4-4
約二時間後、ちなみは市内のビジネスホテルの一室にいた。
ずぶ
引っ
シャワーを浴びたちなみは、買ってきたTシャツとショートパンツに着替えていた。びしょびしょの制服はコインランドリーに放り込んである。
そして、ミサイルの
「あ~あ……」
ベッドに腰かけたちなみは、
さすがのちなみも少し
「なーんて、落ち込んでてもしょーがないか!」
そう自分に言い聞かせつつ、その場で伸びをする。
今はできることをやるしかない。そして、ちなみにできるのは〈ヴェスパ〉に乗って戦うことだけ。なら、やるべきことはひとつだ――奪われた『アンドラスの右腕』を取り返す。
「ねえ、悪魔」
『なんでしょうか』
ベッドの上に置かれた黒ボールを手に取り、
「あのダウリクスっていうロボットがなんなのかって、知ってる?」
『ちょうどそれを調べていたところです。スマホの画面を見てください』
言われた通りスマホを手に取ると、そこにいくつかの
『榊巻緑無』
と書かれている。
「えーっと。なんて読むの、これ?」
『サカマキ・グリムです』
ちなみはぱちくりと
「へー、さかまきって読むんだ……ちょっと待って、『ぐりむ』? 『む』はわかる、『無し』って漢字だし。でも『緑無』って……あ、緑だからグリーンってこと!?」
『
「めっちゃキラキラネームじゃん!」
『サカマキ・グリム』
「あはは、
ちなみが笑っていると、
『何がそんなにおかしいんですか?』
「え」
『人の名前で笑ってはいけませんよ』
「急に
ちなみは手をあわせ、遠くにいるサカマキさんに謝った。
『サカマキは、ロズウェル・インスツルメンツのテストパイロットです。この会社の名前に聞き覚えはありますか?』
「あるある! うちのお父さんがロズウェルのスマホ使ってるよ」
『そうですか、であれば話は早いですね』
ロズウェル・インスツルメンツといえば、スマホやスマートスピーカーといったスマート
『ですが、それはあくまで
ちなみの太ももの上で、悪魔が説明を続ける。
『RI社は、
「でた、『くりぷてぃっど』! それって、
『先々週交戦したニンウルタも、そう分類していいでしょう』
「とにかく、普通の人は知らないおかしな存在、ってことであってる?」
『ええ、その通りです』
『この
「リアさんたちの組織だね」
『二つ目はRI社、およびロズウェル・グループ。この組織は、異方を“利用”します。彼らは世界のトップ企業になるためならばなんでもする。その一つが、異方体を研究し、軍事転用することです』
「そーなんだ」
『そして三つめはゲシュタルト
「なんかこわいね」
『少なくともこの三つは覚えておいてください。いいですね』
ちなみが指を折りつつ名前を
「異方を『否定』する
『
「えへへ」
軽くちなみを
『話を戻しましょう。RI社は異方体の軍事転用を研究しています。その成果が“
ヴァリアント・トルーパー。
先ほど交戦した〈ダウリクス〉がそうなんだろう。
「それって、二脚とはどうちがうの?」
『全くの別物です。フェノメナル・リアクタと呼ばれるエンジン部以外はほとんどが人工のパーツで構成されていますが、その
「どーいうこと?」
『“おバカ”なチナミでは理解できませんので、説明は
「ば、ばかじゃないから! ちょっとドジなだけだからっ」
言いながら、ちなみが黒ボールを
『こう考えてください。VTは現代科学の百年先を行くオーバーテクノロジーの
「たしかに……」
『しかし、無敵ではない。ダウリクスは二十ミリ
「なるほど」
ちなみは考え込む。
〈ダウリクス〉は戦闘機に変形できるので、ちなみを遠距離から
「私、ちょっと思いついちゃったかも。こんな作戦はどーかな?」
*****
「さむさむ! 早く、早くヴェスパ出して!」
Tシャツショーパン姿のちなみが、自分の身体を抱き、両脚をこすり合わせている。
時刻は二十一時五分前。空はすっかり暗くなり、冬の
『“
悪魔がいつもと少し違う言葉を唱えた。
そうして呼び出されたのは、右腕を
ちなみがそれに乗り込むと、〈イフェイオン〉に変身した小鈴が『フォルカロルの翼』を装備して立ち上がった。
『ねえ、ちなみちゃん。ホントにやるの……?』
心配そうな小鈴の声がそう言った。
「だいじょぶだいじょぶ。ほら、サカマキさんが来ちゃう前に早く行こ!」
『う、うん……』
〈イフェイオン〉が翼を広げて
「お、おぉ~」
飛行機に乗ったときと同じような浮遊感を覚える。
違っているのは、今座っているのが
そうしている間にも〈イフェイオン〉はぐんぐん高度を上げ、ついには地上千五百メートルまで
「小鈴! 下見て、下! きれーだよ!」
千五百メートルから見下ろす夜の世界は、ぜんぶが小さく見えている。
『やっぱりやめよう、ちなみちゃん。こんなの絶対危ないよ』
下を見て怖くなったのか、小鈴が弱気な台詞を口にする。
「大丈夫だって! 見てて、すぐにアンドラスを取り返してくるから」
『そんなのいいよ。もう戻ろう? 小鈴も怖いし……』
小鈴がそう言ったとき、時刻が二十一時ぴったりになった。
『来ましたよ、シャオリン、チナミ。今、こちらから通信を呼び掛けます』
悪魔が言うと、その一秒後にブツッと音がして、
『ノコノコと現れやがったな、クソガキども!』
そんな声が
サカマキの声だ。
ちなみがモニターに目をむける。遠くから戦闘機形態の〈ダウリクス〉が飛んでくる様子が確認できた。
『お前ら、生きて帰れると思うなよ!? 二人まとめてブチ殺してやる!』
そして、サカマキはかなり怒っている様子だった。
それもそのはずだ。なぜなら、悪魔がサカマキのスマホ番号を特定し、SMSで小鈴が考えた
果たし状には、『十歳以上も年下の女の子二人にあっさり逃げられちゃったエースパイロット(笑)』とか、『
案の定、プライドの高いサカマキは
「サカマキさん。アンドラスの右腕、返してもらっていーですか?」
『
一応聞いてみたところ、さらに相手を怒らせてしまったようだ。
〈ダウリクス〉が
『ちなみちゃん、ほんとにやるの!?』
「大丈夫! 今更やめるのもムリだし!」
『どうなっても知らないよ!?』
〈イフェイオン〉がスピードを上げた。
タイミングをはかる。
まだだ。
まだ。
まだ――
「今!
『だぁ――ッ!』
合図とともに、〈イフェイオン〉が〈ヴェスパ〉を放り投げた。
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〈近況ノートにて機体やキャラの設定イラストを公開中です〉
・ヴェスパ二号機(片腕ガトリング仕様)
https://kakuyomu.jp/users/kopaka/news/16818093084877097866
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