第10話(栞視点)

 美味しいたい焼きを食べ終わった後、夏狩なつかりに次行く店の写真を見せられた。


「この中だったらどれがいい?」

「全部行くんでしょ?」

「え?」

「は?」

「ウン……行こうか」


 まだまだ食べ歩きは始まったばかりだし、明日は休日だからちょっとくらい遅く帰っても問題ない。

 こんな楽しい時間を一瞬では終わらせたくないため、少し強引に夏狩を説得させた。


 次に行くところは牛串を売っているキッチンカーらしく、近づいただけで腹の虫が騒ぎ出すくらい良い匂いが鼻腔をくすぐる。


「お肉……!」

「牛串とか販売してるキッチンカーが金曜日にここに来るんだよ」

「夏狩、早く行こうよ」


 空腹が抑えられず、夏狩を急かしてキッチンカーに向かう。

 お肉は大好きだし、まだまだお腹が空きまくってるからいっぱい食べよ〜。


「牛串、4本ください」

「俺の分も買ってくれてるのか? 俺は別で――」

「何言ってんの? 自分の分だけど」

「……そう。いっぱい食べるんだな」


 4本ある牛串をみるみる口の中に放り込んで行く。


「おいひい……」

「やっぱ美味いなぁ」

「んふふ♪」


 この牛串が美味しいのもあるけれど、やっぱり仲が良い人と食べると美味しい。ずっと続いて欲しいなぁ……。


 ニマニマとしながらそんなことを考えていると、ジッと横から夏狩が私を見つめ始めていた。

 ま、まさか……私の牛串を狙ってる!? いくは夏狩と私の仲とて、私は食べ物には厳しいよっ!


「……あげないから」

「いらないが……」


 はっ! で、でもこれはあのリア充イベントを行うチャンスなのでは!?

 食べ物をシェアしあうとかいう超高等テクニックであり、私の夢の一つでもあるやつ……。まさかここで叶うの!!?


「どうしてもって言うならあげてもいいよ」

「いや、十分お腹いっぱいだから大丈夫だ」

「むぅ……」

「えぇ……」

「(ふーんだ。別に悲しくなんてないし……うぅ)」


 夏狩はきっぱりと断って自分の牛串を食べ始める。

 くっ……まだ信頼度が足りなかった! 食べ物なシェアはもっと夏狩と仲を深めてからかぁ……。


 肩を落としたが、残った牛串を食べ、その後も色々な店を巡りながら食べてを繰り返して私の気分はまた最高になった。


「(夏狩はお腹いっぱいになってきたっぽいし、次で最後かな。……また夏狩に誘ってもらおうと思ったけど、次は私が頑張って誘う!)」


 メラメラと次の目標が立ったところで、最後のお店に到着する。

 映え〜な写真が撮れると言う理由で人気になったクレープ屋らしいけど、私はSNSをしていないから関係ない。ネットでも友達がいないし……。


「夏狩。行こ」

「おう。……冬狼ふゆがみさんの胃袋どうなってんだ……」

「聞こえてんだけど」

「あ、ごめん」


 ふふん、軽口を叩き会う。これすごい友達っぽくて良い!

 表面上では私の表情はあまり変わっていないが、内心はこういう会話ができてとても心が弾んでいる。


「私は限定のキャラメルマキアートのやつ」

「俺はスムージーでいいかな。ちょっと胃が……」


 夏狩は胃が小さいのかもしれない。

 本当はもっともっと夏狩と食べ歩きがしたいし、これから私が夏狩の胃を作り変えていこう。うん、そうしよう。


「もしよろしければ、お二人のツーショットのチェキを撮らせてもらっても良いでしょうか……?」

「ち、チェキ?」

「はい! このコルクボードに貼って宣伝する用なんです! 7回使える割引券も付いてきます!」


 夏狩の胃の改造計画を目論んでいると、店員さんからそんな提案をされた。

 一人だったら私の顔が怖くて声をかけられないことが多いけど、優しそうでイケメンな夏狩がいるからかと私は推測した。


「俺は別にいらないかな……。冬狼さんはどうする?」

「写真……」


 コルクボードには仲睦まじげに写真を撮るペアだったり、友達と満面の笑みをしているチェキが貼られてある。

 私はそれらと夏狩の顔を交互に見た。


「(今日という私のリア充道への第一歩を踏み出した記念日。そして夏狩とももっと仲良くなった気がする日……。うん、夏狩と写真を撮りたい!)」


 可愛くて買ったけど、使い道がなく埃をかぶっている写真立てもあるし……。

 ふふふ、勉強机にそれ置いてたらいつでも楽しい気持ちになれるじゃん!


 そう考えた私はくいくいと夏狩の服の裾をつかみ、訴えかける。


「撮る。撮ろ。撮る以外ない」

「お、おう……。じゃあ撮ろうか」


 ぐいぐいと夏狩を引っ張り、件の映えスポットまで向かった。


「じゃあ撮りますよー!」


 写真を撮られるはあまり好きじゃない。

 だって、楽しくもない時にカメラを向けられて、その不満そうな自分の顔が半永久的に残るなんて憂鬱でしかなかったから。

 けど今は……今は彼が――夏狩が居るから……。


「ふふ♪」


 写真を撮られるのも悪くはないと、この瞬間に思うことができた。


「ではこちら、割引券とチェキです! またのお越しを〜!」


 クレープを食べ終えた私たちは、店員さんから割引券とチェキをもらって帰路を辿り始める。

 夏狩の目を盗み、もらったばかりのチェキを眺めてみた。心がポカポカするし、破り捨てたいなんか思わない良い写真だと感じる。


「ふふっ……」

「そんなに割引券が嬉しかったならまたあそこに……って、あれ。それチェキか?」

「っ!!!」


 写真に夢中になりすぎて横から覗き込む夏狩を察知することができなかった。

 急いで後ろに隠したけれど、色々と見られてしまったかもしれない……!


「か、勝手に見んな……!」

「いたたたたた! ごめんなさいごめんなさい!!」


 恥ずかしさのあまり、ギリギリと夏狩の手の甲を指でつねる。


「(ま、まぁ顔が赤かったのを指摘されなかったし、夕陽のせいだって思ってくれたでしょ……。ふ〜、危ない危ない)」


 結局、夏狩から褒められることはなかったけれど楽しい放課後を過ごせた。夏狩には感謝してもしきれない。


「(今日はありがと、夏狩)」


 口に出して言えない自分が嫌になる。けど、いつかそんな些細な感謝や心の内の感情をちゃんと伝えられるようになりたい。

 それまで……それまで私と一緒に、なんでもないこんな日常を過ごしてほしい。これからも一緒にいたい。


 今はただ、この最高の放課後を噛み締めた。

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