第4話(栞視点)
バイト先で同じクラスの
私はいつもよりも遥かに上機嫌な状態で学校に来ていた。
「ふんふんふ〜ん♪ お話できるといいな〜♪」
朝一番に教室までやってきた私は、日課である黒板消しと机を整える作業を行なっている。
あらかた終わったかなと思ったタイミングで、廊下の方から足音が聞こえ始めた。私はすぐさま自分の席に座り、澄ました顔でスマホをいじる。
「…………」
「(あ! 夏狩だ!!!)」
私の隣の席の夏狩が教室に入ってきた。
そういえば今まで気にしていなかったけど、二番目にするのはいつだってこいつだった気がする。
もし私に尻尾が生えていたら、嬉しや緊張が多分そこに出るくらい内心喜んでいた。
スタスタと歩いてきて私の隣に座り、教科書やらを机にしまい込んでいる。
「ジーーッ……」
「…………」
「(ど、どうしよう……。どうやって話しかける? 見てたらなんか話しかけてくれないかな……)」
いかんせんコミュ障。自分から話しかけるなどハードルが高すぎる。
なんとかして話しかけてもらおうと視線を送り続けたが、学校で夏狩から話しかけられることはなかった……。
###
「――……ってことがあったんですよ」
バイト先の喫茶店の休憩室にて。
再び着ぐるみを着ている私と夏狩と二人っきりとなり、今日学校で起こったことを話し始めている。
「何か俺やっちゃったかなぁって思ってるんですけど、どう思いますか?」
何かやったかといえば昨日の休憩室の出来事だけれど、流石にそれは言えない。バレたくもないし。
《ただ単に話しかけたかったからとかじゃない?》
「あの人を殺すかのような鋭い眼光で話したかっただけ……?」
《そ、そんなに怖かったの!?》
「まぁ……はい。今日死ぬのかなぁと」
そんな……! 人を殺すような眼光って……一応私も女の子なのに……お友達いっぱい作りたいのにぃ! 夏狩酷い!!!
ズーンと落ち込む私に対し、彼はこんなことを追加して言ってきた。
「まぁでもなんと言いますか……。苗字とは似つかわしくないですが、猫みたいで可愛かったですね……」
『かわっ……!?』
「え? 今喋りましたか?」
ブンブンブンと着ぐるみの頭が取れそうなくらいに横に振った。
か、かわいいって……。言われ慣れてるけど、なんか夏狩から言われると顔が熱くなる……。熱くなりすぎて危うく頭が強制パージするとこだった。
うっかり声を出してバレたら大変だし、気をつけなければ。
「明日からどうやって接したらいいかアドバイスもらえないですかね」
『(こ、これはチャンス! 話しかけてもらっていっぱいお喋りして、趣味とかあったらあわよくばお友だちになれたりしないかな!?)』
私はアドバイスをするべく、ホワイトボードに文字をスラスラと書き進める。
《とにかくアイサツをしてみたらいいと思う。それからみてた理由とかきいてあげて、あと好きなものとかシュミとか話し合って、それから――》
「おっけーっす、もう大丈夫です。とにかく俺から話しかけてみようと思います!」
やったーー! あっちから話しかけてくれるんだ! いぇいいぇい!
私は超ご機嫌状態のまま、この後のバイトを進めるのであった。
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夏狩にアドバイスをした翌日。早速教室にやってきた夏狩に話しかけられるのを待っており、絶賛ソワソワしている。
「(まだかなー。私はいつだって大丈夫だよ? まだかな〜♪)」
チラチラと顔を伺いながら待っていると、夏狩は少し息を吐いた後こちらに顔を向けてきた。
顔を見ているのがバレないようにサッとスマホに視線を移し、すんっとした表情にすぐさま変える。しかし、まだ話しかけてこない。
「…………」
「(な、なんでジッと私見てるの!? あわわ、やばい。耳が赤くなってきた気がする……)」
ソワソワ度が増しながら待つこと数秒、ついにその時が来た。
「あー……。おはよう、冬狼さん」
「! ……おはよ……」
「えーっと……いい、天気だな」
「え、曇ってんだけど」
「そ、そうだな」
「「…………」」
か、会話できた! 私もよく天気の話題から入るけど、あえて曇りの日に天気がいいって言って場を和ませる上級テクを使うだなんて……。
久々のまともな会話にジーンと感動しながら幸せを噛みしめる。
「えっと、
「別に。理由がないと見ちゃダメな訳」
あ……ど、どうしよう。いつもの癖でまた冷たく言っちゃった……! もう話しかけられなくなったらどうしよう!
私はただ夏狩と話したいだけで……って、言葉にできないよぉ……!
心の中で大泣きした。
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