第29話 薬草採取は危険がいっぱい


「お兄ちゃん、フィリーさん! 遅い! 遅いよ! 私、先に行くからね!」


 久遠は薬草採取に夢中になって一人で森の奥に分け入って行った。


「元気だなぁ久遠の奴」


「でも助かる。ありがとう」


「お礼を言うのは俺の方だよ。ありがとうな、久遠の話を聞いてくれて」


「何の何の。里のために力を貸してくれるって聞いた。何かお返ししたい」


「いや、十分だって」


「いやいや」


「いやいや」


 二人は顔を合わせて笑った。


「運は良い人。警戒心の強い五十鈴が絆されるのも納得」


「買い被るなよ。俺はそんな出来た人間じゃねぇ」


「五十鈴から色々聞いてる。強大な力の持ち主が貴方のような人で良かった」


「し、知らねえよ。俺はあっちで薬草探すわ」


「……照れてる」


 運はフィリーから少し離れて薬草を探し始めた。


「しかしこの森は本当に薬草の宝庫だな」


「ドリアード達のおかげ」


「しかも薬草以外にも木の実やキノコも豊富ときてる」


「気を付けて。この辺りには無いけど、奥の方に行くと毒キノコもあるから」


「大丈夫だ、ナヴィやドリアード達が教えてくれるからな」


「何気に凄いことを当たり前のように……」


 運達は暫く採取に夢中になった。


「うわ、見ろよフィリー。これなんかモロに毒キノコだ。ピンクのハート型だぞ、珍しいな」


 運はそのキノコを手に取ってフィリーに見せた。


「!! すぐに投げ捨てて!」


「え?」


 想定外の反応を示したフィリーに戸惑っていると、すぐにフィリーが飛んで来た。


「ダメ! そんなキノコがこんな場所にある訳ない! これは罠なの!」


「冗談だろ?」


 ところがフィリーは些かの迷いもなくそれを取り上げようと手を伸ばした。


 その時だった。ボフンと音を立ててそのキノコが周囲に胞子を撒き散らしたのだった。


 それをたっぷりと吸引してしまう運とフィリー。


「遅かった……やられた」


「やられたって、誰に?」


「ドリアード達に」


「ドリアードって……仲間じゃないか」


「でも悪戯好きなの」


「悪戯って……これ、どうなるんだ?」


「どうなるって……」


 フィリーは目をキラリと光らせ、突然運に向かって飛び掛かった。


「うわ! どうしたんだフィリー!」


 二人は運を下にして重なるように地面に倒れ込んだ。


「これは所謂、チャームの状態……こうなっちゃったらもう、なるようになってしまう」


「な、なるように……?」


「私はもう、我慢できない……」


「ちょ、ちょっとフィリー。む、胸が当たっているんだけど」


「押し当てているんだけど?」


「う……ヤバい。何か俺も変な気分になってきたかも」


(なんかフィリーがメチャクチャ可愛いく見えてしまう。いや、普通にしてても可愛いんだが……)


「ね? しかもここ、図ったようにふかふかな草のベッドの上……私達はまんまとドリアード達の罠に嵌ってしまったの」


「マジか……俺もちょっと我慢できそうにないんだが……」


「だから、なるようになると言った」


 そう言ってフィリーは一度身体を起こして自らの服のボタンを外した。


「大丈夫。これは全部罠のせい。私達は何も悪くない」


「そ、そうだな」


「諦めてくれた?」


「諦めるも何も、願ってもないんだが……」


「そういう正直なところ、嫌いじゃない……五十鈴には申し訳ないけど……私、もうダメ」


 フィリーは再び運の上に寝そべると、そのまま運の首筋にキスをした。


 それは同じくチャーム状態にある運の理性を吹き飛ばすには十分な刺激だった。


「フィリー!」


 運はフィリーを強く抱き締め、そのまま横に転がり上下を逆転した。


「きて、運」


「フィリー……」


「何やってんのお兄ちゃん達」


「「ギクゥッ!!」」


 運とフィリーは跳ね上がるように身体を固めた。


 ギギギ……と首を動かして見れば、それはもう直視することも出来ない表情で仁王立ちする久遠がすぐ目の前に。


「久遠、違うの。これはそこのチャーム茸の胞子をうっかり吸ってしまって……」


「そうなんですか〜。それで? そのチャーム茸は何処にあるんですか?」


「え? ……な、無い。そんな。ち、違うの。これはドリアード達の罠なの」


「そ、そうだぞ久遠。俺達は別に……」


「ヒール」


「「え?」」


「さ、これで状態異常は治ったはず」


「そ、そうか助かったよ久遠」


「あ、ありがとう」


「で? 治ったのにいつまでそうしてるつもり?」


「いや、下手に動いて変な所触ったらフィリーに悪いし……」


「私は別に、構わないケド……」


 名残り惜しげに視線を交わす運とフィリー。


 カシャリ! とシャッター音が鳴る。


「久遠! それは!」


 運が視線を上げればスマホを構えている久遠。


「これは五十鈴さんと相談かな」


「ぎゃー! ちょっと待ってくれ久遠それは!」


「く、久遠。久遠ちゃん!? さぁ早く帰って商品の開発をしましょう!」


「い・い・か・ら! まずは二人とも離れてから言い訳を聞きましょうか」


「「は、はい……」」


 この後メチャクチャ正座した。

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