に現れるトラック。


「そんな馬鹿な。一体どうやって!?」


「刺したのはウォッシャーバブルに映り込んだトラックだったんだよ」


「くっ! 苦し紛れの手を」


「だが、どうやら魔法は有効なようだな」


「ロボットが魔法だなんて邪道じゃないですか!」


「そんなのトラックには関係ねぇ!」


「そうでしたね……でも良いでしょう! それならその幻影ごと撃ち抜くまで!」


 大和機はまた翼の独立パーツの砲門を構えた。


「当たるまで撃ち続ける!」


 そしてビームを次々と広範囲に放つ。


「いつまでも同じ攻撃を食らってる俺様じゃねーぞ!」


 しかし今度はそれを巧みにかわすトラック。


「まだだっ! ……当たれぇーっ!!」


 更に広範囲砲撃を継続する大和機。


 それをひたすら回避し続けるトラック。


 時たまビームがトラックを捉えたかと思えば、それは魔法による幻影の姿であった。


「くっ! まるで質量を持った残像だ!」


 次第に精密さを増すトラックの動きに圧倒され、大和機は下手に砲撃を止められない状況に追い込まれ始めていた。


「く……信じられない。日野さんの技量がこの戦闘を通じてどんどん洗練されていく」


「たりめーだ。待ってろ、すぐに同じ土俵に上がってやるからな」


 やがて回避一辺倒だったトラックからも大和機に向けてビームが放たれるように潮目が変わり始めた。




 それにざわめき始めたのは外野の公国軍機パイロット達だった。


「お、おい……大和の奴、押され始めてないか?」


「あのパイロ……ドライバーが異常なペースで成長してるんだ」


「これ、ヤベーぞ? 一騎討ちなんて言ってる場合じゃねぇ!」


「お、おいとおる! 変な考えは止せ。俺達があんな戦いの中に割って入れる訳ねーだろうが」


「だからって、大和は俺のダチなんだ! 見過ごせねーんだよ!」


「おい徹よせっ!!」


 公国軍機の集まる中から1機が湖上に向けて飛び出した。




「し、信じられない……強い!」


 その時、湖上では完全に攻守が逆転していた。


撃ち抜くトラックは全て泡の魔法。反対にトラックのビームは今にも直撃に至りそうな程に精密さを増している。


「大和って言ったか? ここでお前と戦えて良かったよ。おかげで俺様はもう1段階強くなる」


「くっ……まだそう簡単に負けるつもりは!」


「もういい……終わりにしよう。ウォッシャーバブル!」


 トラックから放たれる無数の泡は大和機の全方位を囲んだ。


「くっ……トラックの姿が!」


「悪いが、これで幕だ」


 そして放たれるトラックのビーム。そしてそれは確実に大和機に向かっていた。


 その時だった。


「うおおおおっ!! 大和おおおおっ!!」


 そこへ大和機を跳ね除けるように割って入る公国軍機があった。


 それは体当たりによって大和機をビームの射線上から外し、その身代わりとなるかのように自機を貫かせて行った。


「と、徹?」


「わり、大和。先に逝ってるわ」


 たったそれだけの言葉を残して徹機は爆発した。


「徹? ……嘘だろ? ……トォールーッ!!」


 大和は叫んだ。


「チッ! 邪魔が入ったか」


「……邪魔? 邪魔って言ったのか? 徹を」


「一騎討ちを仕掛けて来たのはそっちだろうが。今の割込みはどういう料簡だ」


「うるさい……徹は、徹は良い奴だったんだ」


「おいおい、自分達の非はどうでも良いってか」


「許さない……貴方だけは……絶対に許さない!」


「おいおい、そもそもこの戦争はお前達が始めたんだろうが。何を勝手に主人公始めてやがんだお前は」


「うるさいっ! ……もう理由や建前なんかどうだって良い。今はどんなことがあろうと……貴方だけは倒す!!」


「はは、自分勝手な本性剥き出しじゃねーか」


「絶対に倒すっ!!」


 大和の心の内側で何かが弾ける音がした。


「うおおおおっ!!」


 そこからは今までの慎重な大和の戦い方からは一変、まるで狂戦士の如く果敢に攻め立てる大和機の勢いに運は再び圧倒される側に回った。


「くそっ! どうなってやがる。コイツ急に動きが別人のように……!」


 強引に距離を詰める手法も闇雲にビームサーベルを振り回す攻撃もそれだけを見れば雑なものであったが、それには反撃を許さない気迫があった。


「解ったよ。じゃあ俺様がその気持ちを受け止めてやる。……その上で、全力で叩きのめしてやるからな」


 相剋の軌跡は再び湖上を駆け巡る光の筋となり、火花を散らす大和機とトラック。


「うおおおおおおっ!!」


「やああああああっ!!」


 それは技巧も魔法も全てをかなぐり捨てた力と力の激突であった。


 2機は宙に光の線を引くように互いにぶつかり合って上空に向かって高く昇って行く。


「もう十分だろう? ……今の俺様に出来る全力で終わりにしてやる」


「うおおおおっ!! 落ちろおおおっ!!」


「悪いが、冷静さを失ったお前に勝機は無いよ……チルド!」


 その氷魔法は大和機の推進力の源でもあるスラスターを凍結させた。


「スキルロケットスタートにバックファイアだ」


 推進力を失って落下を始める大和機に上空から炎に包まれたトラックの荷台部分が高速で追撃を掛けた。


「くううっ!!」


 大和機はそれをビームで迎え撃つべく銃を向けようとするが、その腕は軋んで動かない。


「お前が撃っては浴び続けたウォッシャーバブルの特殊液が、そろそろ機体関節部の油に悪さをする頃だろうな」


「それでもっ!!」


 辛うじて生きていたもう一方の手で握るビームサーベルを投げ捨て、機体ごと捻るように迫る荷台を受け止める大和機。


「僕は負けないっ!」


 そして受け止める荷台から移った炎に包まれる大和機。


「負けられないのに……」


 荷台を支える大和機の真横に切り離されたトレーラーヘッドが現れ、大和機をロックオンしていた。


「終わりだ……ヘッドライト・レイ」


 容赦なく大和機の中心を撃ち抜くビーム。


 ピシッと乾いた音を立ててヒビ割れる大和のヘルメット。


「僕達は、どうしてこんなところまで来てしまったのだろう……」


 そう残して大和は湖上に散った。

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