第8話(栞視点)

「あ、おはよう、冬狼ふゆがみさん」

「……ん。おはよ」


 バイトの翌日。

 再び朝の誰もいない時間帯で夏狩なつかりとのおしゃべりタイムが始まる。


 夏狩と二人きりならば辛うじて会話ができるけれど、他のクラスメイトが来たら色々と不安になって会話がままならなくなってしまう。

 だから、この時間がとても大切。楽しみすぎて今日は朝の四時に起きちゃった。


 バイト先で夏狩にアドバイスしたことを実践してくれるのならば、今日はたくさん会話ができるし、私のことをいっぱい褒めてくれる。

 ワクワクソワソワしながら待っていると、ついにその時がきた。


「……冬狼さん」

「何?」

「放課後、食べ歩きでもしに行きませんか」


 食べ、歩き……?

 学生が放課後に行う、制服を着たまま談笑して楽しむあの青春イベント!!? そ、それのお誘いをしてくれてるのっ!?!?


「放課後食べ歩き……っ!」


 一生来ないまで成人して惨めな人生になると思ってたけど、まさか本当にできる日が来るなんて思ってもいなかった。


「えぇと、どうだ?」

「え、っと……いく。用事思い出したとか言っても無理やり連れてくからっ」

「っ!? り、了解」


 やっ――――たぁ〜〜っっ!!!!

 言質はとったから絶対に実行できる! 青春だ! お友達と一緒に夢の一つだった放課後の遊びができるなんて!

 はっ! で、でも夏狩はまだ仲良くなってないって言ってたし、友達ではない……? いや、でも他人以上友達未満だからいい!


 抑えきれないニマニマを頬杖でなんとか隠しながら、心の中で大絶叫している。


「(えへへへ♪ 楽しみだな〜〜)」


 その後、クラスメイトが続々とやってきて授業が始まっても、私は待ちきれなくてずっとホワホワしており、今日の授業内容が一切耳に入ってこなかった。



###



 放課後の掃除の場所は違かったため、学校の裏門花壇前集合になった。

 一刻も早く待ち合わせ場に行きたかったけれど、掃除を疎かにするのは許せなかったのできちんと掃除してからそこに向かう。


 夏狩が一足先に終わっていたらしく、私が後からくる形となっていた。


「さて、えーっと。そんじゃ行くか」

「ん」


 放課後に肩を並べて遊びに行く。

 これがリア充なのだろう。ただ歩いているだけでも何かが満たされていく感覚がする。夏狩、本当にありがとう……。


 感謝を心の中で伝えていると、どうやらもう最初のスポットに到着したみたいだ。


「たい焼き屋?」

「あぁ。冬狼さん食べれる?」

「嫌いじゃない。食べる」

「じゃあ俺は……さつまいもにしようかな」

「私はこしあん」


 学校の近くにこんなたい焼き屋があるなんて初めて知った。結構小さくて老舗な店だけれど、おばあちゃんも優しそうでとても魅力的に見える。

 私たちはそれぞれ別の具のたい焼きを選び、近くのベンチに腰掛けた。そして、購入したたい焼きを一口。


「はむっ。……ん! 美味しい……」

「だろ? 俺の行きつけのたい焼き屋さんなんだ。昔はたい焼きの羽根だけもらいに行ってた時期もあったな……」

「え、そこまで貧困してたの?」

「いや、ただ単にたい焼きの羽根が好きだったんだ」

「変わってるね。わからないでもないけど」


 たい焼きの羽根はパリパリしていて美味しいけれど、それだけ貰いにここに来てたなんて……。なんか可愛いなぁ。

 ふふっと少し笑みをこぼしながらも、熱々のたい焼きをどんどん口に入れこむ。


 けど、問題が発生した。


「(な、なんで私のことをジッと見てんの!? 口についてる? いや、綺麗に食べてるから無いはず……な、なんなの!? 恥ずかしいよ……)」


 ジーーッと私のことを見つめたいる夏狩に困惑しながらも食べ進めていたが、我慢できなくなり質問をしてみることに。


「……あの、さっきから何? ジロジロ見て」

「あ、すまん。嫌だったよな」

「は? 別に嫌とは言ってないじゃん。好きなだけ見ればいいでしょ」

「お、おう……?」


 基本的に私は学校のみんなから恐れられていて、目を合わせようとしないし極力見ないようにしているらしい。

 私を見るのは下衆な奴らばかりで嫌だったけれど、夏狩はそんなことしないと思っている。


 夏狩は――……特別だし。


 何かを考え込む夏狩を横に、私もたい焼きを食べ進めた。

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