第11話 エルフ
「いや~、異世界に来たからには一度は見ておかないとな~、エルフ」
運はナヴィを頼りにオークション会場に足を運んだ。
「お引取り下さい」
「ちぇ……」
見慣れない異世界の服装のせいか金が無さそうなせいか、運は門前払いだった。
「それならこっちにも考えがある」
運は建物二階のバルコニー部を見つけると通行人が切れるタイミングを見計らい、一瞬だけトラックを大砲のように発射、すぐに収納、その勢いに乗って自分だけ2階に着地を果たした。
「?」
入り口にて運を門前払いした男は気付くべくもない。
「潜入成功」
(建物内部が例え俺の弱点であったとしても、男にはやらねばならん時がある……!)
運は自分に強く言い聞かせてオークション会場を目指し、やがて会場の桟敷に出た。
(おおお、ここがオークション会場か、初めてだ)
運は無人の桟敷から顔一つ分だけ覗かせて会場を見た。
「さて、皆様お待たせ致しました! いよいよ次が本日最後の商品となります!」
おおおお! と階下の会場から大きな歓声が上がった。
「最後の商品は最早私から説明する必要はございません! 皆様、既にご存知のことでしょう。エルフ。この響き! この希少価値を!」
ステージの上に運ばれてくる大きな箱状の物体は幕で覆われていた。
(かなり大きいな。檻か? そう言えばエルフ狩りだとか街で聞いたが……あのサイズだと一人二人の檻ではなさそうだ……一体、エルフ狩りとはどんな規模なんだ?)
運は首を傾げた。
「さあ! それではご覧下さい。我々が自信を持ってお届けするこの美しい商品を!」
バアッ! と音を立てて取り除かれる大きな幕。そこに現れたのは。
「トラックじゃねぇか!!」
運は無意識に叫んでしまっていた。
(あ、いや……あれは
桟敷から上がった運の声に会場の視線は集まった。
(あ、やべ。逃げなきゃ)
運は急いでその場から離れた。
「そうか。トラックが出品されていると言うことは、恐らくもう所有者は……」
そそくさとオークション会場を離れるように早足で歩きながら運は思考を巡らせた。
「あれは久遠が言っていた建物内で殺された運転手のトラックだったんだろう」
(こんなに身近に実例があると俺も気をつけなきゃいかんな……さっさと奴隷商でも見に行ってみるか)
そうして運がナヴィを頼りに奴隷商へ向かっている途中のことだった。
ちょうど街の掲示板に掲示物を貼り終えた兵士が視界の端に入った運は、気になってそれを読んで見ることにした。
(なになに? 戦場のトラック……昨日の俺のことか? もう情報が入ってきたのか)
運は眉を顰めた。
(なるほど、俺がホヘト王国側に走り去ったのは目撃されているから……面倒だな。東軍にはそれ程被害は出ていないはずだが脅威には変わりないってことか。そうなると戦場から一番近いこの街に潜伏している可能性があることは知られている。その上ホヘト王国では既にトラック運転手が殺されているようだし……危険だな)
運は久遠に電話をかけた。
「もしもし久遠? もう宿は見つかったか?」
「ううん? ちょうど今から部屋を取るところだよ? それより聞いて聞いて! このスマホ凄いね! 何か私でも色々調べられるみたい」
「いや、スマホのことは良い。とにかく、もしまだ宿を取っていないならすぐにこの街を離れよう」
「何? 何かあったの?」
「どうも俺がこの街にいる情報が流れているようだ。それにこの国で本当にトラック運転手が殺されたらしい情報も得てしまった」
「大変!」
「さっきの飲食店付近に来てもらえるか? すぐにこの街を発ちたい」
「解った」
運は早足で街を歩いた。
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