第七章 自分探しJK
7-1
朝、七時十分。
「……あれ?」
その画面を見ると、表示された日付は四月十七日、月曜日だった。昨日は最後の『悪魔の武器』を回収しに青森に行って、シディム
そこから先の記憶がなかった。
急いでベッドから
「なんで?」
そもそも、昨日はどうやって家に帰ってきたんだろうか。メッセージアプリを起動して小鈴とのトークを
思えば、小鈴との約束は昨日で終わったことになる。
五つの武器を集め終わったので、ちなみのお手伝いもまた終了した。たった二ヶ月間の、誰にも言えない
机に置かれたノートをぺらぺらとめくってみる。
そこには『フライシュッツ』のことが
ちなみはそれが
どんな経験をして、何を好きになって、どう生きてきたのか。『穂高ちなみ』にはそれがない。いくら昔を思い出しても、何も出てこない。それは、元から存在しなかったのだ。
「うあー、やめよう、やめやめっ!」
言いながらノートを閉じ、もやついた
『おはよ!』
『私のケガなおしてくれたんだよね?』
『ありがとう!』
『今日遊ぼうよ! 空いてる?』
小鈴は夜
******
今日は朝から何かがおかしい。
家には誰もいなかった。ちなみの母親は、
普段は
ちなみは
「おはよーございます」
いつも通り、扉を開けて教室の中へと入っていく。窓の外はどんよりした
それでやっと気づく。
室内にいるのは十五人ほど。その誰もがおしゃべりを
「えっと……私、なんかおかしい?」
自分の席にスクールバッグを置きつつ、身だしなみをチェックする。スカートはめくれていないし、ブレザーの下にはきちんとブラウスとネクタイをつけている。おかしいことは何もないはずだ。
「ここ、2-Aですよ」
近くにいた男子が言った。
「や、知ってるけど……」
「クラス間違ってませんか」
「えっ」
改めて周囲を見回すと、皆が
もちろんそんなことはない。ちなみは間違いなく2-A
教室にはちなみの友人の鈴木和歌もいて、同じように
「待ってなにこれ? ドッキリ?」
「いや違うけど。まず、誰?」
「や、やだな~。やめてよ和歌。あなたの親友のちなみちゃんですよ?」
「誰だよ」
「誰って……穂高ちなみです」
「学年は?」
「高二」
「クラスは?」
「A組」
「A組にそんなやつはいなかったけどな。もしかして転校生?」
首を
ふざけているわけではないようだった。他のクラスメイトの反応も似たり寄ったりで、二年A組に『穂高ちなみ』が存在しないという
いくら話しても
「ほんとになんで……?」
ちなみは校舎を駆け回って、
「ちょっと、君」
後ろから肩を叩かれて振り返ると、高一の頃の
「先生、私……」
「君だね、みんなに『私のことを知ってますか』と聞いて回ってるっちゅうのは」
教師が言葉を続ける。
『君の名前は、確か――“フライシュッツ”』
「……え?」
ちなみは目を見開いた。この学校の人達は、ちなみの
『ダメじゃないか。学校は
「待って、先生、私――!」
『フライシュッツはこの学校の生徒じゃないよ。元の
「ちがいます、私は……! 私、は……」
この身体は
フライシュッツのものだ。
『フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ。フライシュッツ』
――気持ち悪い。
ちなみはぎゅっとお腹を
ぐるぐると
――穂高ちなみは何者なのか。
二年分しかない記憶。急に、その記憶に自信が持てなくなってしまった。それらは
「君、大丈夫? 名前は? 何年生のどこのクラス?」
顔をあげると、教師が心配そうな顔でこちらを見ていた。教師が聞いているのはちなみの名前だった。けれど、それでは前の会話と
どこまでが本当のことで、どこからがちなみの
なんだか
誰も『穂高ちなみ』を覚えていない。友達、クラスメイト、教師……皆、ちなみのことを知らないと言う。もしかしたら、おかしいのは皆の方ではなくちなみの方で、今まで過ごしてきた日常の方が自分の妄想だったのかも――
「すみません、なんでもないです」
ちなみは身を
ひたすらに走る。
大通りを抜け、交差点を曲がり、公園を
走っているうちに、いつの間にか自宅の近くまで引き返していたらしい。ちなみが走る
その女性は、ちなみの母親だった。
「お、お母さん……」
「なにかあったの? よければ話を聞くけど……あなた、名前は――」
言われた
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