第15話 VS忍者(2)
(弱ったな、一度上空に飛んで逃げるか? そんで多分このインパクトアースとか言う隕石すら砕いた技を撃てば一発で片付くんだが……流石にこれは撃っちゃ不味い気がする)
「ファファファ、どうする? お前の行動は森に阻まれ、俺達の姿は見えず、足音も聞こえない……いつ首を掻き切られるか、恐怖するが良い」
(不味いな。流石はトラック、力が大振り過ぎて小回りが利かない……)
その時だった。
「……ナ チカラガ ホシイカ……」
「ん? 何だ? 声が聞こえる」
「チイサナ チカラガ ホシイカ……」
「誰だっ!?」
「マスター、ナヴィです。一度言ってみたかったのです」
「お前か! で、その小さな力って何だよ?」
「お答えします。小さな力とは、マスターが現在のように狭い場所で戦闘をする場合に適した戦闘形態のことです」
「そんなことが出来るのか!?」
「可能です。良くお考えください。マスターは今までトラックの任意の部分、即ちナビ画面のみを展開しておりました」
「そう言えば俺様の身の回りに限るが、思ったところに思ったように出現させられるな」
「そうです。ですのでそれで利用しマスターの全身を覆うのです。最強のトラック装甲で」
「ト、トラック装甲だとお!?」
「!? マスター、速やかな展開をお勧めします」
ナヴィの警告の直後、運は自身の首元に衝撃が走ったのを感じた。
「ファファファ、首を一撃、他愛も無い」
しかし勝ち誇った忍者の腕は運によって捕まれた。
「一人目、捕まえたぜ」
「なにぃ!? な、何故死なない!?」
慄く忍者の瞳に映る運は、トラック装甲を断片的に全身に貼り付けた、目の粗い3Dポリゴンのような姿をしていた。
「名付けて、フォークリフトモード!」
「だ、だせえええええ!!」
「だせえのはそれが最期の台詞となるお前だ」
運から放たれる掌底に、まるでトラックに撥ねられるかのような恐怖と重圧を覚えながら男は飛び散った。
「「な、なんだってえ!?」」
忍者達は声を上げて慄いた。
「思えばアサシン戦の時も無意識に一部発動していたのかも知れないな。全身を覆うとなるとカクカクで流石にだせえのは解るが……ともかく、これで俺も小回りの利いた戦闘が可能になった訳だ……格好の悪さについては今後改良の必要があるがな」
「何て奴だ……だが、こちらの姿が見えなければ攻撃はできまい!」
「ん~。それなんだが、俺様良いことを思いついた」
「な、なにい!?」
瞬間、男達の視界から運の姿が消えた。と思った瞬間、片方の背後に運が現れた。
「よっ!」
背後から声を掛けられた男は驚いて足を滑らせ、木の下に落下した。それを追って運も木の下へ飛び降りた。男は尻を地に擦りながら運から遠ざかろうとしていた。
「ば、馬鹿な……姿は見えないはずだ、音も」
「スキル衝突回避支援システム。広角のミリ波レーダーを配した俺様には死角も見えないものも無い」
「ふ、ふざけんな! そんなスキルがあってたまるか!」
「お前知らねーの? 最近のトラックには装備されているんだよ。まあ衝突回避支援システムを使ってお前と衝突するのは本来の使い方では無いが……内緒だぞ?」
「だ、だがお前のそのスピードは……」
「確かに俺様自身は強くないがな、どうやら全身をトラックで覆えばトラック同等の速度で動けるらしい。これもある意味運転だな」
「は、はは……お頭、コイツ化け物ですぜ」
二人目の男も霧散した。
「さて、残る一人は何処かな……あ。不味い、そっち行ったか」
「く、ありえねーだろあんな奴」
忍者のボス、覆面男は二人目の男がやられるのと同時にその場を離れていた。
「こうなったらあのエルフかガキのどっちかでも攫って逃げてやる」
覆面男は跳躍で軽々と土遁の土壁を飛び越え、久遠とエルフに向かって音も立てず急速落下を始めた。
「ファファファ、気付くまい。ふ、無抵抗なガキなら一瞬だな」
接近にまるで気付いた様子のない二人を見て覆面男は更に加速をした。やがてその手が久遠に伸びようとしたその時だった。
「油断しましたね?」
エルフの眼球がグリンと動き覆面男の姿を捉えた。
「ば、馬鹿な!?」
覆面男は慌てて自身の武器に手を伸ばそうとしたが、それよりもエルフの斬撃が首を跳ねる方が早かった。
「下衆が」
エルフは剣についた血を振り払って自身の鞘に納めた。
「え、何? 何が起きたの?」
慌てふためく久遠に視線の高さを合わせ、エルフは言った。
「大丈夫ですよ。悪い人達は皆貴女のお兄さんが退治してくれました」
「あ、そうなんだ……」
そこへ土壁を乗り越えてトラックが下りてくる。
「悪い悪い、一人逃がしてしまった……が、どうやら平気みたいだな」
「ええ、一人くらいなら何とか」
「妹を守ってくれてありがとう」
「いいえ。お礼を言いたいのは私の方です。危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
「まあ、これも何かの縁なのかな、よろしく」
運とエルフは握手を交わした。
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