第14話 VS忍者(1)


「ヒヒヒ……お頭ぁ。コイツ、特上ですぜ?」


「そうだな。奴隷紋を刻んで売るのも良いが、まずは楽しんでからとするか」


「くっ! 殺せ……」


 それをナビ画面で眺める運と久遠。


「うっわ~。その台詞は俺でも知ってる」


「お兄ちゃん! そんなこと言ってないで助けようよ」


「とは言え、相手の力量も解らないんじゃ危険だろ」


「勇者パーティより強い人達がゴロゴロいる訳ないでしょ!」


「それに、どんな背景があるのかも解らないじゃないか」


「そんなのダメ!」


 久遠はナビ画面を操作してトラックを収納してしまった。


「うわっと! 久遠、お前」


 突如目の前にあったトラックが消滅し、地に降り立った運と久遠に男達は警戒した。


「なんだあ!? テメエら一体何処から沸いて出やがった?」


 自分でトラックを消しておきながら久遠は運の背後に回った。


「いやあ、あはは。俺は通りすがりのトラック運転手です」


「トラックだあ?」


 勇む男を中央の覆面男が手で制した。


「待て。……お前も転移者か?」


「と言うことは、そちらも」


「そうだ……ならお互い、この場は干渉なしが正解だと思うんだが、どうだ?」


「なるほど、一理ある」


「ちょっとお兄ちゃん!」


 久遠は運を後ろから突く。


「俺とてそちらのトラックに値が付くことは知っている。だが、今は取り込み中でね。そちらが俺達に干渉しないのであれば、俺達もそちらに干渉はしない。互いの能力も素性も解らないんだ、悪くはない話だろう?」


「フザケないで! 弱った女の人を見捨てるなんて出来る訳ないじゃない!」


 運の後ろから顔だけ出して久遠が言った。


「そこの人。巻き込んでおいて済まないがこれは私の問題だ、関わらない方が良い」


 剣を杖代わりにようやく立ち上がったエルフの足は震えていた。


「ヒール!」


 しかしエルフの言葉を無視して久遠は回復魔法を掛けていた。


「これは……なんて無茶を……」


 エルフは自身の手を見て言った。


「やってくれたな……お前ら」


 ギロリ、と覆面男の鋭い眼光が運に向かった。


「傷物にしないよう手間を掛けて追い詰めたところだと言うのに……許さんぞ」


 そこへ運を庇うように剣を構えたエルフが間に入った。


「何処のどなたかは存じませんが、礼を言います。ですが貴方方は早くここから逃げた方が良い。こいつらの強さは尋常じゃない」


「おいおい、邪魔しておいて今更逃がすと思うのかよ。売るぞ、トラック」


「あ~、参ったな」


 運は頭を掻きながら、間に入ったエルフの肩を横へズラし前へ出た。


「一応確認するけど、これエルフ狩りで合ってる?」


「は! 見て解んねーのか」


「このエルフの人が何か悪いことでもしたのか?」


「は? んな訳ねーだろ、俺達が狩りてーから狩るんだよ」


「どうして?」


「お前異世界から来たくせに解んねーのかよ。このチート能力、こいつで好き勝手無双して遊んで暮らしてーとか思わねー訳? はっ! どこぞの勇者様気取りかよっ!」


「解った。もう良い十分だ……イグニッション」


「ファファファ、やるのか? いいだろう、勝った方が総取りだ。言っておくがこちらは全員転移者だ、お前終わったぞ」


 男達三人は構えた。


「俺様の前で構えたな?」


 そして飛び出したトラックは一瞬にして男達三人を吹き飛ばして停止した。


 勢い余って森に突っ込んだトラックによって左右へ飛び散る木々。


 戦いは一瞬で終わったかに見えた。


「ヒュー。やべーなその威力」


 その声は運を取り囲む森の中から聞こえた。


「なに? 確かに三人とも吹き飛ばしたはずだが」


「気をつけてください。こいつらは、ゐ《い》ノ国の忍者マスター、姿は見せません」


 エルフが言った。


「ファファファ。スキル幻影、インビジブル、フェイクボイス、サイレントステップ……どうだ? 知覚できない相手にその威力は関係あるまい?」


「マジかよ。エルフさん、こんなのとどうやって戦ってたんだよ?」


「心です! 心の目で見るのです!」


「あ~……俺様、そう言うのちょっと無理」


「ファファファ、どうやらお前の能力は森の中の戦闘に向かないようだな」


「なんか妙に忍者キャラに成りきっているのが気になるが、確かに良くない状況だな」


「ファファファ、余裕ぶっているのも今のうちだけだ! 土遁の術!」


 刹那、久遠とエルフを隔離するように隆起した土壁が出現し、運は森に取り残された。


「いやあ。今の俺様なら土壁如き粉砕可能だが、万が一久遠達を巻き込むのもなあ」


 運は大きな声でエルフに呼びかけた。


「済まないがエルフさん、そこの妹を守っていてくれないか?」


「任されました! しかしそちらは!」


「なんとかする!」


 運は言った後で頭を捻らせた。

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