第二章 悪魔憑き少女と秘密組織
2-1
戦闘によって
「こちらフライシュッツ。北側のT-72Mを制圧」
『戻ってこいフライシュッツ。ターゲットのお出ましだ』
「フライシュッツ了解」
無線機越しに聞こえた男の声に返事をし、少女が赤褐色の〈ヴェスパ〉を走らせた。操縦室はディーゼルエンジンの熱で温かかったけれど、外の気温は
『こちらエレクトラ。中央広場に人型のなにかが出現。なんだあれ――』
仲間の声が聞こえてきた。
少女の〈ヴェスパ〉が路地を曲がって大通りへと飛び出す。モニターに中央広場の様子が映り、『エレクトラ』の言うなにかの姿が見えた。
「なにあれ。怪物……?」
少女が
モニターに映ったそれは、巨大な人型をしていた。
体長は四メートルほど。ラバーのような質感の白い
この世界とは
『スラヴの
『人狼……? そうは見えないわ』
男の声に反応して、仲間の『ダフネ』が聞き返した。
彼女の言う通りだ。目の前にいる〈ヴルダラク〉は、毛も生えていなければ耳や鼻もない。手足が異常に細いアンバランスで
『
『ひとつの解釈ということね』
「どーいうこと?」
少女が思わず聞き返す。しかし、指揮官の男はそれには答えず、低い声で少女たちに命令を出した。
『無駄話は終わりだ。そいつの身体を傷つけずに、頭部の
『エレクトラ了解』
『ダフネ了解』
「フライシュッツ了解」
赤褐色の〈ヴェスパ〉が三機、雪の世界を駆けていく。
銀世界に激しい銃撃音が
三機の陸戦兵器は、鋼鉄製の機械とは思えない軽やかさで異形の怪物を
*****
ちなみが家庭科準備室に入ると、小鈴は机に寝っ転がって、だらだらとスマホゲームをプレイしていた。
『三時間目と四時間目の間の十分休憩に、家庭科準備室に来て欲しい』
とのメッセージが小鈴から送られてきたので、言われた通り、ちなみは家庭科準備室へとやってきたのである。
「やっほー。一日ぶりじゃん!」
小走りで部屋を横切り、小鈴の元にむかう。黒髪ロングの少女はちらっとこちらを見ると、「ん」と返事をしてから視線をスマホに戻した。
「どしたの、こんなとこに呼び出して」
「明後日の土曜日、千葉に行くよ」
スマホ画面に目を向けたまま、小鈴がそんなことを言った。ちなみはしばらくぱちくりと瞬きをしていたが、出し抜けに目を輝かせて「……千葉!」と声をあげる。
「遊びに行くってこと? そーだよね!? もしかして
「違うよ。お仕事だよ」
「お仕事?」
首を
「またヴェスパに乗って戦って欲しいんだよ」
「あーね。おっけーおっけー、まかして!」
さすがのちなみでも、〈ヴェスパ〉に乗って小鈴のお手伝いをする、という約束のことは忘れていなかった。
そして、千葉である。千葉といえばもちろん――
「舞浜! それ終わったら舞浜行こうよ!」
目を輝かせたちなみが、スマホを押しのけて小鈴の顔を
「ちょ……邪魔! 近い! どいて」
「ねえ遊びに行こ? お願いっ!」
「もー、わかったから早くどっかいって」
顔をしかめた小鈴が迷惑そうにちなみの頭を押しのける。そんな小鈴をよそに、ちなみはにこにこ笑顔を浮かべて楽しそうにしていた。
「じゃあ制服着てきてね。絶対だよ?」
「はい? なんで?」
「舞浜行くなら制服に決まってるじゃん! じゃ、私教室戻るね!」
ちなみはそう言い残すと、軽やかな足取りで部屋を後にした。
*****
「すごい、駅の中なのにいっぱいお店がある! ねえ小鈴、すごくない?」
二月十八日、土曜日。
制服姿のちなみと小鈴は、二人並んで新幹線の駅構内を歩いていた。
「まだ新幹線に乗ってすらないのにそんなにはしゃいで……はぁー、これだから
やれやれ、と小鈴がわざとらしく肩をすくめた。からかわれて赤面したちなみは、勢い込んで小鈴に反論した。
「い、田舎民じゃないですう! アウトレットとかもぜんぜん行きますから!」
「アウトレットモールって田舎にしかないんだよ。ぷぷー、もう十六歳なのにそんなことも知らないんでちゅか? 地元から出たことないんだね、かわいそ~」
なにも反論できなくなり、ちなみが顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせた。そんなちなみを見て、小鈴がけらけらと笑っている。
「うぅ……」
反論するのを諦めて、視線を前に戻す。すると、数メートル先に書店があるのが見えた。
「見て、小鈴! 本屋あるよ! 千葉の観光ガイドあるかも!」
「いやいや、ちなみちゃん。書店くらい……」
「私ちょっと行ってくる!」
言いかけた小鈴を残し、ちなみがその場から駆け出した。その背にしょったリュックからお茶のペットボトルやポーチなどをぽろぽろと落としながら――
「ちょ、待って、いろいろ落としてるから! ちなみちゃん!」
声をあげた小鈴が、地面に散らばる落とし物を拾いながらちなみの後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます