第12話 トラックの旅


「本当に良いのか久遠? 俺について来て」


「うん。私お兄ちゃんと一緒にいたい」


「こっちの世界にも家族とかいるんじゃないのか?」


「私は教会の孤児院で育ったから……弟や妹は沢山いるけど、勇者さんのパーティに召集された時にお別れは済ませて来たから」


「そうか……」


 運は自分自身にも言い聞かせるように一つ大きく頷いた。


「これから、長い旅になるかも知れない」


「うん。望むところ」


「元の世界に戻る方法を探しても、見つからないかも知れない」


「そしたら、安寧の地を探す旅でも良いんじゃない?」


「そうか……そうだな」


「私は、お兄ちゃんと一緒なら何処でも良いよ」


「ありがとう、久遠」


「さあ、私達の旅の始まりだね」


「おう」


 合流した運と久遠はすぐにネナを発ち、トラックを走らせた。


「さて……まずは何処に向かうかだが、何か良い案はあるか?」


「それならホヘト王国の南、チリヌ公国はどうかな」


「どうしてだ?」


「一言で言えば、ロボットに強いから」


「ああ、あの戦場に控えていたロボットはそれか」


「ホヘト王国とチリヌ公国は共闘していたからね」


「それがどうして良いんだ? むしろ王国の味方なんじゃないのか?」


「それは平気。公国は貴族制だから一枚岩じゃないの。私達の味方になってくれる貴族も絶対にいるはず。それに、機械に強ければトラックに嫌なイメージを持つ人も少ないと思わない?」


「なるほどな……久遠がいてくれて本当に心強いよ」


「し、仕方ないからずっと一緒にいてあげるもん……」


「おいくっ付くなよ、運転中だぞ」


「ぶー」


 トラックはホヘト王国から南のチリヌ公国に向けて暫く走った。


「お兄ちゃん、大丈夫? もう長い時間運転しっぱなしだけど」


「長距離ドライバーなめんなって。それより先は長いな。日も暮れて来たし今日はトラック内で車中泊になりそうだが良いか?」


「私は構わないけど、トラックが見つかって襲われない?」


「逆に、今やこのトラックの装甲を破れる奴はいないだろ」


「それはそうだけど……後ろの寝台スペースで二人で寝るの? 二人だと狭くない?」


「ああ、それはスペース拡張にも幾らか振っておいたから空間魔法的に? 良く解らんが広々としているはずだ。外からの見た目じゃ変わらないのにな」


「……ぶー」


 夜の帳が下りる頃、二人は街道から少し離れた森にトラックを寄せて休むことにした。


「旅立ち初日から車中泊で悪いな」


「ううん。全然良いよ! むしろ快適」


「なら良かった。後ろのスペースでゆっくりしようぜ」


「うん」


 そう言って久遠は運転席後ろの遮光カーテンを開けて寝台スペースを見た。


「うわあ。広ーい」


「本当はもっと狭いんだけどな、異世界スキル様々だ」


「え、何これ凄ーい。 布団セット、電気毛布にテレビ、パソコン、冷蔵庫、電子レンジ、ポット、カセットコンロ……調理器具まで。フル装備じゃん」


「まあ長距離ドライバーは車内生活が長いからな。水さえあれば入浴セットも揃ってる」


「素敵! 私こう言うのちょっと憧れてた!」


「珍しいのは最初だけだ。ちょっと待ってろ、さっきの街で仕入れた食材で何か作ってやるからな」


「わ! お兄ちゃん料理も出来るの?」


「おうよ。車内で作る通称トラック飯、食わせてやる」


「素敵過ぎる~! ねぇ、それまでテレビ見てても良い?」


「いや流石に異世界じゃ無理だろ、しかもそれ壊れてるからな」


「ヒール」


「何やってんだ?」


「お兄ちゃんテレビ直ったよ。言ったでしょ? 私、何でも治せるもん」


「それはチート過ぎるだろ~。て言うか、なんで映ってるんだテレビ」


「お答えしますマスター。僭越ながらナヴィが仰せつかっております」


「なんか……他の転移者の方々に色々と申し訳ないね」


「ん? 何か言ったお兄ちゃん?」


「ううん、何でもない。快適で何よりだ」


 久遠は寝台スペースでゴロゴロ寝転がりながら笑顔で言った。


「わ~。何かすっごく楽しい旅が始まる予感がしてきたよ!」

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