7-4
『
「いや、正直ばかくそ
小鈴がため息をつきながら言った。
『そうまでして外に出てきたのは、一体どんな
「ううん、
『では、何が』
「一個だけ文句を言いに来たんだよ。この座り込んでるおバカさんにね」
そう言った小鈴は、背中
「ねえ、ちなみちゃん」
名前を呼ばれて、顔を上げる。すると小鈴は「なにその顔」と笑ってこう続けた。
「確かにちなみちゃんは戦いが上手だけど、そんなのはどうでもいいんだよ。小鈴にとっての『穂高ちなみ』はね、おバカでドジでうっとおしくて、明るくてお人好しでたまにかっこいい。小鈴はそういうちなみちゃんが好き」
少しはにかんでから、小鈴が言葉を続ける。
「誰になんて言われても、全世界の人間から忘れられても、ちなみちゃんはちなみちゃんでいいんだよ。そうじゃなきゃ絶対にイヤ。だから、
――私は私でいい。
そう言われて、ちなみは涙が
「顔やばいよ、ちなみちゃん」
「みないでよぉ~……」
ぐしぐしと涙をぬぐうちなみを見て楽しげに笑った小鈴は、再び正面を向いて〈ザミエル〉に話しかけた。
「ごめんね、悪魔。ちなみちゃんがこんなだから、もう少し一緒にいてあげたいかも」
『それは難しいかもしれません。ボクの
「それでも、もう少しわがままを聞いてもらうよ」
小鈴は
「『
その光景にちなみが息をのむ。
小鈴の影から
〈
その姿は〈イフェイオン〉そのものだったが、ライムグリーンの鎧は
『シャオリン、きみは本当にすごい子です』
言いながら、〈ザミエル〉が片手剣を出現させた。
『そのわがままを聞いてあげたいところですが、もう止められそうにありません。ボクの
『そうだね、悪魔の言う通りだよ。こんなパクり躯体でフル装備の悪魔になんて勝てっこない。だからさ』
〈イフェイオン〉が顔だけ振り向いてちなみの方を見る。その真っ赤な両目は、ちなみに笑いかけているように見えた。
『小鈴を助けに来てよ、ちなみちゃん。昨日みたいにかっこよく!』
そうだ。
こんなところで泣いている場合じゃない。まだ、ちなみにもできることがあるはずだ。
「……わかった!」
元気よく返事をしたちなみが、涙をこらえて立ち上がる。そして、〈ヴェスパ〉のガレージがある森に向かって
*****
「それにしても、悪魔はちなみちゃんを
小鈴が言った。
〈イフェイオン・ヴォイド〉が全力で
『下手、ですか。可能な限り、ボクの
翼を広げた〈ザミエル〉が上空を飛ぶ。このままではすぐに追いつかれてしまうだろう。
「それがダメだったんだよ。ちなみちゃん、あの時すっごい落ち込んでたでしょ。あれはよくないよ」
『やはり、ヒトの感情は理解しがたい』
「じゃあさ、小鈴と一緒にもう少し勉強する?」
『そうですね』
〈ザミエル〉が急降下し、〈イフェイオン〉の元に向かう。
『そうできるのなら、ボクとしても
*****
ちなみは全速力で大通りを走っていた。
びしょ
これでかなり動きやすくなった。いっそシャツもスカートも脱いでしまいたかったけれど、誰もいないとはいえさすがに恥ずかしいのでそのままにしておく。
ここからガレージまでは
「お困りのようですね」
そんな声が聞こえたのは、五分ほど走った時だった。
足を止めずに顔を上げると、ちなみと
「シャルーア……ちゃん」
〈ニンウルタ〉のメイスに変身する、古代兵器の『レプリカ』である少女だ。シャルーアはさも
「わ!? え、待って、なに!?」
「キャンキャン
ダウナーな声でそう言うと、ちなみを両手に
「方向はこっちであってますね?」
ジト目を向けたシャルーアが聞いてくる。
「あ、うん。えっと……もしかして連れてってくれるの?」
「あの調子に乗ったザコ悪魔をシバきに行くんですよね。
「ほんと!? ありがとう!」
ちなみが目を輝かせて感謝の言葉を述べると、シャルーアはむすっとした表情のまま「そんなにスピードは出ませんが、
「デレクさんもこうやって運んでるの?」
「そうですよ。いつもは
「へえー! すごいね!」
確かにそこまで速くはなかったものの、地形に左右されない分でかなりの時間
「さっきはどーしてザミエルと戦ってたの?」
「どこかの組織にちょっかいをかけられる前に、真っ先に
そう答えた後、シャルーアは
足元を無人の家々が通り過ぎる。スキー場のリフトに乗っているような感覚だったけれど、スピードはそれよりずっと速い。
「ねえ、シャルーアちゃん」
「なんですか」
「知ってたら教えて欲しいんだけど……」
ちなみが言うと、シャルーアは続く言葉を待たずに「シャオリン・ダンバースのことですか」と聞き返してきた。
「うん。昨日さ、ナントカ
「悪くない例えです」
「それでさ、今ってどーいう状態? ……わかる?」
そう聞くと、シャルーアは「当たり前です。バカにしないでください」と返答してから説明を始めた。
「絵の具の例で言うなら、確かにシャオリン・ダンバースと
「ねえねえ、『シャオリン・ダンバース』って長すぎて呼び
ちなみが言うと、シャルーアは
「小鈴と悪霊は
「全部紫になったわけじゃないってこと?」
「だからそう言ってるじゃないですか。バカなんですか?」
「う……ごめんなさい」
しょんぼりしたちなみをよそに、シャルーアが説明を続ける。
「小鈴は、まだ青色を残した部分とマーブルな部分を切り取って、『それが自分なんだ』と
「そんなことできるんだ」
「普通は
「じゃあ、すごくラッキーだったってこと!?」
ちなみが聞くと、シャルーアがジト目を向けてきた。
「あなたは本当にバカで
「そんなぁ……」
悲しそうにしたちなみを見て、シャルーアがすぐに付け加える。
「ですが、まあ。悪魔との
「ごめん、もう少しわかりやすく!」
「あなたみたいなとんでもないバカにもわかるように説明しますね。悪魔を
「――ほんとに!?」
ちなみが期待に目を
「あくまで
「それでも」
ちなみが言う。
「それでも、また小鈴と一緒にいられるんだよね?」
シャルーアはため息をついてから、「そうです」と返事をした。
「そっか。だったらよかった! 教えてくれてありがと!」
そう言って笑顔を浮かべたちなみに、シャルーアが質問する。
「
「んー……やってみなきゃわかんない!」
「あなたはどこまでバカなんですか?」
「えへ」
ちなみは少しだけ照れ笑いをすると、「でもさ」と続ける。
「私、もっと小鈴と一緒にいたいんだ。だから頑張る。このままじゃ終われないよ」
シャルーアはしばらく
「デレクが悪魔にやられたとき、
「や、それはたまたまでしょ。別に私のおかげとかじゃ――」
「いいえ。あなたがデレクを心配して、危険も
「そーなのかな? とにかく、無事でよかったね」
「……はい」
それから少しして、森に入ったシャルーアは地上へと降り立ち、ちなみを
「さっさとヴェスパをとってきてください。早くしないと小鈴が消えますよ」
「うん。ほんとにありがとう、シャルーアちゃん!」
「長すぎて呼び
そう言うや
「待ってて、シャル! すぐ取ってくるから!」
と言って森の奥へと走っていった。
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〈近況ノートにて機体やキャラの設定イラストを公開中です〉
・イフェイオン・ヴォイド
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