2-3
東京駅で新幹線を降り、電車とバスを乗り継いで約一時間半。ちなみと小鈴は、
住人の少ない、
「ねえ、『悪魔の武器』ってこんなとこにあるの? なんか間違ってない?」
「間違ってないよ。だってその武器を
『ええ。武器召喚の段取りを整えたのはボクです』
小鈴と黒ボールが揃って返事をする。
「ん? じゃあ、なんでわざわざ千葉に召喚したの? 旅行したかったから?」
「違うよ。悪魔召喚に
「あ、そーなんだ」
そんな会話をしつつしばらく歩くと、古ぼけた団地と一体になった、
「ここだよ」
そう言って、小鈴が足を止める。
「おお……」
広い一本道を
しかし、どの店もシャッターが下ろされていて、看板の文字はかすれて見えなくなっていた。高く立派なアーチ天井には
「なんか不気味だね」
ちなみが言った。
「うん。くっそ怖い。小鈴も全く入りたくない。ちなみちゃん先行って」
「えぇ~……」
小鈴に背中を押され、しょうがなく屋根の下へと足を踏み入れた。しんと静まり返った空間に、二人の足音だけが
「止まって! ここ、ここだよ」
ちなみのリュックに張り付き、ブレザーの肩をぎゅっと
正直全く入りたくない。怖すぎる。
「ほら、早く行って。進んで」
「うぅ……わかったってば~」
背中にくっついた小鈴がぐいぐい押してくるので、
「これが『フォルカロルの翼』……で、あってるよね、悪魔?」
『ええ、間違いありません。
小鈴と悪魔が会話をしている。
〈フォルカロルの翼〉と呼ばれたそれは、うずくまった生物のように見える塊だった。かなりの大きさで、これを外まで運ぶのは簡単じゃなさそうだ。
「これ、どーやって回収するの?」
ちなみが聞くと、小鈴は
「お~」
ちなみが興味深そうにそれを
「これで終わり? 意外とあっさりだったね」
そう聞くと、小鈴は首を横に振って「まだだよ」と言った。
「そーなの?」
『予想通りです。
「え、なに、どーいうこと?」
ちなみの認識が間違っていなければ、『二脚小隊』とは三機編成以上の
「小鈴は命を
こともなげに小鈴が言う。
「それがわかってたのになんで来ちゃったの!?」
ちなみが聞くと、黒髪の少女はにやりと笑って、こう言った。
「だから一緒に来てもらったんだよ。穂高ちなみ――世界最強の二脚乗りにね」
『“
悪魔が
「相手は二脚兵装の一個小隊。その練度は
そう言った小鈴が、ちなみの背中を少しだけ押す。
「なにか思い出せるといいね」
「――うん」
背中越しに
「ふう……」
操縦席に座ると、かなり気持ちが落ち着いた。暗いのはさっきと同じだけど、〈ヴェスパ〉の中の方が
マスターパワー投入、電源起動。操作パネルのLEDが点灯したのを確認してエンジン始動。機体がぶるりと震え、四ストロークディーゼルエンジンが低く
『“
耳元で悪魔の声が聞こえた。六枚のモニターが次々に起動して、外の風景が映し出される。サイドモニターに映ったのは、
『よーし。こい、“
小鈴がそう呼ぶと、
そして、彼女はこんなことを言い出した。
『小鈴はさっさと逃げるから。あとはよろしくね、ちなみちゃん』
「え? 一緒に戦わないの?」
そう聞き返すと、小鈴はいつもの小馬鹿にしたような口調で返事をした。
『おバカだなあ、ちなみちゃんは。小鈴は
「そ、そーなのかな……?」
『いくよ、ちなみちゃん』
「……了解!」
考えている暇はない。ちなみはローファーでペダルを踏み、
素早く状況を確認する。
今ちなみがいるのは、アーケードのちょうど中間地点。敵機は東の入口に二機、西の入口に一機の三機編成だ。どちらもアーケードの外にいて、こちらの様子を
敵機はダークグレーに塗装された二脚兵装だった。宇宙服ヘルメットのような頭部をした、マッシブなシルエットの機体だ。
「M90、のA3型……?」
思いついた言葉を口走る。
それが
三機とも装備は同じ。右腕にM807二十ミリアサルトライフル砲、左腕に
加えて胸部に追加装甲、背部にミサイル発射器を装備、さらにさらに――敵機の装備は挙げ始めるときりがない。シンプルに言えば、めちゃくちゃお金のかかったフル装備状態の米軍機、ということになる。
「おお……」
一瞬にして脳内を駆け
『じゃあね、ちなみちゃん。あとは任せた!』
弾丸のように飛び上がった〈イフェイオン〉が、天井の鉄骨を突き破って空へと飛び出していく。トゲ巨人は鳥のように翼を広げ、空中高くへと舞い上がった。
しかし、アーケードの外にいた〈フィンドレイ〉たちは、動じることなく次々に背中からミサイルを射出。ロケットモーターで
『地対空ミサイル――!?』
それは二脚兵装向けの高性能誘導ミサイルだった。天敵である戦闘ヘリを
『バカー!』
全弾命中。
空中で爆炎が弾け、小鈴の
「あはは……」
その様子を見て、ちなみは力なく笑った。
前に〈イフェイオン〉がやられたときと同じく、小鈴は生きているに違いない。ちょっとかわいそうだけど、今は小鈴のことは忘れて、目の前の状況に集中するべきだ。
左右のモニターを確認。アーケードは約五十メートルしかない。二脚兵装にとってはかなり狭く、激しいドッグファイトになる近接戦闘距離だった。
――でも、大丈夫。近接戦闘は私の距離だ。
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