5-3
ちなみは〈ヴェスパ〉を走らせて、建物の中に
そこは屋根の高い工場のような場所だった。中には何も置かれておらず、
〈ヴェスパ〉が建物内に
正面モニターに〈アーヴィン〉の姿が見えた。そして、
「……やばいかも」
〈アーヴィン〉がバックステップを
ちなみは息をするようにフェイントをかけている。
三発の
一発目はちなみが避けた場所にピンポイントで向かってきた。まるで〈ヴェスパ〉がそこに来ることをはじめから計算していたかのような
「――っ!」
反射的にトリガーを引く。
二十ミリ
ロケットランチャーは
廃墟を
「これ、さすがに……っ!」
ちなみは
――まずい。
ちなみはロケット弾がかすめていくのも構わず、
モニター端に映る〈アーヴィン〉は、
徹甲砲弾は〈ヴェスパ〉のディーゼルエンジンめがけて
ちなみは必死で機体を動かす。
〈ヴェスパ〉が左手を突き出した。飛んできた三十ミリ砲弾は左の機関砲をばらばらに
「うわ!?」
操縦室の壁が
顔をあげると、敵機は工場の外へと
「今のはやばかった……!」
吹き出た冷や汗がシャツの背中をぐっしょりと
ちなみは軽く頭を振り、〈アーヴィン〉を追いかける。
廃墟を出ると、三十メートル先の敵機が
しかし、それはあくまで視界を
音と振動で敵機の位置は
機体を走らせ、煙幕を抜ける。
ちなみはモニターに目線を走らせ、周囲をチェックした。すぐに〈アーヴィン〉の姿を見つけて――ちなみはぎょっと目を見開いた。
「うそうそうそ!?」
いつの間に準備したのか、〈アーヴィン〉は大型のガトリング砲を構えていた。M61A1バルカン。主に〈F-15イーグル〉などの戦闘機に
その
「やばいって!」
〈ヴェスパ〉が駆け出すと同時に、〈アーヴィン〉のガトリング砲が回転を始めた。
激しい
走る〈ヴェスパ〉の後を赤い火線が追いかけた。大量の二十ミリ砲弾が雨のように
このままではすぐに追いつかれる。
ちなみは
そこは
再び武器選択。
倉庫内を走った〈ヴェスパ〉が、背中からグレネードランチャーを引き抜く。ちなみがトリガーを引くと、連射された六十六ミリ
その部屋はかなりの広さの倉庫スペースだった。
壁にはスプレーによるいたずら書きがあった。割れた窓から差し込む燃えるような
はじけ飛んだ
やはり計算だ。
計算。計算。計算。
本当に、コンピューターと戦っているようだった。いや、これは戦いですらない。リアが
ミサイルが
リアの計算は全て正しい。とんでもない計算
もちろん、それは
「……あ」
そこで、ふと思いついた。
考えてみれば簡単なことだ。ちなみの
ミサイルが部屋に飛び込んできた。
ちなみは機体を操作し、
そのマガジンには二十五発分の
目の前で巨大な
ちなみは〈ヴェスパ〉に
衝撃波に
そこで、〈アーヴィン〉が建物内に飛び込んできた。
その挙動が
〈ヴェスパ〉が走り込んで機関砲を撃つ。
ちなみは敵の砲弾が装甲を
「この人、強い……!」
〈ヴェスパ〉と〈アーヴィン〉が
「けど――」
〈アーヴィン〉が発砲。二十ミリの砲弾が
「――これは私の距離だ!」
〈ヴェスパ〉がひらりと砲弾を回避し、〈アーヴィン〉の背中へとすり抜ける。そして、
『――!』
あたりがしんと静まり返った。行動を
目の前の〈アーヴィン〉から戦意が消え失せた。
戦闘終了――そう思った時だ。
「ん……?」
なにか
左サイドモニターの
次の
「え――」
間に合わなかった。いや、間に合うはずがない。一ピクセルの揺らぎが見えた時点で、ちなみの負けは決まっていた。明らかな
〈ヴェスパ〉の二十ミリ機関砲が粉々に吹っ飛んだ。
遠くから、
『……やっぱ強いね、
敵機の外部スピーカーからリアの声が聞こえてきた。〈アーヴィン〉は持っていたアサルトライフルを地面に捨てると、立ち上がってこちらを振り返った。
『穂高ちゃんの勝ち。約束通り、悪魔の部品は返すよ』
「でも……」
ちなみはまだ勝っていない。未だに狙撃兵がちなみのことを狙っているからだ。
『あ、そっか。ごめんごめん』
リアがそう言った六秒後に、敵の
『見えない狙撃手とかズルじゃん。一応バックアップとして待機させてたんだけど、なんか早とちりして攻撃しちゃったみたい。もういなくなったから安心して』
リアの言う通り、もう狙撃兵の気配はどこにもない。
ちなみはほっと胸を
『これで、穂高ちゃんが本来の実力を取り戻していることが十分わかったよ。あとは戦闘の内容を本部に報告して
「えと……どーいうことですか?」
ちなみが聞き返すと、リアは少しだけ考えてからこう言った。
『まあ、テストみたいなものだと思っといて。詳しいことはまた説明しに行くから、それまで待っててもらっていい? 今って春休みでしょ。
「えっ、高層マンションの最上階!?」
『せっかくだし、小鈴ちゃんと一緒に遊びに行ってきたら? お金はウチが全部出すって言ってたよ』
「ほんとですか!? ありがとーございますっ」
ちなみが目を
すぐにスマホを取り出し、小鈴にメッセージを送る。どこに遊びに行こうか考え始めたとき、ちなみの耳にこんなつぶやきが聞こえてきた。
『でも、自信無くすなあ。穂高ちゃんの戦い方を研究し尽くして準備も
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