第32話 VS公国軍
公国軍が動き出した件を聞き、運と久遠はオクヤの里へ文字通り飛んで帰った。
「五十鈴さんっ!」
「久遠殿! 運殿も! ……ついにこの時が来ました」
「それを聞いて飛んで来たんだ。状況は?」
「実は公国軍の動きが直前まで巧みに隠されておりまして。近領のコエ領を発した軍は明日にもオクヤの森に到達する見込みです」
「戦力差はどうなんだ?」
「里の戦闘可能人員は2千弱、うち半数以上は素人です。対する公国軍は1万」
「うそ。5倍も兵力差があるの……?」
「しかも厳しいのは、約50体の機動兵器トラクターが確認されていることです」
「ヤバいのか?」
「正直、1機につき10人くらいで当たりたいですね」
「それらを総合してどう見るんだ?」
「単純に戦力だけを見れば圧倒的に不利でしょう。ですが結界、地の利、精霊達……諸々考えますと恐らくは五分五分くらいにはなるかとは思います」
「……本当か?」
「どう言うこと? お兄ちゃん」
「攻める方は勝算があるから攻めるんだろ? 五分五分の見込みで来るか?」
「やはり……運殿もそこを気にされますか」
「でも二人とも。公国側にも戦力を割けない理由があるんじゃないの?」
「そうですね。特にイロハニ帝国側にも備えておかねばならないはずですから、それもまた理由の一つとして間違いではないのでしょう」
「それにしては不気味、そんなところか?」
「はい……ですが、我々としては敵がどう来ても迎え討つのみ」
「そうだな。今、俺達に出来ることは備えることくらいだ」
「はい! まずはお二人とも、今日のところは旅の疲れをお癒し下さい」
その日は緊張の夜を過ごした。
翌日、公国軍はオクヤの森を包囲し宣戦布告も無く侵攻を開始した。
鬨の声を上げ、高い士気を持って迫り来る公国軍に対し、迎え討つ森側はシンと静まり返っていた。
「なあ五十鈴。今更なんだが、結界ってのをこの戦いではどう使っていくんだ?」
「広大な森の中に公国軍を彷徨わせ、うち一部分だけを里に通し、確実に各個撃破して行くのです」
「要するに五十鈴さん、狭い通路を通ってくる敵を挟み撃ちにするようなイメージでいいのかな?」
「良い例えです久遠殿」
「へえ、凄いもんだ。だが、そうなると森の中には凄い数の兵が溜まっていくのか」
「そうですね。しかし、ただ森の中で遊ばせておく訳ではないのです」
「ああ、なるほど。悪戯好きのドリアードと遊んでもらうんだな?」
「ふふ。その通りです」
「うう……恐ろしい」
久遠は身震いした。
「更に、ドリアード達の連携は私達の情報伝達手段にもなっています」
「凄いな。つまりは森全体に精霊の目や耳があるってことか」
「そう言うことです」
「なるほど、まずは情報戦って訳だな。なら俺も役に立てるかも知れん」
「運殿、それは一体どう言うことですか?」
「最近のナビは優秀でな。渋滞を回避する機能なんてのもある。これをスキルとして使用すれば、逆に敵が集中する場所が解るはずだ……出来るか? ナヴィ」
「かしこ……し……スター」
「ナヴィ? どうした?」
「お答……マス……どうやら……」
そこへ五十鈴が厳しい表情で声を発した。
「運殿、久遠殿。どうやら早くも雲行きが怪しくなってしまいました」
「五十鈴、一体どうしたんだ」
「どうやら、敵が何らかの手段を用いて精霊の弱体化を図っているようです」
「そういうことか。だからナヴィも調子が良くないのか」
「だ、大丈夫なの? 五十鈴さん」
「ええ。厳しいことには変わりないですがまだ平気です。私達にはまだ要の結界がありますから」
その時だった。
バリバリバリッ……!!
空を裂いたか雷のような大きな音が森全体に響き渡った。
「そ、そんな……」
その音を聞いて武器を落とすエルフさえいた。
「な、なに今の音? 何が起こったの? 五十鈴さん」
久遠の尋ねにも、五十鈴は暫く呆然としていた。
「おい五十鈴! しっかりしろ!」
「あ……すみません、運殿」
運に肩を揺さぶられて五十鈴は正気を取り戻した。しかしその表情は暗い。
「一体どうしたんだ? 何が起こったのか説明してくれ」
「はい……」
五十鈴は力無く言った。
「結界が、破られました」
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