第5話

 冬狼ふゆがみさんから特に理由なく見ていたと言われたが、そこで話が終わってしまった。

 昨日の先輩のアドバイスを思い出すんだ!


「えぇっと、好きなものとかあるのか?」

「…………。ハンバーグとかゲーム……」

「あー……。に、似てるかもな」

「はぁ? 何と何が?」

「え、いや。俺もゲームとか好きだしなー……と」


 本当に自分がコミュ障すぎて嫌になる。冬狼さんも呆れて面倒臭がっているかもしれない。

 そう思いながらチラッと彼女の表情を伺う。すると、予想は外れて冬狼さんは目をキラキラと輝かせ、見えないはずの尻尾が左右に揺れているのが見えた気がした。


「ふ、ふーん。ちなみに何すんの。ゲームって」

「え、えっと。ダブルバレットゥーンとか、レンゲスローンゼロとか、スマホだとウーパールーパーを育てる鬼畜ゲーやったりしてるかな」

「え、私も鬼ウパやってる。ほらっ、ウパレベル41」

「強っ。そろそろ神殺せるウパルパじゃん」


 〝鬼育成ウーパールーパーカタストロフィ〟。

 自分だけのウーパールーパーを育てていくゲームだが、中々の鬼畜仕様でやりごたえのあるゲームだ。


 まさかこんなところで仲間を見つけることができるなんて思わなんだ。俺の周りにやってる人はいない……というか、友達がいないからな……。


「実はバ先の先輩にオススメしてもらったゲームなんだよ」

「! ふーん」

「結構前だったけど、レベル60いった先輩のアカウント、スマホ水没して消えちゃったらしくてさぁ」

「……へぇ……」

「あぁ、後最近先輩の雰囲気が変わった気がするんだけど、それでも頼れるいい先輩だなぁって――」

「ねぇ」


 バイト先の先輩について熱弁していると、途中で冬狼さんに区切られた。先ほどまでのキラキラした瞳は消え失せており、何やら圧を感じる。

 な、何か気に触ることでもいってしまったのだろうか……?


「今さ、私と話してんじゃん。他の女のこと話さないでよ」

「え、っと、ごめん……?」

「ん……。う、うん、なんか、私もごめん。めんどいやつみたいになっちゃった……。えっと、ちょっと外の空気吸ってくる」

「あ、うん」


 不機嫌そうな顔から、少し恥ずかしそうに耳を赤らめて謝ってきた。

 怒らせてしまったかもしれない……。同性との会話すらまともにしたことないので、異性との会話で何を気をつければいいのかとか分からないのだ。


「(……あれ? でも俺の先輩が女性って言ったっけ? まぁ会話の中から汲み取ってくれたんだろう。さすが冬狼さんだな)」


 せっかく仲良くなれそうだったけれど、また溝が生まれてしまったかもしれない。

 今日もバイトがあるし、また先輩にアドバイスをもらうことにしよう。



###



 バイトをこなしながらも今日の出来事を反芻させる。

 その度にため息が出そうになるが、なんとか耐えて休憩時間に突入した。


「先輩お疲れ様です」

《おつ》

「今日も相談相手になってもらっていいですかね……」

《もちろん。今日はなに?》


 着ぐるみの先輩に今日の出来事を詳しく説明する。昨日のアトバイスを実行したことや、会話についてなどなど……。

 そして、本題を話し始めた。


「それで、なぜか冬狼さんがそこで怒っちゃったんですけど……。なんでだと思いますか?」

『っ……』

「先輩?」

《なんでもない》


 先輩がなぜか恥ずかしそうに顔を抑えていたが、すぐに気丈に振る舞う。


《もしかしたら嫉妬したとかじゃないかな……》

「嫉妬? でもまだ仲良くなってないしそんなことあるのかな……」

『!?』


 恥ずかしそうにホワイトボードをこちらに向けたかと思えば、次にはガーンという効果音が聞こえてきそうなほど落ち込んだように見える。

 今日ちゃんと話したし、ゲームで少し仲良くなったかと思えば怒られちゃったしな……。


「じゃあ次はあまりそういった女性のことを話さずに会話した方がいいってことですかね」

《まぁ……そのフユガミって子についてもっと話したり褒めたりした方がいいかも》

「成る程。わかりました! 明日もう一回試してみます!」

《がんばって。私もがんばるから》

「おー、何を頑張るんですか?」

《ないしょ》


 よし、先輩からの強力なアドバイスももらえたことだし、明日のために色々と会話デッキを組んだりして備えておこう。

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