第11話

「お疲れ様です先輩」

《おつかれ》


 放課後の食べ歩きから二日後。

 俺いつも通りバイトをして、毎度同じく休憩室にて先輩に話しかけた。


「はぁ……」

《なんか元気ない?》

「いやー、実は一昨日のことでちょっと悩んでいることがありまして……」

《なに?》


 興味を持ったのか、グイグイとおれになにがあったのかを聞いてくる。

 先輩がせっかくアドバイスしてくれたのに実行できなかったが、相談に乗ってくれたのできちんと話しておこう。


「件の冬狼ふゆがみさんと放課後の食べ歩きをしに行ったんですよ。楽しく会話ができた気がするんですけど、褒めることはできなくって……」

《どんまい。次がある》

「そうっすよね。また明日から頑張ります!」


 まだ親睦を深めきれていなかった気もするし、次回こそが良い機会になるかもしれない。うん、そうに決まってる。

 自分に言い聞かせて悩みを無理やり払拭させた。


《ちなみにどんなことを褒めようとしてたの》

「えっ?」


 ――ソワソワソワソワ。


 先輩がそう質問すると同時に、急にそわそわというオノマトペが周りに現れだした気がする。


「(な、なんかデジャヴを感じるような……。冬狼さんみたいな雰囲気になってるような?)」

《どうしたの?》

「先輩ってちょっと冬狼さんに似てるんですよね」

『っ!!?』

「せ、先輩?」


 一瞬石のようにピタッと停止したかと思うと、次の瞬間にはガタガタと震えだす。

 何が何だかよくわからないが、とりあえず話を進めることにした。


「えーっと、そうですね……。とにかくいっぱいありましたよ」

《たとえば?》

「そうですねぇ……まずやっぱり顔が可愛い。『狼女子』と言われているからガツガツ食べるかと思いきや一口一口が少なくて小動物みたいだった。姿勢すごい良い、爪綺麗、髪のメッシュがおしゃれ、他にも――」

『〜〜っ!!!』

「え、ちょっと、まだ途中なんですけど。なんで叩いてくるんですか!? 怖いっすよ!!」


 冬狼さんの良いところをペラペラと答えて言っていたのだが、途中でなぜか悶絶している先輩に背中をバシバシと叩かれ、中断せざるを得なかった。

 先輩は感受性が豊かなのだろうか? いや、ちょっと違うか。まぁ何はともあれ、これを本人に言おうと思ったら少し言葉が詰まってしまうんだよなぁ……。


「(まだ次がある。次こそは絶対に本人に伝えよう!)」


 そう意気込み、休憩後のバイトを真剣に取り組んだ。



###



 ――月曜日、早朝。


「ふわぁ……」


 大きな欠伸が出るが、人通りが少ないので気にすることない。


 前までは憂鬱な学校だったが、今ではなんやかんやいってこの時間が楽しみになっている自分がいる。

 この朝の限られた時間だけ冬狼さんと会話ができるからだ。楽しく人と会話をしたのは小学生以来かもしれない。


 教室まで向かい、扉を開けるとそこにはやはり冬狼さん一人がすでに座っていた。


「おはよう、冬狼さん」


 いつも通り、少しぶっきらぼうに返事をしてくれる。そう思っていたのだが……。


「お、お、おは……ょぅ……」

「(声ちっさ! あれ、こんな元気ない感じだったっけ!!?)」


 おかしい。

 金曜日の食べ歩きで俺と冬狼さんとの信頼度は上がったと思っていたが……もしや逆効果だったのか!?


 現に、冬狼さんの返事は小さい。消え入りそうなほどに。それだけでなく目を合わせてくれないし、怒っているのか顔が耳まで赤い。


「(な、何を間違えたんだっ!! こんなに会話がぎこちない感じに戻ってしまうなんて……)」


 挨拶した後は自分の席に座り、腕を組んで金曜日のことを思い返し始めるが、何も思いつかない。

 チラリと横に座る冬狼さんに視線を向けると、彼女は自分の爪を俺に見せるようにいじっていた。


「…………」

「(えっ、何? はっ、まさか『この研いだ爪で引き裂いてやろうか』という意思表示か!? まずい……早く問題を突き止めなければ……)」


 再び思考を巡らせて唸りながら俯く。

 やっぱり思いつかず、恐る恐る隣を見てみた。


「はむっ……」

「(か、菓子パンを食べながら自分のメッシュを指でくるくるしている……。これはどんな意味が隠されてるんだ!)」


 相変わらず一口が小さくて可愛いし、髪のメッシュはおしゃれだ。

 だが、今の彼女は顔が赤いし多分激おこ状態。今褒めようものなら俺はどうなってしまうだろうか?


『冬狼さん、一口小さいくて可愛い! メッシュもおしゃれだな! HAHAHA!!』

『はぁ? あんま調子乗んないでくれる? ガルルルルル!!!』


 こんな風にさらに溝が深まってしまう可能性がある……!

 えっ、どうしよう。せっかく友達になったと思ったが、また俺は一人ぼっちとなるのだろうか?


「(助けて先輩……!!!)」


 心の中で俺は先輩に助けを求めるのであった。

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