1-2
「こんにちは、
女の子がにこやかに
その女の子は、ネクタイの色がちなみと同じなので、おそらく高校一年生だ。目はまんまるで顔立ちは
彼女はにんまりとした笑顔を浮かべると、こんなことを言い出した。
「あなたが落としたのはこのスクールバッグですか? それとも
「……え? 今、記憶って言った?」
ちなみが聞き返すと、カウンター
「まず自己紹介だよね。はじめまして、ちなみちゃん。
「あ、はい。穂高ちなみです」
「でさ、どうかな!? やっぱりちなみちゃんって
「そーだけど……なんで?」
「きたー! はい勝ち―!」
「やば! ごめん、スクバ返して! ってか授業始まっちゃうけど、小鈴ちゃんはこんなとこにいていいの?」
「その前に」
小鈴が小さく手を上げ、ストップのジェスチャーをした。
「ちなみちゃんが忘れちゃった過去のこと、教えてあげよっか?」
首を
「なにか知ってるの?」
「知ってるよ。ねえねえ、昔のことを全く覚えてないなんてちょっと気持ち悪くない?」
「う、うん。そーかも」
「小学校の時は誰と仲良かったのかなーとか、中学の時好きな人いたりしたのかなーとか、知りたいもんね?」
「それはめっちゃ気になる!」
「だよねえ」
小鈴が楽しげに笑う。
両親の
「じゃあ教えて! 私って昔はどんなだったの?」
そう聞くと、いしし、と笑った小鈴は、
「教えなーい」
なんて言い出した。
「はぇ? ……なんで!? 教えてよ!」
「嫌で~す。残念でしたぁ」
んべ、と舌を出しつつ、小鈴がカウンター下からスクールバッグを取り出す。
「はいこれ、ちなみちゃんのスクバ。もう授業始まってるよ」
「でも――」
「小鈴はずっとここにいるよ。知りたければ休み時間に会いに来て。まあ、教えてあげるとは限らないけど」
にんまり笑った小鈴が言った。そういえば、もう授業は始まっているんだった。ちなみは何かと目立ちやすいので、早く行かないと怒られるかもしれない。
「じゃあ、また来るから! その時はちゃんと教えてね!」
そう言い残し、ちなみは
*****
午後、四時十分。
あっという間に一日が過ぎ、
――ところで、何か大事なことを忘れている気がするけど、なんだっけ?
「まあ、いっか!」
流行りの
「なになになに!?」
そこは化学実験室だった。白く
ちなみの後ろでぴしゃりと
「……あ!」
そういえば、ちなみのことを知っているとか知っていないとかで、事務室で会話したきりだった。完全に忘れてた。
「あ、じゃないよ! なんでお昼休みとかにこなかったの!? 一日中くそつまんない部屋で待ってたんだよ、
「ごめんごめん、忘れてた。あはは」
「あははじゃないよ、なに笑ってるの!? 忘れてたってどういうこと!? また来るって言ってたよね、それでなんで忘れちゃうのかな!? ねえ、ねえ!」
「わばばば」
肩を
「ちなみちゃんがおバカなせいで、説明してる時間がなくなちゃったよ」
そして、
「ば、ばかじゃないですう! ちょっとお
「こうなったらしょうがない。とりあえずこれつけて」
言いながら、小鈴が
「ひゃ、なに――」
くすぐったい、そう感じた
「え?」
首回りになにか
「なにこれ!?」
「このリードを持っている人の言うことを何でも聞いてしまう
「はい?」
笑顔を浮かべた小鈴が口を開いて、
「ちなみちゃん、お座り!」
と言った。
それに返事をする前に、ちなみの身体が
「なにこれ~っ!」
「ぷぷ、ぱんつ見えてるよ」
「ちがうの、見せたくて見せてるんじゃなくて……!」
ちなみが顔を真っ赤にする。ずり落ちたスカートをおさえようにも、『お座り』の
「そうだ! 犬耳もつけようよ! できる?」
『
「うわ、いいじゃん! さいこうだよ」
どこからか中性的な謎の声が聞こえてくる。その声と会話しながら、小鈴がちなみの頭を見てけらけらと笑っていた。
「なに? なにが起きてるの?」
「みせてあげるよ」
小鈴がポケットからスマホを取り出し、その
「うそ、なんで!? 犬になっちゃったの、私!?」
「似合ってるよ、ポチ」
「私はポチじゃない! どうしよう、こんな耳つけてたらもっとバカだと思われちゃう!」
「ねえやだ、
「ちなみ、お手」
言われるがまま、小鈴が差し出した
「もうやめて、私で遊ばないで!」
その言葉ではっとした小鈴は、立ち上がってリードを引っ張った。
「そうだった。遊んでる場合じゃないんだ。いくよポチ!」
「やだ!」
「返事は『ワン』だよ!」
「わんっ」
元気よく返事をしたちなみは、リードを引っ張られて化学実験室の外に出された。
「こんなのやだぁ……」
ちなみは真っ赤にした顔を
*****
「待って、こんなとこ入っていーの!?」
「バレなきゃ平気だよ。とにかく急いで、もうすぐあいつが来る!」
そこは、学校の裏にある小さな森だった。明らかに侵入禁止の
森の中をしばらく走ると、開けた場所に出た。
「よし、ここなら……」
「よく聞いて、ちなみちゃん。時間がないから一回しか説明しないよ。実はね――」
しかし、小鈴は説明を
ちなみが振り向き、小鈴と同じ方向に目を向ける。真冬の空は
「んん……?」
そして、遠くからこちらに向かって『なにか』が飛んでくるのが見えた。ものすごいスピードだ。それはどんどん大きくなり――どうやら人型の『なにか』であるらしいことがわかってきた。
「やっぱり間に合わなかった! しょうがない、ここはちなみちゃんに任せるよ!」
「えっ、待って、なに?」
小鈴の急な
「どーいうこと!? 待って、置いてかないで!」
そして、小鈴はダッシュで森の中へと逃げて行った。お座りさせられたせいで
「なに? なんなの……?」
目の前の地面に大きな影が落ちる。
そして、空から『それ』が降りてきた。
地面にふわりと着地した『それ』は、
身長は三メートル以上。全身は灰色の
そいつは翼を
「わ、わ、わ――!?」
目の前で
「あ、ど、どーも……穂高ちにゃ、ちなみです……あはは……は……」
ちなみの
「……あ」
「やばいやばいやばい、こっちきた!
「悪魔、お願いっ」
走りながら小鈴が叫んだ――悪魔?
『 “
さっきも聞いた、中性的な声がそう
その
ネイティヴ・スケール。
ヒトという
小鈴だった真っ黒な人型が巨大化する。それが身長三メートルまで大きくなると、全身からツノのような
「うそ……」
ちなみは目を
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〈近況ノートにて機体やキャラの設定イラストを公開中です〉
・小鈴
https://kakuyomu.jp/users/kopaka/news/16818093083302869432
・イフェイオン
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