第9話 属性:妹
「いやあ、言葉が解るっていいなあ。これなら俺でも何とかやっていけそうだよ」
運は上機嫌でクオンに笑顔を向けた。
「良かったです。日野さんに神様の祝福があらんことを」
運とクオンが立ち寄った街はネナといった。
二人がまず先に向かったのは街にある教会。そこでクオンが神に祈りを捧げると運は即座にエヒモセスの言語を習得することが出来た。
「しかし君にとっては敵国側の教会になるんじゃないのか?」
「いえ、ラムウ教は大陸全土に布教されていますので大丈夫なんですよ」
「へえ~」
返事をしながら運は食事を口に運んだ。
二人は今、オシャレなテラスで食事を取りつつ、互いに今後の作戦を練っていた。
「後は生活費をどうやって稼ぐかなんだが……」
「普通は冒険者として生計を立てるなら冒険者ギルドに登録をするんですが……」
「職業運転手で登録して街中で狙われるのだけは避けたいんだが」
「ですよね~」
「もしかして早くも詰み?」
「そうと決まった訳では……例えばお金が溜まるまでは生身のステータスがバレないように気をつけながら街の外で依頼をこなして、お金が溜まったら街中では護衛をつけるとかしてみては如何です?」
「それだと変に思われない? 何故街中で護衛なんだ、と」
「そうですね……では、奴隷とかは?」
「ど、奴隷?」
「聞き慣れませんか? こちらでは割と普通のことなんですが」
「どんな人がいるの?」
「奴隷は何も人間だけではないですよ? 獣人族、魔人族に……」
そこへ街行く人の声が飛び込んで来る。
「おいっ! 今日のオークション、まさかのエルフが出品されるんだってよ!」
「本当か? またデマじゃないんだろうな?」
「実はこの間、エルフ狩りの噂を聞いたんだ。可能性は高いだろう」
「へえ。そいつは珍しいな、見に行ってみるか」
そんな会話を交わしながら男達は揃って歩いて行った。
「エルフ……いるんだ」
「そうですね。エルフ族は魔法力にも長けていますし、奴隷に出来るなら護衛としても有効だとは思いますが……」
「でも、お高いんでしょう?」
「ですね。それもオークションですから、どこぞのお金持ちかお貴族様が慰みモノとして落札していくのがオチでしょうし」
「君、見た目は幼いのに言うことが結構エグいね」
「言いましたけど、私これでも20年以上生きているんですよ?」
「そう言えば転生者なんだっけ。どうしてエヒモセスに来ちゃったの?」
「中学生の頃、トラックに」
「君もか」
「でも、多分即死じゃなかったんですよ? それから暫くは意識があったと言うか。その頃は喧嘩ばかりしていたのに眠っているだろう私の前で泣きじゃくるお兄ちゃんの声とか、そう言うの、聞こえていたんです」
運は言葉を発せずに黙って聞いていた。
「だから、早く元気な声を聞かせてあげたくて、私も必死に祈ってたんですよ。治れ、治れ、治れ……って。そしたら、結局それが何でも治せる能力になって、こっちで目覚めちゃいましたけどね」
「そっか、辛いね」
「日野さんは? 日野さんはどうしてエヒモセスに?」
「俺はただの悲劇さ。自殺志願者がトラックの前に飛び込んで来てね。歩道橋から背面飛びで落下してくるかも知れない運転なんて出来る訳ないだろ? で、人生終わったと思って一時は走馬灯も見えたんだけど、気付けばあの戦場にいたんだ」
(もしかしたら思考加速のスキルは走馬灯の影響でゲットしてたのかもな)
「その、ご家族とかは?」
「俺? 独り者だよ。家族も一家離散した。実は昔、妹が事故で寝たきりになっちゃってね。その扱いを巡って両親が口論の末に離婚。妹は父が、俺は母に引き取られて苗字も変わった。だけど色々と心労が溜まってしまったんだろうね。母は酒に溺れ身体を壊し、過労も重なって死んでしまったよ。父も植物状態の妹をずっと見守っているから俺が頼る訳には行かないし……。俺は高校も中退、何とか一人で頑張って来たんだけどな……」
その話をクオンは涙を流して聞いていた。
「はは、ゴメンゴメン重い話で」
「違う、違うの……」
「こんな俺なんかのために涙まで流してくれてありがとな」
「だから、違うの……!」
(あ~、しまった~……こう言う時にどうすれば良いかのスキルが全く無いな、俺)
「あの~……大丈夫、君?」
「……クオンです」
「え?」
「日野さん、さっきから私のこと、君って呼んでいるから」
「あ、ゴメン。……ちょっと、その名は呼び難かったから」
「知ってます。私が妹と同じ名前で呼び難いことも、両親が私のことで喧嘩していたことも、日野さんの旧姓が
「え……うそ、だろ……?」
「日野さんの妹が事故にあったのは12年前! 私は転生して今、12歳」
「……
「お兄ちゃんっ!!」
飛び掛かる久遠の勢いのまま、運は椅子ごと床に倒れた。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん……!」
「久遠、お前、こんなところで、何やってんだよ……」
二人は抱き合って涙を流した。
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