第三章 神話時代の超兵器
3-1
ロズウェル・インスツルメンツの米国本社ビル、十一階の応接室。
広い部屋には
その高級ソファに、体格のいいヨーロッパ系アメリカ人の男がふんぞり返って座っていた。男の名前はデレク・カーン。彼の
「へえ。『シャオリン・ダンバース、十五歳、ハイスクール一年生』……この子の
デレクが言った。
暗めのブロンドをおしゃれ
「ええ、その通りです」
対面のソファに座った
「こっちとしちゃ願ったり叶ったりだが……どうして俺に? 俺はロズウェルの『商品』を買ってるわけじゃないし、そもそもあんたらには怪しげな
デレクが聞くと、社員の男が笑顔を崩さずに返答する。
「RSS社はグループとはいえ他社ですからな。ウチにも色々と事情があるわけです」
「へえ、そうなの」
デレクは興味なさげに
「こんな女の子を捕まえてどうしようってんだ?」
「教会の人間を殺害している『悪魔憑き』です。女の子、という表現はどうでしょうな」
「望んでやったことじゃないだろうさ」
「では、お引き受けくださらない?」
「まさか」
デレクは画面から顔を上げ、おもむろに肩をすくめた。
「やることはきっちりやる。それが俺の仕事だからな」
社員の男は安心したように息をつき、話を続ける。
「しかし、そちらの方が古代兵器の
男が視線を向けたのは、デレクの隣にちょこんと座った少女だった。
とにかく不思議な雰囲気の少女である。淡い青色のミディアムヘアに、鮮やかなマリンブルーの瞳。だぼだぼ
「おいおい、
デレクがわざとらしく笑うと、その少女が初めて口を開き、
「さっきから態度が最悪ですよ、デレク。こういう場ではまともな大人として
ジト目を向け、ダウナーな口調でそう言った。
デレクと社員の男は思わず顔を見合わせる。再び肩をすくめたデレクに、社員の男は
*****
「ねえ、私わんちゃんじゃないんですけどぉ~……」
不満そうにしたちなみが言った。
ちなみは今、雪の降る冬の森を歩いている。その首には首輪が巻かれ、リードは前を歩く小鈴が握っていた。
二月二十八日。学年末テストを終え、今日は家庭学習日になっていた。しかしちなみは『学校に行く』と嘘をついて、制服姿で小鈴の元へとやってきたのである。
「小鈴は結構好きだよ、ポチと散歩するの」
「誰がポチだ! あと、私はぜんぜん好きじゃないっ」
ちなみがきゃんきゃん
「しょうがないじゃん、ちなみちゃん絶対迷子になるし。この前駅で迷子になったの忘れてないよね? 高校生にもなって迷子になるとか、恥ずかしくないのかな?」
と言った。
確かに、全方位が
ばつが悪くなったちなみが、小鈴の肩をぽんぽん叩きながら笑顔で弁明する。
「そ、それがちなみちゃんの可愛いとこじゃーん。やだな~」
小鈴に無視され、しゅんと肩を落としながら歩くこと数分。急に開けた場所が現れ、黒い直方体の建造物が見えてきた。
これが今回の目的地。ちなみの〈ヴェスパ〉が
「おお~! 秘密基地みたい!」
中に入って照明をつけるや否や、テンションの上がったちなみがどたばたと室内を駆けていく。
ガレージの天井高は約七メートル。広々とした
コンクリートの床には整備用の機材や
そして――
「ヴェスパ! ほんとにここに置いてあるんだ」
ちなみが向かった先、パーテーションで区切られた壁の一角に、ダークオレンジの二脚兵装が
「あれ? ちょっと雰囲気変わった?」
〈ヴェスパ〉を見ながら、ちなみが首を
『よく気付きましたね。チナミの試験期間中に、ヴェスパをアップデートしておきました』
「おーっ!」
悪魔がそう言うと、ちなみが目を輝かせてぐるぐると機体の周囲を回り始めた。
右手に
また、背部ラック右側には、大型の三十ミリライフル砲まで追加されていた。かなり扱いづらい武器ではあるものの、選択肢が増えるのは悪いことではない。
「ちょっとかっこいいかも……」
フル装備の〈ヴェスパ〉を前にして、ちなみが誰にともなく呟いた。その横に忍び寄った小鈴が、「ところでさ」と声をかける。
「テストの方はどうだったの?」
それを聞いて、ちなみの顔がさあっと青くなった。そんなちなみの
「お、思い出させないでよお……」
涙目になったちなみが言った。
実は、ちなみと小鈴が
ちなみにとって、その体験はかなりのトラウマになった。しかし、そのおかげでいつもより試験はうまくいったので、どの科目も赤点ラインを越えている自信はある。
そんな話をしつつも、〈ヴェスパ〉の装備品の確認や点検を行い、二脚兵装についてのレクチャーを受ける。そうしてゆるやかに時間は流れ、今日のところは
『今週の日曜日、また来てください』
別れ際に悪魔が言った。
『今日はお見せできませんでしたが、その時には“最強の武器”が届いているはずですので』
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