第7話
「あ、おはよう、
「……ん。おはよ」
翌日。
今日こそは仲良くなろうと思い、俺の気合は十分だ。
「(とは言っても、あまり会話デッキを組むことができなかったんだよなぁ……)」
会話をするのは、この俺と冬狼さん以外誰もいない朝の時間帯のみ。クラスメイトが来たりすると途端に話そうとしなくなってしまうので、この朝の時間に決めるべきだ。
かと言って『何を話す?』と問われたら『もう尽きた。真っ白にな』と答える。そう、俺のコミュ力をなめるな。限界だ。
そこで、だ。
会話が無いなら、無理やり増やそう。話してくれないのならば、話す機会を作ろう。ということを深夜テンションで考えた。
勝負は今……ここで決めるっ!!
「……冬狼さん」
「何?」
「放課後、食べ歩きでもしに行きませんか」
なんとか勇気を振り絞って言葉にした。
言ったはいいものの、数秒経ってから気がつく。
「(……なんか、デートのお誘いとかみたいに感じ取られてしまうのでは……?)」
いかんせん深夜テンションで思いついた案だ。まともな思考回路で思いついたものではない。
いくら冬狼さんが優しい人だとはいえ、こんなあからさまに下心がありそうな誘い方はどうなんだよ俺……!
正気に戻った俺は、冬狼さんから視線を外していた。鬼の形相をしていたらどうしようかと思っていたからだ。
ギギギと音を鳴らして首を動かし、恐る恐る冬狼さんを見ると――
「放課後食べ歩き……っ!」
パァーッと嬉しそうに目を大きく開け、キラキラした空色の瞳がこちらに向いていた。
「(め、めちゃめちゃ嬉しそう!?)」
やはり朝は寝ぼけ眼で幻覚が見えやすいのか、冬狼さんの後ろでブンブンと左右に激しく揺れる尻尾が見える。
ただ返事はもらっていないので、ゴシゴシと目をこすった後に再び聞き直した。
「えぇと、どうだ?」
「え、っと……いく。用事思い出したとか言っても無理やり連れてくからっ」
「っ!? り、了解」
冬狼さんはニッと口角を上げ、目を細めて笑ってみせた。
学校で笑っている姿を初めて見た気がする。いつもツンケンしててクールな雰囲気だから、ギャップでやられそう……いや、手遅れかもしれない。普通に可愛かった。
「(まさかこんな案でうまくいくとは……。ありがと、深夜の俺。困った時はまた頼るよ)」
心の中で手を合わせて拝んでおく。
だがこれはまだ序の口だ。食べ歩きの中で話すことも考えておこう。
その後、何やら横でポワポワしている冬狼さんを横目にひたすら会話のシミュレーションを続けるのであった。
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「さて、えーっと。そんじゃ行くか」
「ん」
授業が全て終わった放課後。
俺と冬狼さんで早速食べ歩きを開始することになった。
二人で下校するのは目立つかと思ったが、冬狼さん本人が気にしていないようなので俺がとやかく言うことはない。
まず手始めに、学校の一番近くにあるたい焼き屋さんに到着した。
「たい焼き屋?」
「あぁ。冬狼さん食べれる?」
「嫌いじゃない。食べる」
「じゃあ俺は……さつまいもにしようかな」
「私はこしあん」
それぞれの具のたい焼きを買い、ベンチに座ってそれを食べ始める。
今までは一人ぼっちでここに来て、寂しい思いをしながらたい焼きを食べていたが、まさか人を連れて一緒に食べることができるなんて……。
自分でも少し感動している。
「はむっ。……ん! 美味しい……」
「だろ? 俺の行きつけのたい焼き屋さんなんだ。昔はたい焼きの羽根だけもらいに行ってた時期もあったな……」
「え、そこまで貧困してたの?」
「いや、ただ単にたい焼きの羽根が好きだったんだ」
「変わってるね。わからないでもないけど」
二人で楽しく談笑となっているが、俺は昨日の先輩からもらったもう一つのアドバイスを実行できずにいた。
「(〝褒める〟って言っても、この状況だと何について褒めればいいんだ……?)」
チラリと横でたい焼きを頬張っている冬狼さんを見つめる。
少し熱そうにはふはふとしながら食べているも、一口が小さくてどこか小動物っぽさもある。姿勢が良い。美形。爪綺麗。メッシュがおしゃれ。
……うーん。正解がわからん。
「……あの、さっきから何? ジロジロ見て」
「あ、すまん。嫌だったよな」
「は? 別に嫌とは言ってないじゃん。好きなだけ見ればいいでしょ」
「お、おう……?」
てっきり怒られるかと思ったが、想定外の返事が来た。
プイッと視線を戻してたい焼きを再び食べ始める冬狼さんだったが、どこか困り眉で耳が赤くなっているように見える。
「(うーーん……。冬狼さんは何を考えてるのかわかんないなぁ……)」
心の中でそう呟き、俺もたい焼きを頬張った。
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