第26話 VSドリアード(1)


 運と久遠の前に現れた精霊達。その数は優に十を超え、運達は取り囲まれていた。


「お兄ちゃん、きっと彼女達は樹の精霊ドリアードだよ。私も初めてみたけど」


「へええ。珍しいものなのか?」


「少なくとも簡単に人前に現れる存在じゃないね」


「もしかして友好的じゃないのか?」


「そんなことは無いと思うけど……」


「の割には今にも攻撃してきそうに見えるが?」


「もしかして森に火を点けちゃったから怒っているのかも……」


「あ〜、じゃあワザとじゃないって謝らないとな」


 運は両手を上げ害意が無いことをアピールしながらドリアード達に近付いた。


「聞いた?」


「聞いた聞いた」


「ゴメンで済ますってさ〜」


「キャハハ〜! じゃあ私刑執行〜!」


 近付く運に構えるドリアード達。


「あはは。私、知〜らないっと!」


 後ろ足で距離を取る久遠。


「お、おい久遠。そりゃないって」


「あ、お兄ちゃん。後ろ危ないよっ!」


「えっ!? ちょっと待てって!」


 運が振り返った時、ドリアード達の攻撃準備は既に整っていた。


「待つ訳なーし! でごじゃる」


「やっちゃえー!」


「リーフカッター! ってぇー!」


「りょーかいでありますっ!!」


 放たれる葉は刃の如く運を掠め皮膚を切り裂いて行った。


「痛ぇ! こりゃひとまず守らせてもらわんと」


 堪らず運は全身にトラック装甲を纏った。その装甲は葉刃を物ともしない。


「生意気だぁ〜!」


「捕らえてボコれー!」


「蔓を伸ばせ〜!」


「りょーかいでありますっ!!」


 続いての攻撃は伸びる蔓を使っての攻撃だった。


「おっと! 流石に素直には捕まれないな」


 迫る蔓を回避しながら語り掛ける運。


「ちょっと! 話を! 聞いて! くれよ!」


「聞く訳なーし! でごじゃる」


「捕らえてチョメチョメ、あーっ! だ!」


「蔓の数を増やせー!」


「りょーかいでありますっ!」


「くっそ、キリがねぇな。仕方ねぇ、ちょっと痛いけど我慢してくれよな」


 運は蔓の隙間を縫うようにかわしながらドリアードとの距離を一気に詰めた。


「峰打ちだから勘弁してくれよ!」


 背後を取ったドリアードの一体をワイパーブレードで攻撃する運。しかしその攻撃はドリアードの体を擦り抜けただけだった。


「なにぃ!? 切った感触がねぇ!?」


 隙を見せた運はしなる蔓に撃ち落とされて地に叩きつけられた。


「痛ぇ……が、流石はナヴィ。装甲の内側にはクッションシート内蔵か、おかげで衝撃耐性もなかなかだな」


 ブレードを支えに身体を起こす運。


「コポォ! 精霊に物理攻撃とか」


「バカなの〜?」


「死ぬの〜?」


「ねぇねぇ。安楽死の薬欲しい〜?」


 笑い転げるドリアード達。


「だめ! お兄ちゃん! 精霊には実体がないから物理攻撃じゃ倒せないよっ!」


「げ! マジか!?」


「ここはオナラファイアじゃないと!」


「バックファイアだ!」


「ギャーハハハ! ケツから火を吹く人だ〜!」


「臭そうでごじゃる! 臭焉の業火オツ〜!」


「くっそ、馬鹿にしやがって!」


「待って! これは私達を笑い死にさせる作戦!」


「キャハハ〜、私達の弱点属性だ〜!」


「お前ら、一回泣かせてやるからな!」


「お、オナラこく気になった〜?」


「でも、もう遅いけどね〜!」


「まだ気付いてないのかな〜?」


「そろそろ効き目出るんじゃない?」


 次々に囃し立てるドリアード達。


「は? 何言ってんだお前ら……って、あれ?」


 運は急な目眩に襲われ、膝を屈し両手を地についた。


「何だ? 急に目が回って、くそ。体も痺れて来やがった……う、吐き気まで」


「デュフフ! 状態異常コンボでごじゃ〜る」


「毒、麻痺、混乱。はいサイナラ〜」


「くっそ、体が言うこと効かねぇ」


 ドサリと音を立てて運は潰れるように大地に倒れた。


「いけない! お兄ちゃん、生身は普通の人間なのに!」


「ねぇねぇ、いつの間に攻撃されたか知りたくない〜?」


「キャハハ〜! 教えてあげないくせに〜」


 笑い転げるドリアード達をよそ目に久遠は運に近寄った。


「大丈夫お兄ちゃん! 今治すからっ! ヒール!」


「助かった、ありがとう久遠」


「ううん、私のことは良いから……きゃあ!」


 次の瞬間、久遠の身体は蔓を巻き付けられ、上空に引き上げられた。


「久遠!」


「キャハハ〜、邪魔は良くないよね〜」


「まぁ待つでごじゃる。見ればなかなかに可愛い幼女。これはこのまま触手で悪戯が定石でごじゃろう」


「それはいやあ〜! 助けてぇ〜! お兄ちゃぁ〜ん!」


「くそ! 待ってろ久遠!」


「ダメダメ〜。そうはさせないのであります」


「ま〜たすぐに状態異常にしてあげちゃうじゃん?」


「お兄ちゃん気を付けてっ! 状態異常を引き起こすのは花粉や胞子……むぐっ!?」


 久遠の口に蔓が突っ込まれた。


「デュフフ、お口は塞ぐでごじゃるよ」


「キャハハ〜、なんかヤラシ〜!」


「久遠! くそ、迂闊に呼吸も出来ねぇってのかよ!」


「今更息を止めても無駄じゃ~ん?」


「いつまで続くかな〜?」


「くそ、こうなったら躊躇ってる場合じゃねぇ。バックファイアを使うしか……」


 その瞬間、口を塞ぐ蔓を噛み千切って久遠は声を上げた。


「駄目お兄ちゃん! 罠だよ! 多分お兄ちゃんの周りは引火性の花粉で囲まれてるっ!」


「なんだって!?」


「このままバックファイアを使えば大爆発! つまりお兄ちゃんはオナラのせいで死!」


「!! それだけはマズイ!!」


 運は再び膝を屈することになった。

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