第28話 試作品


「あ~! フィリーだ~! 久しぶり~!」


「キャハハ~。どうせまた引き篭もってたんでしょ~」


 ドリアード達はフィリーに寄って行った。


「研究と言って欲しいな……ところで、二人はどうしてまたこんな所に?」


 ドリアード達を掻き分けるようにフィリーは運と久遠に尋ねた。


「ちょっと魔法の練習にね」


「使えるようになった?」


「まあ何とか……」


 そう言う運の言葉をかき消すようにドリアード達がフィリーを取り囲んだ。


「フィリー聞いて聞いて! 私達、負けちゃったの!」


「もうすっごい魔法! みーんな凍っちゃったんだから」


「え……? 戦ったの?」


「私達が勘違いしちゃって、皆で攻撃しちゃったの」


「え……? 皆で? ……運、久遠。二人とも、良く無事だったね」


「死に掛けたよ」


「私は悪戯されかけました」


「でも凄い。ドリアードの集団に森の中で勝っちゃうなんて」


「そうなのか?」


「軍隊を相手にしているようなもの、アウェイで」


「お兄ちゃん、凄ーい!」


「なるほど、だからエルフ族はチリヌ公国をこの森で迎え撃とうとしているのか」


「それもある。結界、精霊、そして私達エルフも一人ひとりが優れた魔法使い。更に他にも手を残している。だから誰も人間の軍隊如きに遅れを取るとは思ってない」


「里の規模の割に色々と凄いんだな。何て言うか、文明の差? 正直、そう言うのが大きく響くもんだと思っていた」


「発展した文明の方向性が違うだけ。相手は機械、こちらは魔法」


「機械と魔法のガチンコ対決ってやつか」


「そんなとこ」


「でもさ、ドリアード戦でも思ったんだが、森だと火攻めで全滅しないか?」


「確かにその可能性も0ではないけど、この森は公国の貴重な資源の一つでもあるから。帝国との戦争のために自国の領土を焼くとか考え難い」


「そっか」


「それに考えてもみて? 相手の機動兵器の心臓は誰が作っているのか。むしろ文明水準の差は明らか」


「なるほど。だから皆さん落ち着いているんですね」


「そういうこと」


 運と久遠は深く頷いた。


「ところで、フィリーはどうしてここへ?」


「薬草の採取」


 そう言ってフィリーはドリアード達を見た。


「カレンいる?」


 フィリーが尋ねると少し離れた木々の間から上品な姿のドリアードが姿を見せた。


「はい、こちらにおりますよ」


「やあカレン、久しぶり」


「フィリーさんもお変わりなく」


「早速なんだけど、薬草頼めるかな」


「はいもちろん。ですがその前に……」


 カレンと呼ばれたドリアードは運と久遠の前まで歩いてきた。


「初めまして運様、久遠様。私はオクヤの森のドリアードを代表しておりますカレンと申します。先程は仲間達が失礼をいたしまして申し訳ございませんでした」


「それはもういいよ。もう仲間みたいなもんだろ?」


「そう言って頂けると助かります。これから、どうぞよろしくお願いいたします」


 カレンは丁寧に頭を下げた。


「それで、フィリーさんはいつもの薬草ですか?」


「ううん。今日はちょっと違うんだ。実は先日、この人達が変わったお薬を提供してくれてね。試作品が出来たものだから、これからもうちょっと量を作っていこうと思って」


「フィリーさん! もう出来たの!?」


 フィリーは久遠に親指を立てて返答した。


「魔法文明も捨てたもんじゃない」


「凄。科学の部分とか難しそうだし、もっと時間が掛かるものかと思ってました」


「確かに高度な文明の産物だね。ミューがアシッド系魔法の調整で苦戦していた」


「凄いな。俺達が難しいと思ってる部分は魔法でやっちゃうのか」


「うん。でも一度基本理論が出来てしまえば誰でも出来る。量産は可能」


「良かったね~、お兄ちゃん!」


「エルフ様々だな」


「そうだ! フィリーさん! もしかしてお渡しした薬品以外にも、性能とか使い道とかが解れば試作品とかって作れますか?」


「ん? それはやってみないと解らないけど……どういうもの?」


「化粧品です!」


「それなら既存のものもあるし可能だと思うけど……ボディソープを見ても久遠達の世界の文明は発展しているよね? それを久遠が詳細まで把握できてるの?」


「確かに。久遠、俺だって現代知識無双とかは無理だぞ」


「それはそうだけどさ。ジャーン! 私達にはスマホがある!」


「調べられるのか?」


「流石に企業が自社製品の成分詳細を公開なんかしないけどさ。調べれば結構色々出て来るんだよ。エヒモセスにだって既存の化粧品はあるんだから、これらの知識を活用すれば、きっともっと良い物ができるはずだよ!」


「お、おう……化粧品は大事だな」


「そうだよ! 私だってお肌の手入れはしたいし」


「お、おう……」


「フィリーさん! 私達も薬草集めお手伝いしますから、ちょっとご相談いいですか?」


「お、おい! 俺を勝手に巻き込むなよ」


「ねぇお兄ちゃん。お兄ちゃんも私や五十鈴さんが綺麗になったら嬉しいよね?」


「え?」


「嬉しいよね?」


「……はい」


「そうだよね~。そうだと思った」


 運は肩を落とした。


「運も色々大変そう」


「フィリー、すまないが久遠の相談に乗ってやってはくれないか? こと商売の話になると、どうも俺は久遠に敵わないらしい」


「私が見た限り、単に商売だけの理由じゃないんだけど……ま、いいよ。私だって女の子だからね、興味があるっちゃある」


「やった~! ありがとうフィリーさん!」


「それじゃあ詳細は後で詰めるとして。まずは採取に来た薬草からかな」


「はーい! 私、頑張るっ!」


「おう、頑張れよ」


「何言ってんの! お兄ちゃんも頑張るんだよっ!」


「お、おう……何か前もやったな、このやりとり」


「可愛い妹に尻に敷かれて幸せそうだね、運」


「そう見えるか?」


「うん。……でも、私としては五十鈴のこともよろしく頼みたいかな」


「ん?」


「ま、気にしなくても良いけど。それじゃ、薬草集めよっか」


 歩き出したフィリーの後姿を運は首を傾げて見ていた。

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