第27話 VSドリアード(2)


「キャハハ〜、この子凄ーい! まさか罠がバレちゃうとは思わなかったな〜」


「もう少しで花火だったのにな〜」


「ちくしょう、八方塞がりじゃねぇか」


「ま、バレたところで打つ手無しじゃ状況は変わらないけどね〜」


「デュフフ、この知的な幼女が快楽に汚されていく様をそこで見ているでごじゃる」


「いやあ〜! お兄ちゃぁ〜ん!」


「そんなことはさせねぇよ!」


 運は気力を振り絞って再び立ち上がった。


(しかし物理攻撃無効たぁ俺様のトラックには致命的だな……しかも魔法攻撃にしたって炎はダメ、発動条件もイマイチ良く解ってねぇ)


「あれあれ〜? 立ち上がっただけ〜?」


「きっともう限界なんじゃ〜ん?」


(そもそも何で俺様の魔法は普通の名前じゃねぇんだ? その上俺自身には魔法適性も無いと来てる)


 運は思考を巡らせた。


(もしかして魔法適性無しってのは、俺自身は本当に魔法を使えないってことなんじゃないのか?)


「イイコト考えた! 兄妹で捕らえて背徳ごっこさせちゃうでごじゃる!」


「だ、だめ〜。お兄ちゃんとそんなコト……」


「久遠お前、なんでちょっとニヤけてんだ」


「ち、違うもん!」


「とにかく、そいつも捕らえるじゃ〜ん?」


「くそっ」


 運は仕向けられた蔓を転げるようにかわし続けながら、それでも思考を続けていた。


(その上で考えると、一般的な魔法じゃないってのは俺様だけの特徴……即ちトラックに関係するってこと……?)


「キャハハ〜! そろそろ無呼吸も無理だよね〜?」


「ついでに腐食粉で装甲もやっちゃう?」


「よ〜し、兄妹揃って着ぐるみ剥いじゃうぞ〜!」


「フォカヌポゥ! それがイイでごじゃる!」


(トラック由来! そうだ、それならこの魔法も説明が付く。ケツから火が出たのもイメージとしては合ってる。つまり他の魔法もトラック運転のイメージで……)


「あ〜! もうメンドイ! 全方位攻撃行っちゃえ〜!」


「りょーかいでありますっ!」


 とうとう逃げ場の無い全方位からの蔓が運に襲い掛かった時だった。


(バックファイアが封じられた以上、もうぶっつけ本番でもこの場はこれっきゃねぇ! ええい! やってやる!)


 運は回避を諦めて全神経を魔法を放つイメージに集中させた。


「くらえ! チルド!」


 パキィ! と音を立てて襲い来る蔓が凍り付き、その動きを止めた。


「うそっ!? そんな魔法もありっ!?」


 一瞬ドリアード達の動きが止まった。


「やっぱり! 行ける! こいつをもっと広範囲に放てれば……」


「ヤババッ! みんな一時避難しよっ!」


「させるかよっ! みんなまとめて一網打尽にしてやる!」


 そして運は更に力を込めて叫んだ。


「チルドルーム!!」


 瞬間、周囲一帯を時間をも凍り付かせるかのような冷気が包み込んだ。


「はぁ……はぁ……どうだ……?」


 運は力を使い果たしてその場に倒れ込んだ。


「うわ〜! 動けないよ〜!」


「私も〜! 凍っちゃった〜!」


「木々が凍っては退避できないでごじゃる〜!」


「キャハハ〜! やられちゃったね〜!」


 ドリアード達の行動は氷漬けによって一人残らず制限された。


「はは、どうやら何とかなったようだな……」


「やったぁ〜! お兄ちゃん! とうとう魔法が使えるようになったんだね!」


「ギリギリの状況だったが何とかな。待ってろ、今降ろしてやる」


 運は久遠を拘束する蔓を断ち切り、久遠を救出するとそのまま抱き抱えて地上へと降ろした。


「あ、ありがとお兄ちゃん」


「俺の方こそ、あそこでヒールが無ければ完全にやられてたよ。いや、その後の罠にも引っ掛っていただろうな」


「私達、ナイスコンビネーションだねっ!」


「おう! 何年離れていてもやっぱり兄妹なんだな」


「うん! ……へっくちっ!」


「お、どうした? 寒かったか?」


「そりゃ寒いよ……周囲一帯が氷漬けなんだもん」


「あ、そうだったな」


「でもダメ! ドリアード達を封じておかないと! 私はお兄ちゃんにくっついてるっ!」


「お、おい! ……ま、今回はいっか」


「うん! えへへ〜」


 久遠は満面の笑みで運の背中に貼り付いた。


「さて、お前らドリアードだっけか。俺様の妹に手ェ出した以上、どうなっても知らんからな」


「「う」」


「「え」」


「まずはお前らのその葉っぱの服を全部剥いでやる」


「い、いやぁ〜!」


「せ、精霊だって裸は恥ずいんだからね!」


「おいおい、誰が服を剥ぐだけで許すって言ったよ?」


「や、まさか……イヤぁ〜!」


「陵辱は好きでもされるのは嫌でごじゃる〜」


「お兄ちゃん、そのくらいにしときなさい」


 忍び寄る運の背後から久遠がチョップで止めた。


「いて。何だよ良いところなのに」


「そんなことするつもり無いくせに」


「そりゃそうだけど……」


「え……許してくれるの?」


「何も酷いことしない?」


 怯えるドリアード達に運は武装を解いて微笑みかけた。


「お前らすまなかったな。ワザとじゃないにしろ、先に森に火を点けたのは俺達だからな」


「もちろん、焼けちゃったところは私が治すからね!」


「ホント!?」


「本当だよ。私は何でも治せるんだから。見てて、ヒール!」


 久遠のヒールでたちまちに樹の焦げた部分が治っていく。


「ホントだ。やっぱりこの子凄~い!」


「ゴメンさない。私達、ちょっと勘違いしてたみたいでごじゃるよ……」


「ん。誤解が解けたのならもう拘束しておく理由もないな」


 運は周囲の凍結を解いた。


「キャハハ〜、動けるようになった〜」


「悪い人達じゃなかった〜!」


 運と久遠の周りを嬉しそうに飛び回るドリアード達。


「ごめんね〜。お詫びに森で採取できる植物は何でもあげちゃうよ〜」


「その分私達が生やしておくから、安心していっぱいいっぱい採ってね〜」


「わ。本当!? それってとっても素敵!」


「お役に立てれば嬉しいよ〜」


「これから仲良くしよ〜ね〜」


「うん。よろしくね! お兄ちゃんも良かったねっ!」


「おう。何とか一件落着だな」


 運がそう言った時だった。


「あれ? みんなこんな所でどうしたの?」


 そこに現れたのはフィリーだった。

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