第33話 VS機動兵器(量産型)✕10機


「え? ギャグ?」


「ギャグとは? 運殿」


「結界が決壊した、とか」


 周囲を見渡してもとても笑える雰囲気ではなかった。


「マジ、なんだな?」


 結界が破られた事実は少なからずエルフ族に動揺を与えた。


 そこへ雪崩の如く大声を上げて踏み入って来る公国兵の圧力は、更にエルフの戦士を萎縮させた。


「怯むな! これも想定されていた事態の一つに過ぎない! 地の利、魔力の利を活かして戦えばまだ此方が有利だ!」


 五十鈴は自ら先陣に立って仲間を鼓舞した。


「うおおおおっ!! 各員、魔法攻撃、放てぇーっ!!」


 それに応じるように覚悟を決めたエルフの戦士達は奮い立ち、迫り来る公国兵に魔法攻撃を放ち始めた。


 森の木々の間を縫うように飛び、未だ姿も見えぬ公国兵を穿つことが出来るのはエルフの魔法の為せる技であったが、それはやがて数によって僅かずつにも押される形となっていた。


「う、うわあああっ!! き、来たぁ! 機動兵器トラクターだあっ!」


「うわああああっ!! 一気に5機も纏まって来たぁ〜っ!!」


 戦場の一角で声が上がった。


「遂に来てしまったか……」


 苦しげな表情で五十鈴が言った。


「1機10人で当たりたい機動兵器が5機。この状況でそんなに戦力を回してしまったら……」


「じゃ、俺様の出番だな」


「だね、お兄ちゃん! 頑張ってっ!」


「運殿に久遠殿、聞き違えたのですか? 機動兵器が5機ですよ!?」


「取り敢えず戦ってみてヤバそうだったら、そん時考えるわ」


 言うが早いか、運は声の挙がった方へ飛んで行った。


 そこにはエルフの魔法攻撃を物ともせずに木々を分け入って進む機動兵器の存在が。


「うわ。前に空から見た時は気付かなかったが、こいつら結構デカイな。10メートルはあるんじゃないか? 流石にこのままフォークリフトモードじゃ厳しいだろうし、かといって森の中じゃ小回りの効かないトラックでは満足に動けないだろうし……」


 運は周囲の環境を見渡して考えた。


「いや? こいつらもこの大きさで動けているんだ、アレなら行けるはずだ」


 運はフォークリフトモードのまま公国軍機に見つからぬように背後に回った。


「悪いが、不意打ちさせてもらうぞ!」


 運は公国軍機の後方から全力で突撃した。そしてその威力は一撃で公国軍機の胴体部分を粉砕した。


「行けるっ! やはり強度なら極限まで強化した俺様のトラックの方が強い!」


 一方、突然1機を失った公国軍機パイロットの通信網には混乱が訪れる。


「な、何が起きたっ!?」


「解らんっ! だが新井機が一撃でやられたようだっ!」


「一撃!? 一撃だと!?」


「何かが背後から高速で撃ち抜いて行ったんだ」


「前! 前を見ろっ! アイツだっ!」


「な、何だあれは!?」


「敵のトラクターかっ!?」


「い、いや違う。……あれは、俺達が良く知ってる奴だ……」


「トラック……トラックじゃねぇか」


「し、しかもヘッド部分だけだ」


 敵パイロットの前に浮いている物体は長距離トラックの荷台を除いた本体部分、トレーラーヘッドだった。


「見たか! 俺様の! トレーラーヘッドモード!」


 バァーンッ!! と効果音が鳴りそうな登場の割にその見た目は重心が悪そうで可愛い。


 急ブレーキを踏めばそのままドミノのように前方へ倒れてしまいそうにも見えるが、意外と重心は低いので平気なのである。


 コンパクトになったヘッドは木々の間を縫うように高速移動し、2機目となる公国軍機を突撃によって撃墜した。


「くそっ! 前原機もやられた! 構わん! ビームで応戦しろ!」


 残る3機は銃型の兵器を構えてビームを放った。


 それを自由旋回で難なくかわすトラック。


「ほほう、ビーム兵器とは格好良いじゃねーか。だがな、それはそっちの専売特許じゃねーんだぜ? 見てろ! ドリアード戦を経て新たに解放された俺様の光属性魔法をっ!」


 トラックは軽やかに戦場を舞い、その正面に敵機の背後を捉えた。


「ヘッドライト・レイ!」


 トラックのヘッドライトから放たれる強烈なビーム攻撃は一撃で同一射線上にあった2機を貫いて撃墜した。


「木村! 坂本! くそがっ! よくも!」


 そこへ状況を疑った公国軍の別の機動兵器部隊が合流する。


「おい高橋、一体何があった!」


「見て解らんねーのかよ! やられたんだよ! 新井、前原、木村、坂本の4人が! あのフザけたトラック野郎に!」


 そう言っている間にも新たに合流した5機の内1機はビームに貫かれていた。


「くそ〜っ! 粕川〜っ!」


「アイツはヤバい! 多少遠回りになってもアイツは避けろっ! 一時散開!」


 状況を瞬時に察知して他の機体に指示を出す合流隊の隊長。


 すぐさま散り散りにその場を離れて行く公国軍機達。


「くっ! 散られるとヤベえ。やっぱ数の優位を使って来やがったか……」


 運は頭を捻った。


「お。そう言えばコレは使い道がサッパリ解らなかったスキルだが、なるほど。きっとこういう時に使うもんなんだな」


 運は深呼吸をすると全力でハンドルの中央を押した。


「ヘイト・クラクション!!」


 戦場に鳴り響く大音量のクラクション。それを受けた公国軍機の散開はそこで不自然に止まった。そしてその通信網には再度混乱が走る。


「く、どういうことだ……あのトラックが意識から離れん!」


「これ、まさかタンク役の引き付けスキルじゃね!?」


「マジか!? 普通ロボでやる? それ」


「ロボじゃねーよ、トラックだろ」


「はは。俺ら、ヤベーやつに当たっちまったな。アイツ、常識が全く通じねーや」


 公国軍機パイロットからは笑いすら漏れる。


「そう言や、あのロボットアニメの連邦軍にもあんなモビルポッドみたいの、いたよな?」


「あ〜……丸い棺桶とか揶揄されてる奴か」


「あんな化け物みたいな棺桶がいてたまるか」


「これは異名が付くレベルの強さだな……」


 しかしその笑いも仲間が次々減っていく内に悲壮さを増して行く。


「もう逃げられもしねーって訳だよな、俺ら」


「だな。だが、せめて誰か大和やまとに無線入れとけ。あんな奴に対抗できんのはアイツのぶっ壊れ性能専用機『インフィニットフリーダム』くらいだろうぜ」


「くそ、せっかく夢とロマンのロボット異世界にクラス転移出来たと思ったのによ……」


「確か、始まりも修学旅行のバスとトラックがぶつかって……だったよな俺達」


「くそ。トラックの悪魔……死神め」


 公国軍の機動兵器、計10機は運との交戦により大破した。

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