第31話 マケフ領を見学しよう
運と久遠はエルフ族長ギガの紹介によってマケフ領主との面会を経てから領地内を見て回ることになっていた。
「初めまして。私はこのマケフ領の領主を任されておりますエアロスターと申します。こちらは妻のローズです」
「初めまして。妻のローズです。オクヤの里からの試作品を頂いてからと言うもの、お会い出来る日を心より楽しみにしておりました」
若い美男美女の領主夫妻は笑顔で二人を迎え入れた。
ひと通り挨拶を済ませた後、領内の概要等を聞き、
マケフ領は農業が盛んな土地柄ということもあり、何処へ行っても静かで穏やかな雰囲気が漂っていた。
「流石に農道はちと狭いが、それ以外は家も土地も広々としていて、トラックでの移動も楽だな」
「良いところだよね〜。領主様も親切で優しいし、憧れのスローライフが送れそう」
「意外だな。てっきりお買い物が出来ない〜とか、虫がいっぱいで嫌〜とか言うと思ってたんだけどな」
「あ、虫除けスプレーとかも作れたら良いかもねっ!」
「ほんと逞しい奴だよ、久遠は」
物件探しは案の定、賑やかに楽しく進んだ。
その日は領主の計らいもあって、二人は手配された宿に宿泊することになった。
「明日は紹介してもらった商人ギルドの方とのお話だねっ!」
「えらくトントン拍子に話が進むなあ」
「それならそれで良いじゃん!」
「もう流通の面とかも考えていたりするのか?」
「一応考えてはいるけど、量産が出来るようになるまではね〜」
「それもそうか」
「でも、少量なら少量なりの作戦もあるよね」
「お? どんなだ?」
「例えば、あっちの世界から来た転移転生者からすると喉から手が出る程欲しい品じゃない? どうせチート能力でたんまり稼ぎがあるんだろうから、最初は彼等を相手にガッツリ稼ぐのも有りかな〜、なんて」
「まさか転移転生者を搦め手で牛耳って行くつもりか……? 恐ろしい奴だな。変な奴に目を付けられなければ良いんだけど」
「大丈夫! そしたら世界最強のお兄ちゃんが守ってくれるもーんっ!」
「……少なくとも俺はもう久遠に籠絡されているのかも知れんな」
運はベッドに身を投げた。
「それよりどうだ久遠。今日一日マケフ領を回ってみた感想は」
「もちろん良いよ! 人々も明るくて暖かいし、土地も広いから後々倉庫とかを拡張したくなっても対応可能だしね」
「オクヤの里にも近いしな。決まりそうか?」
「そうだね。後は明日の商業ギルドのお話と公国内の状況を見て、って感じかなっ!」
「そうか、それなら良かった」
「明日もう一日、色々見て回ったら一度オクヤの里に報告に戻ろっか」
「そうだな」
「じゃあ今日はもう疲れたし〜……」
久遠は運のベッドに倒れ込んでくっついた。
「一緒に寝よっか」
「駄目だ」
「ぶー」
久遠はベッドから摘み出された。
「私もう、明日頑張れるか解らな〜い」
「う。それは駄目だ……仕方ない、今日だけだぞ」
「やったっ!」
久遠は再び運のベッドに潜り込んだ。
「お兄ちゃん私は? 私は良い匂いする?」
「ん? まあ……そうだな」
「えへへ〜。何なら手を出したって良いんだよ? ここでは血は繋がってないんだからね、私達」
「何言ってんだ、12歳の身体で」
「ねぇねぇ。この場合お兄ちゃんはロリコンになるのかな? それともシスコン?」
「どっちにもなんねーよ。くだらないこと言ってないで早く寝ろ」
「ぶー」
その日、二人は何故か暫くモゾモゾしながら眠りについた。
翌日の商業ギルドとの話も久遠が上手く纏めた形に収まった。
ギルド代表と握手をして建物を出た二人の元に息を切らせた領主エアロスターがやって来た。
「あ。エアロスターさん、おはようございます。おかげさまで商業ギルドとのお話も上手く纏まりそうです、ありがとうございました」
「それは良かった。……ところで、代表はまだギルド内に?」
「そうですね、先程まで私達といましたから。……エアロスターさんは随分とお急ぎのようですね?」
「ええ、それはもう」
エアロスターは思い付いたように言った。
「そうだ、貴女方も無関係ではありませんよね。重大事件ですよ、とうとう公国軍が動き出しました」
「「えっ!?」」
二人は驚いて顔を合わせた。
「軍は既に近領のコエ領を発したようです」
「お兄ちゃん大変っ!」
「私はすぐに対策を講じねばなりませんので、忙しなく申し訳ありませんが失礼させて頂きます」
領主は飛び入るようにギルド内に入って行った。
「久遠、俺達はすぐに戻った方が良いな?」
「当然! すぐに戻ろっ!」
二人はすぐにトラックに乗り込み飛び出した。
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