第5話 魔界の姫、猫耳の涙。


 いらっしゃいませえ。

 文化祭名物、占いカフェ、いかがですかにゃあ。

 可愛い猫耳メイドさんがあなたのお悩み、占っちゃうにゃん。

 気になる彼の気持ち、あの子のこころ、知りたくにゃいですかあ。


 いらっしゃいませえ。

 いらっしゃ……い……っ。

 ……。


 あ、ちょっと、ええと、む、難しいお悩みのお客さん来たので、あたし受けもつからね。奥のテーブル借りまあす。えへへ。

 お、お客さま、こちらへどうぞ、にゃ……。


 ……ちょっと。

 なんで来るのよ。

 あんたのクラス、演劇でしょ。あたしの出番の時間はあんたも出番だから来られないよって言ってたじゃん。

 え、どうしても占ってほしいことがあって役を代わってもらった? あたしに占ってほしいってこと? え、あたしじゃない? どういうこと……って、え、うそ。ええええ……うう。


 こほん。

 にふふ。


 ちと身体の制御を奪うまでに手間取ったわい。にふふ。

 どうじゃ。魔物としての修行は進んでおるか。ここ数日は文化祭なる人間界の奇祭の準備に、そなたもこの娘も忙しゅうて会えなかったようじゃな。


 む、なんでそんなひそひそ声なの、じゃと。

 う、うむ。今日はの、猫型獣人に擬態をしておってな。周囲をみよ。みな猫型ばかりじゃろう。あれらはの、人間界の最終兵器じゃ。我ら魔界の進出に備えて人間側が編み出した、恐るべき変化の術じゃ。

 じゃから今日は、潜入調査じゃ。わらわの声が漏れれば命はない。そなたものう。くふふ。気をつけよ。

 じゃによって、もそっと、くっつけ。ほれ。こっち。

 ……あいた。

 お、おでここっつん、してもうた。

 にふ、ふ、大事ないか、痛うなかったか。


 え、なんじゃと。

 そんなことより、あれ、ないの、とはどういうことか。あれとは。

 ……って、いやいや、あれはわらわでのうて、この娘の仕事で……。

 ……うう。是非もなし。


 にゃん!

 ご主人しゃま、いらっしゃいませえ!

 どんな悩みも猫耳メイドにおまかせにゃん!

 あにゃたのにゃやみ、きかせてくださいいいいい、にゃんっ!


 ……。

 

 さ、さて。

 なにやら占ってほしいことがあるとな。

 任せよ。わらわの千里眼はの、時も空間も超えてあまねく事象を見通すのじゃ。何が知りたい。明日の天気か。今夜の空模様か。勉強のこと以外ならなんでも訊ねるがよい。あ、購買の明日のパンはの、あんバターサンドじゃ。にふふ。


 なに。

 気持ちを知りたい、ひとがいる、と。


 そ、そうか。にふふ。相手はどんな者じゃ。ほう、友人か。

 にふふ、そなたが仲が良い男子といえば、ええと……。


 え。

 男子じゃ、ない。


 女子、なのか。


 そうか。

 そう、か。


 ……うむ。

 そうか。うん。

 わかった。


 よいぞ。

 なんでも訊くがよい。にふふ。

 どんな子じゃ。そなたが選んだのじゃから、間違いはなかろうな。うむ、この魔姫まきさまにどおんと任せよ。必ずその子のこころ、そなたに導いてやろう。

 

 しばし待てよ、タロットカードを、切るゆえな。

 よっ、と。ふふ、わらわはこれが、苦手での。練習のときも一度もうまくいかなかった。じゃが、気合い入れて切るぞ。

 そなたの、なにより大事な質問じゃから、の。

 が、なにやら……いつもよりうまく、ゆかぬ。にふふ。


 む。案ずるな。

 ちと目に、ほこりが入っての。擦っておるだけじゃ。

 に、ふふ。


 そっかあ。


 ……よし、切れた。

 この束からの、好きなカードを三枚、抜くがよい。抜いたら裏返さずに、その子のことを想いながら、自分で混ぜるのじゃ。納得いくまで、なんども、の。

 よし、抜いたな。混ぜよ。うむ、上下もよく入れ替わるようにの。

 そうしたら開いてみよ。

 

 ふむ。ぜんぶ正位置、そなたに向いておる。強い意味になるのう。

 どれ……死神と、ワンドの八、カップの二、か。

 ふ。やりおるの、そなた。


 過去の自分から離れて、生まれ変わった気持ちで相手のことをまっすぐに想うておる。強い強い、想いじゃ。その気持ちは相手にも、もはや届いておるな。

 相手ももう、そなたを意識しとる。

 これから急に関係が進みすぎるゆえ、戸惑いもあろう。じゃが、うまくゆく。

 うまく、ゆくぞ。

 よかったな。


 にふふ。

 ふう。

 

 さて。

 もう一度占ってやろう。三回までできることになっておるのじゃ。今度はなにを見てやろうか。

 そうじゃ、その子の好きな食べ物とか、行きたい場所とか、どうじゃ。そういうの押さえておくのは、対女子戦略としては、まこと大事じゃぞ。


 ん。もう、知っておる、と。そうか。仲が良いのじゃな。くれぐれも相手の嫌がるところ、連れてったりせんようにな。

 なんじゃ。どうして横を向いておる。しまった、というような顔をして。なに、もう無理やり連れてった、じゃと。

 馬鹿者。愚か者。

 でも、あんがい楽しそうじゃった、と。む。そうか……それはの、その子がよっぽど、そなたのこと好きなんじゃ。そなたとなら、どこに行っても、なにをしても、楽しいのじゃ。

 良かったな。


 さて、占うことがないのであれば、わらわは呼び込みに戻るぞ。そなたも演劇の出番、来るのじゃろう。戻った方がよい。

 それで、な。よかったらいつか、紹介してくれぬか。その子。

 邪魔はせぬゆえ。


 なんじゃ。

 なにをくすくすと、笑うておる。

 

 む、紹介はできぬ、と。

 そうか……まあ、そうじゃろうな。にふふ。うむ。わかった。邪魔はせぬよ。

 では、そうじゃな、好きな食べ物くらいは訊いてもよいか。わらわも良い店、考えてやるゆえ。


 ほう、お好み焼き。ふふ、そんなものが好きなのか。なに、ひっくり返すのがものすごく下手くそで、でも、その仕草を見てると楽しくなって、嬉しくなって。そなた、どれだけ好きなんじゃ、その子のことが。


 好きな場所は、遊園地。子供のような娘じゃな。お好み焼きと遊園地が好きなどと。でも怖いものが苦手で、お化け屋敷が大嫌い、と。うんうん、わかるわかる、あれは駄目じゃ。にふふ。


 そなたとわらわも、二人で行ったのう。

 お好み焼きも、遊園地も、ほんとうに美味しくて、楽しか……った……。

 

 ……え。


 え。

 


 

 

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