第34話 VSインフィニットフリーダム(機動兵器)(1)


「凄いっ! 五十鈴さん! お兄ちゃん、もう10機もやっつけたって!」


 スマホで運と連絡を取り合っている久遠が五十鈴に告げた。


「じゅ、10機!? 10人で1機じゃなくて、1人で10機ですか!?」


「しかもまだ物足りないみたいで他の機体を探してるみたい」


「は、はは……何です? そのデタラメな強さは」


「五十鈴さん。呆然とするのも解るけど、敵軍の位置を把握するのに何か良い案は無い? これはもうお兄ちゃんを有効活用しない手は無いでしょう?」


「そ、そうでしたね。しかし、ドリアード達の力が制限されてしまっている以上は……」


「悔しいな〜! これで1機でも多くの公国軍機を止められれば有利になるのに! ……あれ? でもお兄ちゃん、また部隊を見つけて強襲してるみたい」


「え? 里と言っても闇雲に探しても無駄なくらいには広いはずなんですが……どうしてそんな簡単に敵機を見つけられるのでしょうか?」


「良く解らないけど、また何か変なスキルでも使ってるんじゃないかな〜? あ、全滅させた……と思ったら、また見つけたっぽい」


「あの機動兵器トラクターを千切っては投げるみたいに……信じられません」


「大丈夫! お兄ちゃんを信じて応援してようっ! 行っけぇーっ! お兄ちゃぁーんっ!!」


「勝てます! 勝てますよこの勢いなら!」


 五十鈴は運が飛び去った方角を見つめ、少し頰を染めながら目尻を垂れた。




 一方、快進撃を続ける運は早くも20体目の公国軍機を撃墜していた。


「こんな広い里でたかだか50機程度の公国軍機を見つけるなんて無理だろと思ったが、こいつら馬鹿なのか?」


 運は移動時においてはフォークリフトモードで高速かつ隠密に動いていた。


「暗号でもなく無線連絡をポンポンと……あっちの世界から来た学生さんってのは解るが……トラックにだって無線スキルはあるんだぜ? ま、黙ってりゃ敵さんの情報が筒抜けだから有り難いんだけどな」


 運の向かう方向には迷いが無かった。


「はい発見。こいつらチート能力で油断するのは解るが、本当に危機感のねー修学旅行中みてーな奴等だな」


 運は容赦なく不意打ちのビーム攻撃で公国軍機を混乱の内に仕留めていく。


「悪いけどこれ、戦争なのよね」


 投入された約50機の公国軍機の内、30機程を撃破した頃だった。


「皆さん! 直ちに無線連絡は止めて下さい! どうやら敵は精霊以外にも通信手段を持っています! 此方の動きが読まれています!」


 無線に若い男の声が流れた。


「おっと、ようやく気付いたか……ま、ちと遅かったようだがな」


 眼前に捉えた公国軍機を撃ち抜きながら運は軽快に笑った。


「どなたかは知りませんが、こんなことが出来るなんて、これを聞いている貴方も僕達と同じように転移転生者なのでしょう」


 無線の声の主は一方的に語る。


「僕はチリヌ公国軍トラクター部隊所属、大和やまと基良もとよしと言います。僕達はこれ以上の無駄な争いは望みません。もし貴方にその気があるのなら、僕と一騎討ちをしませんか? 貴方が勝てば、僕達トラクター部隊は潔くこの戦場から撤退します」


「ははっ、何だコイツ。撤退って言ってもトラクター部隊は既にガタガタなんだろ? 今更俺様がそんな話に乗る訳ねーじゃねーか」


「森の中に大きな湖を見つけました。湖上であればそちらも存分に力を発揮出来るのではないでしょうか?」


「……罠のつもりか?」


「もし応じて頂けるのであれば残りの部隊は集結させた上で武装を解除、その時点からの侵攻を保留とさせていだきます」


「バカなのか? まさか本当にロボットアニメの主人公にでもなったつもりなのか?」


 運は一度立ち止まって逡巡した。


「だが無線に気付かれた今、残り20機近い公国軍機が散らばることを考えれば……」


 運はそう自分に言い聞かせるように笑った。


「いいぜ! そういう熱い奴、嫌いじゃなかったんだった」


 トラックは一度森を上空に抜けた。


「湖はあっちか。とすると大和って奴はアイツだな」


 湖上の公国軍機はバックパックからのエネルギー噴射により浮遊しており、その翼にも似たシルエットから見ても他の公国軍機とは一線を画していた。


「なるほど、確かに他の量産型とは見た目からして全然違うな……ま、良い。放って置くよりも今ここで叩く」


 トラックは一直線に湖へ向かった。


「来て……くれたんですね」


 到着したトラックを見て大和は言った。


「本当にトラックでしたか」


「ああ、お前が名乗ったのであれば俺様も名乗っておく。日野運だ」


「日野さん、僕には守りたい世界があるんだ」


「それは俺様も同じことだ」


「解り合えませんか?」


「己が信念を賭けて戦うだけだ」


「僕は、殺したくなんかないのに……」


「時間が惜しい、行くぞ!」


 開戦は運の撃ったビームだった。大和機はそれを片手のシールドで防ぎ、もう一方に握ったビームサーベルを構えて運に迫った。


「そっちが来るならっ!」


 運も急発進で迎え討つ。


「速いっ!」


 そのあまりのスピードにサーベルを薙ぐタイミングを乱された大和機はトラックと正面衝突をして弾き飛ばされた。


「うわあああっ!!」


 大和機は吹き飛ばされながらも瞬時に体勢を整え、武器を銃に持ち換えてビームを放つ。


「チッ! 何だあの機体捌きは!」


 それを巧みにかわしながら高速で突進するトラックと大和機の2度目の正面衝突。


「マジかよ、俺様の突撃に耐えるだと!?」


「くううっ!! なんてパワーだっ!」


 2度目の衝突もトラックが押し勝った。


「僕も日野さんも恐らくステータスは全部機体! だからこの機体性能差は僕と日野さんのレベルの差なんだ!」


 大和機はトラックから距離を取ってビームを放つ。


「だけど解った! 日野さんはパイロットとして訓練を受けた訳じゃない!!」


 同じようにビームを掻い潜っての突撃を試みようとする運。


「機体の性能の差が、戦力の決定的差でないことを……教えてやる!」


 刹那、大和機の翼のような背後のパーツが複数に分かれて本体から独立し、それらが一斉に迫り来るトラックに向きを整えた。


「当たれぇー!!」


 大和機本体が放つビームの他、本体から独立したそれぞれのパーツからも一斉に放たれるビーム攻撃。それらはトラックに擦り抜ける隙間を与えなかった。


「こんなのかわせねーぞ!?」


 ビームの束をまともに受け、トラックは流れるように森へ落下した。


「何だあれ、反則じゃねーか。何発同時に撃って来やがんだ……こっちはヘッドライトからしか撃てねーんだぞ」


 ダメージを負いつつもトラックは再び森から上空へと浮かび上がる。


「信じられない、あの直撃を耐えますか」


「そっちこそ、機体の扱いが上手すぎんだろ」


 幾ばくかの沈黙の後、両者は再び空中で激しい激突を再開する。


 弧を描く互いの軌跡を追うように何度も衝突を繰り返しながら湖上を駆け巡るロボットとトラック。


 それを呆然と立ち尽くして見る公国軍機パイロット達は複雑な心境だった。


「なぁ。俺達は色んなロボットアニメを見てきたけど、未だかつてトラックがロボットとまともに戦ってた作品なんかあったか……?」


「どうなってんだ、あのパイロット」


「いや、それなんだが……トラックはパイロットじゃねぇ。ドライバーだ」


「なんてこった」


 そうしている間にも彼等の眼前では激しい激突が繰り広げられていた。

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