第一章 おバカで明るい最強操縦兵
1-1
その街には、無数の
黒くすすけて
ここは、東西ドイツの
耳を
どくどくうるさい心臓音。
いつもより荒い呼吸音。
そして、ディーゼルエンジンの駆動音。
『フライシュッツ』という名の十三歳の少女が、陸戦兵器の
モニターに映る
「ふう――」
少女は
肩に届かないくらいの明るめの茶髪は、乱れてぼさぼさになっている。灰色の
「水、なくなっちゃった……」
携帯食料はとっくになくなっていて、
「命令……なんだっけ」
少女はぼんやりと
「命令……めいれい……」
お腹が減っていることや、
遠くから足音が聞こてきた。
それは『敵』の足音だ。がちゃりがちゃりと、
「もう来ちゃったんだ」
少女はペダルを踏み、
そう、立ち上がったのである。
直方体形状の
その上には、前後に長い角ばった
胴体からは
そして、頭部のガラスシールドの奥で光学センサが
少女が乗っている陸戦兵器は人間型をしている。少し
『
英語なら『Armored Bipedal Vehicle』、あるいは『
それは、ディーゼルエンジンで
少女が乗っているのも、ごく
「よし……がんばろう」
大通りの向こうから現れたのは、三機の『二脚兵装』だ。
操縦桿を倒す。
ディーゼルエンジンの唸りを上げ、〈ヴェスパ〉が路地を
「てーいちにおりれーば、すーばらしいー……」
機体を
〈ヴェスパ〉が
「……おーかにはすもも、てーいちにぶどうー」
路地を
少女が
ステップを踏んだ〈ヴェスパ〉を、二機の〈フィンドレイ〉による
しかし、少女の機体はその十字砲火を魔法のようにすり抜けた。
二機の〈フィンドレイ〉はなおも攻撃を続ける。しかし、ゆらゆら揺れる〈ヴェスパ〉は全ての攻撃を回避して、すれ違いざまに二機目の敵を無力化した。
「てーいちにおりれーば、ぼーきょうのちー……」
少女の〈ヴェスパ〉が、最後の〈フィンドレイ〉へと正面から走り
だが、当たらなかった。
少女の機体には傷一つつかない。右へ左へと揺れる〈ヴェスパ〉は、
小さな歌声が、
〈ヴェスパ〉は〈フィンドレイ〉の真横へとすり抜けると、重機関銃をバースト射撃。発射された十二・七ミリ弾は、
「てーいちにおりれーば、ぼーきょうのちー……」
歌いながら、少女の機体はその場を後にする。
「……命令、なんだっけ」
少女は小さく首を
命令が欲しい。そうでなければ、生きる意味がなくなってしまう。
少女は生きる
*****
朝、七時十分。
少女の名前は『
ちなみはベッドの上でむくりと起き上がり、「さむ……」と
「よし……」
少しだけ目を閉じて、自分の
「うん! 今日も思い出せない!」
ちなみが
ここ二年の
ちなみが覚えているのは二年分のことだけで、十四年分の記憶はきれいさっぱり
「そろそろ起きるか~……」
あくびをしながらベッドから降りる。
*****
『
つけっぱなしのテレビからそんなニュースが流れている。
どこかの草むらで、緑色の
「ちーちゃん」
弁当を作り終えた母親がキッチンから出てきて、声をかけてきた。
「今日、
そこで
「ちょうど一か月たったでしょ。そろそろじゃないの」
「へ、へ~。よく覚えてるね!」
*****
八時四十五分。
授業が始まる前の、朝のショートホームルームの時間。
『連絡事項はこれで終わりかな、と……まだあった。なあ、穂高』
いたところ、
「えっ、あ、ひゃいっ!」
驚いたちなみが
『また
はっとして机の横を見ると、いつもそこにかけているスクールバッグがなかった。何か忘れている気はしていたけれど、家から持ってきたもの全部、バッグごと下駄箱に置いてきてしまったらしい。
「……またやっちゃったみたいです!」
『これで八回目か? そろそろ席に着いた時に気付こうな?
「わかりました!」
ちなみがそう返すと、『毎回、返事だけはいいんだよなあ』とぼやきながら、担任教師は
「おい、またかよお前」
担任がいなくなって教室内が
「なんでスクバを一回下に置くんだよ。持ったまま
「もー、ママはうるさいなあ」
席を立ちつつ、和歌にそう言い返す。
「ママちゃうわ。なんでお前はポロポロポロポロ落とし物するかな」
「それがちなみちゃんの
ふふん、と得意げに胸を張ったちなみに、和歌が「
「じゃあついでに聞いて来いよ。『私の記憶も落ちてませんでしたか』って」
「そんなわけないでしょ。和歌ったらもうボケちゃった?」
「お前に言われると腹立つわ。いいから行ってこい」
しっし、と和歌が手を振る。それに「はーい」と返事をして、ちなみは教室を後にした。
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〈近況ノートにて機体やキャラの設定イラストを公開中です〉
・穂高ちなみ
https://kakuyomu.jp/users/kopaka/news/16818093083242676429
・VBB-1 ヴェスパ二脚兵装
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