第10話 属性:デレ


「し、仕方が無いからお兄ちゃんは私が守ってあげる」


「言うてヒーラーも単体じゃ戦闘に向かないだろ」


「この世界のこと沢山知ってるもん」


「お前、転生前とキャラ変わってないか? 何か妙に突っかかってきて喧嘩ばかりしてた記憶が多いんだけどな、俺」


「……私のために沢山泣いてくれたこと、知ってるから」


「そりゃあ、たった一人の妹だからな」


「私、転生したからもう血は繋がってないよ?」


「俺は心の繋がりまで切っちゃいねーよ」


「あ……そういうこと言っちゃうんだ。そういうこと」


 久遠は頬を染めて口元を隠した。


「いや~しかし、私の身体がまだ生きていたなんて知らなかったな~」


「父さんに感謝するんだな」


「うん。……ねぇお兄ちゃん、私、またお父さんに会えるかな?」


「どうだろうな。帰りたいか?」


「うん。でも、もう半分くらいはこっちで生きて来たから……」


「そっか。じゃあ、俺はこれから向こうの世界と行き来できないか方法を探してみることにするよ」


「そんなこと、聞いたこともないけど?」


「そうなのか? でもさ、考えても見ろよ。俺の固有スキル運ぶものは対象を異世界に運ぶんだぜ? 不可能じゃない気がしないか?」


「そうだけど……でも、私だけ元に戻ったって意味が無いよ」


「だから方法を探すんだよ。いいか? 長距離トラックってのはな、荷物を運んで終わりじゃないんだ。……ちゃんと帰るんだよ」


「じゃあ、私も一緒が良い」


「当たり前だろ」


「お兄ちゃん……好き」


 久遠はそう言って運にしがみ付いた。


「それよりホレ、当面の問題をどうするかだよ」


 運は久遠を引き剥がした。


「あ~ん、折角の兄妹の再会なのに~」


「もう十分だろ。それより、当面の生活費と狭い場所で戦えない弱点についてだ」


「生活費は……少しの間なら私の手持ちで何とかなるよ?」


「それは有り難いが、持続出来ない生活を続ける訳には行かないからな。安定した収入源を確保しておきたいんだ。それに身を守ることについてなんだが……」


「奴隷?」


「正直、選択肢に入れている」


「奴隷商でも見に行ってみる?」


「そうしようかと思ってるよ。場所ならナビ検索で調べられるしな」


「そういうところ、便利だよね~」


「久遠も一緒に来るか?」


「ううん、私は良いよ。一応私もイロハニ帝国の人間だから大人しくしておく。今日の宿でも探しておくね」


「そうか。すまないな」


「夕方頃に、ここで待ち合わせで良い?」


「携帯電話的な機械や魔法は無いのか?」


「そんなのあったら使ってるよ~」


「そっか。俺、トラックごと転移して来たからスマホはあるんだけどな」


「提案しますマスター」


「どうしたナヴィ」


「マスターの携帯端末を久遠嬢に貸与されることをお勧めします。マスターの携帯端末情報は既にナヴィに登録済みですので、マスターはナヴィを通じて携帯端末と通信をすることが可能です」


「そんなことが出来るのか、電波は?」


「全てマスターの精神エネルギーにより賄います。また携帯端末の機能の他、トラックと共に転移した全ての物品はマスターのスキルの一部として使用可能であることを申し添えます」


「凄い便利じゃないか」


「どうしたの、お兄ちゃん? 独りごと?」


「ん? ああ、少し考え事していた」


(そうか、ナヴィの声は俺にだけ聞こえるのか)


「それより久遠。俺、スマホが使えるみたいだ」


「ホント?」


「本当らしい。これ……久遠が持ってろよ。俺はナビ画面で話せるみたいだ」


「うわ。凄い便利だね、お兄ちゃんのトラック」


「これで街中でも戦えれば安心なんだけどなあ」


 街を行き来する主な乗り物は馬車であり、他の通行人を考慮すると大型トラックで通行することは困難だった。


 また、街が大型トラックの内輪差を考慮した造りではない点も大きい。


「十分な能力だよ~」


 スマホを受け取って久遠は嬉しそうにクルリと回って見せた。


「それじゃあ、宿が決まったら連絡するね~」


「おう。部屋でゆっくりしてろ~」


「は~い」


 運は大きく手を振って去って行く久遠を見送った後、不敵に笑った。


「さて、と。……エルフ。エルフ……フフフ」

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