第6話(栞視点)
「えぇっと、好きなものとかあるのか?」
「…………。ハンバーグとかゲーム……」
「あー……。に、似てるかもな」
「はぁ? 何と何が?」
「え、いや。俺もゲームとか好きだしなー……と」
ゲーム! まさか夏狩も好きだったなんて……。ここまで趣味が合って、こんなにも学校で会話するってもう友達じゃん! やったーー!!!
内心めちゃくちゃ浮かれているが、極力表に出さぬように心がけて質問をしてみた。
「ふ、ふーん。ちなみに何すんの。ゲームって」
「え、えっと。ダブルバレットゥーンとか、レンゲスローンゼロとか、スマホだとウーパールーパーを育てる鬼畜ゲーやったりしてるかな」
「え、私も鬼ウパやってる。ほらっ、ウパレベル41」
「強っ。そろそろ神殺せるウパルパじゃん」
前半二つは知らなかったけれど、最後のスマホゲーはかなりやり込んでいるものだった。
まさかこんなところで交流の輪を広げることができるだなんて……。このゲーム教えてくれてありがとう、お姉……。
少し重たかった空気も消え失せ、楽しい会話が続く。
「実はバ先の先輩にオススメしてもらったゲームなんだよ」
「! ふーん」
一瞬ビクッと反応したが、それは私ではなく前の着ぐるみ役の人だとわかって少し落ち込んだ。
「結構前だったけど、レベル60いった先輩のアカウント、スマホ水没して消えちゃったらしくてさぁ」
「……へぇ……」
――モヤァ……。
とても楽しそうに、嬉しそうに話す夏狩を見て、なんだかもやっとした気がした。
そんなに前の先輩はすごい人だったんだ……。
「あぁ、後最近先輩の雰囲気が変わった気がするんだけど、それでも頼れるいい先輩だなぁって――」
――モヤモヤモヤモヤ……。
これは私のことだ。
だけど、私じゃない誰かを私の目の前で褒めちぎっているように思えて、モヤモヤが収まり切らなかった。そして、ついに吹っ切れてしまう。
「ねぇ。今さ、私と話してんじゃん。他の女のこと話さないでよ」
「え、っと、ごめん……?」
「ん……。う、うん、なんか、私もごめん。めんどいやつみたいになっちゃった……。えっと、ちょっと外の空気吸ってくる」
「あ、うん」
思っていたこと全部を吐き出してしまう。
耐えられなくなった私は教室から離れ、少し離れた階段まで行って俯いた。
「(あ……うわぁあああああああああああ!!! 恥っずい!! 何!? バイトの時の自分に嫉妬してあんな言うって何考えてんの私!!? ありえないでしょ!!!)」
今にも火を吹きそうなほど顔を真っ赤にし、その場にうずくまる。
恥ずかしすぎて死ねる……。仲良くなったばっかの友達にあんなことでモヤモヤしたし、自分に妬いたとかもう色々ありすぎて……。
「うぅ……。でもお話しできてよがったよぉ……」
何はともあれ、私の夢である友達ができて最終的には嬉しい気持ちが勝っていた。
###
――放課後。
今日も今日とてバイトに励み、楽しみであるいつもの休憩時間もとい、お話しタイムが始まる。
「先輩お疲れ様です」
《おつ》
「今日も相談相手になってもらっていいですかね……」
《もちろん。今日はなに?》
なんとなく予想はついているけれど、なるへ考えないようにしている。思い出したらまた顔が熱くなって、被り物が取れてしまうかもしれないからだ。
夏狩がその相談についてを話し始めるが、やはり今朝私と話したことについてだった。
「それで、なぜか冬狼さんがそこで怒っちゃったんですけど……。なんでだと思いますか?」
『っ……』
「先輩?」
《なんでもない》
恥ずかしすぎて思わず顔を抑える。
その気持ちが伝わらぬように、すぐに切り替えてホワイトボードに文字を書く。
《もしかしたら嫉妬したとかじゃないかな……》
学校では素直になれなかった分、ここでは素直な気持ちを込めて伝えた。
今日だけでどれだけ恥ずかしい思いをすればいいんだろう……。
「嫉妬? でもまだ仲良くなってないしそんなことあるのかな……」
『!?』
仲良く、なってない……? え、じゃあ友達じゃないってこと!? そ、そんな……俗に言う『こっちは友達だと思ってたけど相手は何も思ってない』のやつだ!
私は今年一番落ち込んだ。
「じゃあ次はあまりそういった女性のことを話さずに会話した方がいいってことですかね」
《まぁ……そのフユガミって子についてもっと話したり褒めたりした方がいいかも》
隙あらば自分の欲望を叶えるための助言をする。
「成る程。わかりました! 明日もう一回試してみます!」
《がんばって。私もがんばるから》
「おー、何を頑張るんですか?」
《ないしょ》
夏狩ともっと仲良くなって、次こそは絶対友達になってみせる! 待ってろよ夏狩……!!!
メラメラと燃えながら、明日のシミュレーションを考えるのであった。
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